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謎な婚約者

竜王国上空を飛んでいた王竜が突然神殿に戻ると言い出して、ロイドは胸騒ぎを覚えた。

どうして戻りたいと言い出したのかヒスイは何も言わなかったが、何故か自分絡みのことで嫌なことが起こっているのではと思えたのだ。

最初は心配してリナの側にいたロイドだが、いつまでも警戒して彼女の側にいるわけにもいかない。竜騎士としての本来の任務をしなければいけないため、今日はヒスイと一緒に空へ飛んだ。

ヒスイは特に文句を言うこともなく、ロイドが一緒に飛ばなかったことを責めることはしない。大切な相棒ではあるが、いつも背にいる必要性を感じないのだろう。事情を知っているからこそあえて何も言わないでいてくれるのだと思っている。

グリンズ王家とは縁が切れているとロイドは思っていても、相手がどこまで理解しているのかわからない。そのためリナが巻き込まれてひどい目に遭う可能性もある。それを避けたいロイドの気持ちをヒスイは理解してくれていると思いたい。

王竜にとって人間社会など特に気にするものでもない。国が乱れて争いが起こらないようにバランスを保っていることを監視するのが役目だ。国の中で起こっている些細なことに興味などない。

それでも相棒に選んだ竜騎士の事情には少しばかり心を砕いてくれる。

『騒がしい』

頭の中に響いた声はその言葉だけだった。

何がと問う前に、ヒスイが神殿の上空に到着する。

そのまま王竜の間へと降りて行くと、天井があるのにそれをすり抜けて室内の台座へと降り立った。毎回通るが、一度も天井に触れたことがない。この神殿を作った当初に施してくれた魔方陣は今でも有効だと証明していて、その当時の魔法師の実力を思い知らされる。

台座に降り立つとロイドはすぐに兜を取り去り、ヒスイから飛び降りて駆け出した。

『リナの部屋だ』

それだけが頭に響いたが十分だ。王竜の間を飛び出してホールを通り過ぎてリナの部屋へと続く廊下を走り抜けようとした時、廊下の先に人だかりができていることがわかった。

見たことのない男が3人。だが見たことのある騎士服を身に着けている。

男たちに囲まれるように女性が1人、ロイドに背を向けていた。波打つ金髪が特徴的だが、それよりもその女性と向かい合っているリナを見つけてロイドは鼓動が大きく跳ねるのを感じた。

何故か彼女はアスロを背中に庇うようにして立ち、まっすぐな視線を金髪の女性に向けていた。

今は平民であり竜騎士の妻だが、元ギュンター王国の侯爵令嬢。その姿は凛々しく決して怯むことのない姿勢がロイドには眩しく見えた。

「何をしている」

まっすぐに対峙していたリナが視線を向けてくる。男たちや金髪の女性も振り返ったが、それよりも視線が合った愛おしい妻がロイドを見て明らかにほっとした柔らかい表情を一瞬向けてくれたことが、嬉しいと思えた。

きっと、ロイドが来るまで何とか耐えなければと自分を奮い立たせていたのだろう。

そう思うと、振り返った視線を受けたロイドは自分のするべきことが何かを確認して一歩前に進み出た。

「何をしている」

もう一度問いかけると、金髪の女性が口を半開きにして目を見開いた。少し間抜けな表情だが、ロイドの顔を見て驚きと戸惑いがあることはわかった。

自分の顔が異性から好意を寄せられることをよく知っている。初めて会う女性は大抵驚いた顔をする。その後、ロイドに好かれようと急にしおらしくなったり、擦り寄ってこようとする者が多い。

グリンズ王国にいた時も、そんな経験は何度かあった。案の定金髪の女性は驚いた後、言葉に詰まったように視線を逸らしたかと思うと、しおらしい女性を装いながら恥ずかしそうな態度を取り始めた。

「ロイド第3王子殿下ではありませんか」

昔そんな風に呼ばれたこともあったなと思う。捨ててしまった立場を今になって呼んでくるところから、グリンズ王国からの何らかのアプローチが始まったのだと悟ることができた。男たちの服装からグリンズの騎士だということもわかっていた。

『認めたのはリナだけだ』

突然響いた声に、何のことかわからなかった。ヒスイが言ったからには意味があるのだろう。

リナに視線を向けると、彼女は少し不安なのか瞳を揺らしていた。

すぐに駆け寄って抱きしめたい気持ちがあったが、今は目の前のことを片付ける方が先になる。

「誰だ?」

冷たい言葉に金髪の女性が肩を震わせた。

「わたくしは、グリンズ王国ドルフェイヤ侯爵家長女、マリアナ=ドルフェイヤと申します」

「侯爵令嬢がここに何用で来た」

短い問いかけにマリアナはなぜか顔を明るくした。

次に聞いた言葉はロイドの予想をはるかに超える内容で、頭が痛くなりそうなことだった。

「わたくしは、ロイド第3王子殿下の許嫁であり、婚約者としてここへ参りました」

「・・・は?」

まったくもって意味不明ではある。ロイドは少しの間思考が停止する自覚を持つこととなった。


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