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監視役

いつも通りの時間に目が覚めると、隣を確認する。

今日も愛しい妻はロイドではなく毛布を選んでぬくぬくと夢の中にいるようだった。

「まだ駄目か・・・」

自分の過去を話したことで心が軽くなったような気がしていた。それにリナは話が終わっても態度を変えることなくロイドを受け入れてくれている。

それがどれだけ救いになっているのか、彼女は理解していないだろう。

後は目覚めた時に腕の中にいてくれたらもっと嬉しいのだが、相変わらずここだけは譲れないのか、ロイドよりも毛布の暖かさを選んでしまっていた。

もっと春になって暖かくなってきたらロイドを選んでくれるのだろうが、それがいつになるのか今のところ予想ができなかった。

仕方がないと思いつつ、いつも通り髪を掬い取ると軽いキスをしてから着替えて寝室を出た。

隣の部屋に移動してすぐに廊下へと出る扉に目を向ける。

いつもならそのまま部屋を出て庭へと行くのだが、今日はそれができないだろうと思った。

扉を開けて一歩廊下に出ると、まっすぐ前を向いたままロイドは質問を投げかけた。

「出発するつもりですか?」

「本当ならもう少しここに居るつもりだったが、あまりにも予想外の事が起こったからな。行くべき場所ができた以上、すぐに出るつもりだ。一応挨拶くらいはしておこうと思って来た」

顔を向けなくても、壁に背中を預けて腕を組みながら窓の外を眺めているマルスがいることはすぐにわかった。気配を消すこともなく、逆に存在を明らかにするような気配があったからだ。

「正直、お前が結婚するとは思わなかった」

「師匠の許可はいらないでしょう」

「それはそうだが、お前の事情を考えると竜騎士となって王家との縁が切れたと言っても、お前はグリンズ王家の血筋だ。子孫を残せる可能性を自ら主張したことになる。それを王家がどう捉えるのかわからないぞ」

マルスが心配しているのは王族としての血筋だ。ロイドは第3王子であり現国王の子供だ。

「廃嫡の手続きはされています。母も王家とは関係のない人間になりました。いまさら俺が結婚したとわかっても、大騒ぎするようなことでもないでしょう」

「そういう風に切り捨ててくれる考えの人たちなら、何も起きないと思うが・・・国王の子供だという認識が残っていれば、正妃や王子がどうでるかな」

国王が何かしてくるとは思っていない。心配しているのは正妃とその子供である王子の方だった。

側妃を虐げ離宮に追いやり、その子供であるロイドのことも虐めてきた。

出て行ってスッキリしていたかと思えば、竜騎士となり結婚までして幸せになっていると知った時、彼らはいったい何を考えるだろう。

「妬んできたとしても、それは逆恨みでしょう」

それにロイドに何か仕掛けてきたときは、竜騎士に対しての攻撃とみなされる可能性が大きい。そうなると当然王竜が動ける。

王竜や王竜に属する者への悪意ある攻撃にはヒスイが動く理由ができるのだ。そうなればグリンズ王国自体が危機を招くことになる。

彼らがそこまで考えてくれればロイドに何かしてくることはないはずだ。

「あまり甘く考えない方がいい。俺が監視役になったのも、お前の動きを気にしているからだ」

「わかってます」

マルス=ミモレト。元グリンズ王国騎士団の第1騎士隊長を務めていた。将来的に騎士団長になれる実力を持っていた彼だが、昇格することにそれほどこだわりはなく、自分の腕の実力を発揮できればいいと思う性格だ。

偶然ロイドと出会い、虐められている彼に好奇心で剣を学ばせたのだ。それがロイドの才能を知り、こっそりではあるが特別に指導してくれた恩人でもある。

ロイドが国を出て竜騎士に選ばれたという噂を聞きつけると、マルスはすぐに騎士団を辞めた。その後ロイドのところに顔を出した彼は弟子が大成したことで、騎士団にいる意味がなくなったと話していたが、実のところ王家からロイドの監視役にさせられたのだ。リナにはそこまでの詳しいことは話せなかった。監視役になっていると知れば余計な心配をさせてしまうし、マルスに対して警戒心を持ってしまう。

もう少しマルスのことを知ってから話した方が彼女の心も受け入れやすくなるはずだ。

マルスは誰にもロイドに剣を教えていたことは秘密にしていたが、騎士団長や国王は知っていたのだ。そのため師匠である彼が見張り役になることは押し付けられる形でなった。

それでもロイドとの繋がりで来たことを彼なりに喜んでいるのか、監視役としての役目だけはきっちりとこなしている。

竜騎士として王竜とともに竜王国で暮らしているだけの報告なら、こちらも問題として考えていないので、監視役だとわかっていてもあえて受け入れている。

「上手く報告しておいてください」

「うわぁ、他人事みたいに言うなよ」

結婚したことが知られると、きっとリナについても調査を始める可能性はある。聖女であるということが知られるのはまずいが、伴侶がいることを知られるのは問題ない。

「竜騎士が結婚して幸せを掴むことは許されています。ヒスイが許可した以上、誰にも覆せません」

王竜は竜王国での頂点に立つ存在。その王竜がロイドの結婚を認めたのだ。他国の人間が何を言っても無駄である。

「なんとなく王妃様がどんな顔をするのか想像がつくんだよな」

ため息交じりに言われても、ロイドの管轄外だ。

「確か第1王子は結婚していて後継者もいたはずです。いまさら俺が結婚したからと言って、グリンズ王家に影響はないでしょう」

ロイドとリナの間に子供が生まれたとしても、すでに廃嫡されているロイドに王位継承権はない。王家が揺らぐようなことは何もないのだから心配する必要もない。

それでもマルスが心配しているのは伝わってくる。

「とりあえず用心だけはしておけ。お前の奥方は戦闘には向いていないだろう。もしもの時を考えて行動するようにしておいた方がいい」

そう忠告すると、マルスは壁から離れて背を向けて歩き出した。

そのまま神殿を出て行くつもりなのだろう。まだ明け方ということで街への検問所は開いていない。だが彼の剣の腕なら森を突っ切っていくことは可能だ。魔物に遭遇しても怪我をすることはないだろう。ここへ来た時も早朝の襲撃をしてきたが、森を直接通ってやって来たはずだ。

「心配しなくても、リナには幸運と護りがあるから大丈夫なんだが」

呟きはマルスには聞こえない。聖女の力を話すわけにはいかない。

リナが襲われても幸運が味方をしてくれるので怪我をすることはないはずだ。それに国を護れるほどの守護の力がある。

街に出かける時に必ず護衛役を付けているが、実はほとんど必要ない可能性があった。それでも彼女の不思議な力に気が付く存在がいては困るので、竜騎士の妻の護衛として誰かが側にいるようにしていた。

すでに見えなくなった背中はどこか寂しさを漂わせていたように感じたが、それを気にすることなくロイドは再び部屋へと戻っていった。


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