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新婚説明

先ほどからじっと見つめられて、リナは居心地が悪かった。

とりあえず話をするため神殿に入ったリナ達は、神殿を訪れた人々が休めるようにと用意してある談話室へと行き、座って話をすることになった。

マルスからの視線が突き刺さってどうにも落ち着かないでいると、それを邪魔するように隣に座るロイドがリナを引き寄せてくれた。

「見過ぎです」

「だって、結婚したとかいきなり言われて、はいそうですかと理解できるわけないだろう」

「理解してください。ヒスイからも承諾は得ています」

「いや、王竜がどうというより、俺の理解が追いついてこないんだよ」

「久々に会った弟子が結婚していた。それだけのことです」

マルスが困ったように話しかけているが、ロイドは事後報告として他の意見を受け付けることなく淡々と話していく。リナは口を挟む隙を見つけようとしたが、2人の会話を聞いていると無理だとすぐに判断して諦めた。

「えっと、リナさんだったかな?」

「はい」

2人の会話が続いていくと思っていると、急に声を掛けられた。

「本当にこいつと結婚したのか?」

まだ信じられていないようでマルスはリナにまで確認をしてくる。その態度に隣のロイドがイラついた気配を感じたが、リナは気づかないようにニコリと笑って口を開いた。

「はい。半年はまだ経っていませんが、昨年の秋に夫婦になりました」

詳しい経緯を話すと長くなる。出会ってひと月も経たずに婚約者となり、リナの事情に巻き込んでしまったが、それが解決するとロイドのプロポーズを受け入れたのだ。

よくよく考えると随分と早い婚約と結婚だった。神殿の者たちは皆祝福してくれて、何よりも王竜ヒスイが認めてくれていたので何の問題もなく夫婦となっていた。

「そうか、本当に結婚したのか・・・」

リナの発言でマルスはやっと理解してくれたのかそれ以上疑うような発言をしなかった。ただ、彼がロイドとリナの結婚を心の底から喜んでくれていない気が彼の態度でなんとなく察することができた。

理解する前も今も彼は2人に『おめでとう』と言うことがなかったからだ。

それはロイドも気づいていたかもしれない。彼の横顔を窺うとどこか影を纏っているように見えてしまった。

剣の師だというマルスからお祝いの言葉を贈ってもらえないのはきっと悲しいことだろう。だが、リナはそれを口にしてはいけないような気がして黙っていることにした。2人の詳しい関係を知らないという理由もある。そのかわり、そっとロイドの手に自分の手を重ねた。それだけでリナの気持ちが伝わったのか、一瞬こちらを見たロイドはフッと穏やかな笑みを見せてくれる。

「師匠、今日は泊まっていきますか?」

「そうだな。数日世話になるつもりで来た。部屋は、いつも通りどこか空いているだろう」

話を切り替えるようにロイドが尋ねると、マルスは当然のように神殿の部屋が余っていることを知っていた。

神殿に住んでいる者たちは1階に部屋があるが、街に戻れなくて泊まることになった客人は2階に泊まる。それ以外にも王侯貴族が来た時のための広い部屋が3階にある。どの部屋も一泊するだけに使うためベッドと食事するためのイスとテーブルがあるだけ。

リナも初めてここへ来た時は数日泊めてもらったが、他に泊まる人を見たことがなかった。

「街の宿を使われないのですね」

素朴な疑問が口に出ていた。余計なことを聞いてしまったと思って口元を指で押さえると、マルスが笑いながら答えてくれる。

「俺はロイドに会うためにここに来たから、神殿に泊まった方が効率がいい。それに街で宿に泊まると金もかかる」

無料で泊まれて食事付き。王竜がすぐそばにいるという恐怖さえなければ神殿に泊まった方が確実に経済面で助かるのだ。

泊まったことのあるリナもマルスの言うことを納得できてしまった。

「せっかく久々に来たからには、お前の剣の腕が鈍っていないか確認もしないといけないだろう」

「今朝ので確認はできたのでは?」

「不意打ちの襲撃をしてみたが、ちゃんと対処していたな。でも、あれは途中で止めただろう。もっと手合わせしないと」

リナが庭に入ってきたため2人は剣を納めてしまった。邪魔をしてしまったことに気が付いて申し訳ないと思ったが、あの時は驚いて庭に飛び出してしまったのだ。

いつものように目が覚めると、ロイドは隣にいなかった。庭に行ったのだとわかっていたので、彼の鍛錬を見学するために着替えてコートも着てから部屋を出た。

庭が見える窓からまずは様子を窺おうとした時、いつもと違う金属のぶつかり合う音に違和感を覚えた。

庭を見てみれば黒マントと対峙しているロイドがいたことに驚いて、リナは慌てて庭へと出られる大きな窓へと駆けて行ったのだ。

あの後すぐにロイドからこういう時は庭に出てこないで神殿内にいるようにと注意された。戦う力を持っていないリナが飛び出していったとして、足手まといになるのは明らかだ。そのことは反省するしかない。

「邪魔をしてしまってごめんなさい」

改めて謝罪をすると、隣に座るロイドがそっと肩を擦ってきた。

「そんなに落ち込まなくても、次から気を付ければいいだけだ」

優しい触れ合いにほっとしながら彼を見上げれば、ロイドが静かに額にキスを落としてきた。

「ロ、ロイド。人前なのに」

目の前には剣の師匠がいるというのに、彼は悪びれることなく自然に触れてきていた。

「・・・・・まじかよ」

なぜかマルスの方が恥ずかしそうに目元を手で覆って天井を向いてしまっている。

「見せつけておかないと、夫婦だということをまた疑われそうなので」

そこまで師匠にアピールする必要がはたしてあるのだろうか。

恥ずかしさと照れ臭さでリナはとりあえず赤くなった頬を両手で押さえることしかできなかった。

その後すぐにマルスを空いている部屋へと案内できたが、しばらくは彼の前で夫婦としての触れ合いが増えるのかと思うと、嬉しいような恥ずかしいような気持ちで、しばらくリナは落ち着かないことになるのだった。


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