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偽聖女として烙印を押されたら、竜騎士の花嫁に抜擢されました  作者: ハナショウブ
聖女としての決着
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大神官

「王竜の神殿の方がはるかに大きいな」

ロイドの感想を聞きながら、リナは目の前に建っているギュンター王国で神を崇拝する神殿を見渡した。

「王竜の神殿は他国で言えばお城と同じ存在ですから大きいと思います。たぶん、ギュンター城よりも大きいような気がしていましたから」

初めて王竜の神殿を見た時、リナが知っているギュンターの城と比較したことを思い出した。それらと比べると、目の前の神殿は小さく見えてしまう。

「王竜の神殿は王竜の間が広いのと、部屋の数だけ多いからな。ほとんどが使われていないことを考えると、城や他国の神殿のほうがずっと使用価値はあるだろう」

宿泊できる部屋を用意しているが、そのほとんどが使われることがない。使用人もごく僅かで、神官はロゼスト1人だ。見た目だけデカいのだとロイドは言っている。

「使う用途が違いますから仕方ありませんよ」

いつまでも神殿を眺めているわけにもいかず、リナは神殿の入り口に向かって歩き出した。

そのすぐ後ろをロイドが付いてくる。

2人は今ギュンター王国の聖女選定が行われている神殿へと来ていた。

バード殿下からの説明を受けて、リナはすぐに大神官へと手紙を送っていた。

聖女でありながら竜王国で暮らしていくことを承諾してくれた礼と、聖女として認められたのなら、結界を強化するための祈りをするために一度神殿を訪れたいと書いておいた。

聖女選定で聖花を咲かせた令嬢は1か月後に、聖花が美しく咲いていることを確認すると、神殿で祈りを捧げることになっている。その祈りで王都を守る結界が強化されたと判断されれば聖女として認められるのだ。

聖花は咲かせたが、ミルによって奪われてしまい枯らせてしまった。竜王国でもう一度聖花を咲かせているが、まだ1か月は経っていない。それでも聖女選定が始まったことが国民に伝えられてから1か月はとうに過ぎていた。もう聖女の発表があってもいい時期だ。それをいつまでも先延ばしにしていれば国民は不安を覚え、神殿に不信感を抱く者も現れる可能性があった。

そのためリナはできるだけ早く結界の強化を行い、新しい聖女が生まれたことを知らせるべきだと思った。

返事はすぐに届いた。大神官はいつでも受け入れるという内容だったので、リナはすぐにギュンターに行くことを決めた。

「まさかロイド様が一緒に来てくれるとは考えていませんでした」

「大事な婚約者を他国に1人で行かせるわけにはいかないだろう。特に聖女を欲している国には」

ギュンターに行きたいと言った時は驚いた顔をしていたが、事情をわかっているロイドはすぐにヒスイと相談して行く日取りを決めてくれた。王竜が直接来ることはできないし、竜騎士も他国への干渉は良くないはずだ。タイトかスカイを護衛に行くことになるだろうと予想していたのだが、驚くことにロイドが護衛役となってくれた。

今は竜騎士としての恰好ではなく、雇われ傭兵の格好をしている。銀髪はギュンターでは珍しいが、それ以上に彼の整った顔は目立つのでフードは必ず被っての護衛となる。

リナも顔を隠すようにフードを被っているが、王都に入ると知っている相手に出会う可能性が高くなることを考えての行動だ。お互い違う理由で目立たないようにしていた。

神殿の入り口までたどり着くと、リナの顔を確認した神官が慌てた様子で神殿内へと案内し始めた。

神殿に入りフードを脱いだリナは、案内されるままに神官について行く。その後ろをまだ顔を隠したままロイドが歩いてきた。

廊下をすれ違う神官たちがリナの顔を見るなり驚いた表情をするが、それも一瞬ですぐに頭を下げて廊下の端へと体を動かした。

すべての神官がリナの事情を知っているようだ。おそらく大神官から通達があったのだろう。リナに対しての対応は完全に聖女としての扱いへと変わっていた。

「こちらへどうぞ」

辿り着いたのは1つの部屋だった。扉が他のものとは明らかに違う重厚感を感じさせる。特別な部屋なのだとそれだけで伝わってくる。

神官がノックをすると中から声が聞こえてきた。

「失礼いたします。リナ=ブラウテッド侯爵令嬢様がお見えになりました」

ブラウテッド侯爵家とは縁が切れているので侯爵令嬢ではないのだが、そこは無視してリナは部屋へと足を踏み入れた。

「リナ様。お待ちしておりました」

入るなり落ち着いた声が聞こえてくる。ローテーブルを挟んで向かい合ったソファがあるだけのシンプルな部屋。調度品もなく、殺風景に見える部屋なのだが、そこにいる人物のせいなのか、寒々しさを感じることなく、静かで落ち着いた暖かみを感じさせる部屋だと思えた。

ソファから立ち上がった白いローブを纏った初老の男性は、穏やかな笑みを見せながらリナへと軽く会釈をした。

「わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」

目の前にはギュンター王国で神を祀る神殿の総責任者である大神官がいた。

もう60歳は過ぎていると聞いている。年を感じさせるように髪は白くなっているが、しっかりと張られた背筋にまっすぐリナを捉える茶色の瞳は力強さがある。

大神官ハーバル=エルガ。

リナへと向ける視線は穏やかですべてを包み込んでくれそうな優しさがあるように感じられた。

こんな人が聖女選定で謝った判断をしていた王子や、欲望のままに動いた神官たちを見過ごしたのかと思うと残念な気持ちになってしまう。

「エルガ大神官様にお会いできて光栄です」

リナが淑女の礼で挨拶をすると、隣に立っていたロイドも無言で会釈をした。今は護衛という立場なので発言をしないようにしている。

「リナ様が私の願いを叶えてくださること感謝しておりました。それと、今回の聖女選定に関して大変な思いをさせてしまったこと、心より謝罪いたします」

頭を下げたハーバルに、リナは自然と苦笑してしまった。

彼がしでかしたことではないが、大神官としての責任はあるだろう。心からの謝罪なのだとわかるが、何もしなかった彼に対しての呆れのような感情が出てしまった。貴族令嬢としては感情を表に出すことなくいつも笑顔でいることが基本なのだが、もう貴族ではないことと、竜王国で過ごしてきた日々が、リナを感情豊かにしてきたようだ。

「今回のようなことが私だけで済むことを願っています」

二度と同じような過ちを繰り返さないでほしい。その願いを込めて言うと、顔を上げたハーバルは申し訳なさそうにしながらも決意を込めた瞳をしていた。

挨拶が済んだところで向かい合って座る。ロイドはリナの後ろに本来立つはずだったが、彼は何も言わずにリナの隣に座り、顔を隠していたフードを取った。ハーバルが一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、ロイドの顔を見て何かを悟ったようだった。何も言わずにリナへと話しかけてきた。

「バード殿下から今後のことをお聞きになっていると思います」

「聖女に関して、聖女が誕生したことは公表しなければいけないけれど、名前も顔も晒すことなく引きこもりの聖女として私が出ることはないと聞きました」

聖女選定が行われている以上、聖女が選ばれたことは公表しなければいけない。それに結界も弱まってきているため、このまま放っておくことはできない。国民が不安に思うことがないように、結界の強化がされたことも同時に発表する必要がある。

「私は年に1度聖女として神殿で結界の強化をするための祈りを捧げればいいということですね」

「そうです。最低限それだけは聖女としての仕事をしていただければ、後のことはすべて神殿がやります。神官たちで補うことは可能ですから」

聖女として巡礼や神殿での祝福もあるのだが、巡礼自体は行われず、聖女が誕生したことだけが知らされることになる。必要なら神官たちが説明に行く。祝福も神官たちがすれば聖女が姿を見せなくてもやっていけるのだ。

確認するように質問するとハーバルはすべてを了承するように頷いた。

「すべては神殿の失態。聖女であるリナ様が望まないことを我々が強要することはできません」

聖女であるリナを国外追放した王家にも問題があるが、それを見ていただけの大神官も深い反省を示さなくてはいけない。それが聖女を隠し、リナを自由にするという選択になった。

国に戻りたいと願えば叶っただろうが、リナ自身竜王国で暮らしていきたいと願った。そのためこの結果になったのだ。

確認が終わったことでハーバルが立ち上がった。

「それでは聖女として認めるための最後の試験を受けに行きましょうか」

リナが聖女であると認めている大神官だが、まだリナには聖女として認めてもらうための試練があった。

神殿で祈りを捧げ、王都に張られている結界を強化できてこそ聖女となれる。

すでに王竜が聖女として認めていて、聖花を咲かせたことで神殿側もリナが聖女であると確信しているが、結界を強化できなければ聖女としての公表はできない。

促されるまま部屋を出ようとするとロイドも立ち上がってついてこようとした。だがそれをリナは制した。

「ロイド様はここで待っていてください」

小声で言うと、彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに無表情になった。だがその目は心配しているのがわかる。

「ここからは聖女として認められるか最後の審判です。私1人で行かなければいけません」

祈りを捧げる間は大神官と聖女以外は入れないことになっている。その部屋で神に祈りを捧げ結界の強化がされたかどうか大神官自ら確かめることになる。他の者が入ることは許されない。

「・・・わかった」

まだ心配そうな視線を向けてくるがロイドは素直に退いた。

「だが、何かあればすぐに知らせろ」

大神官について行こうとすると優しく手を取られた。その手の甲にそっと口づけが落とされてどきりとしてしまう。彼の美貌と優美な動きは一国の姫への忠誠心を表す騎士のように見えてしまう。

彼の距離が急接近する行為は婚約者になったからといって、そうやすやすと慣れるものではない。

手が離れるとすぐに部屋を出る。

部屋の外で待っていたハーバルはロイドが何をしていたのか見ていなかったようで部屋から出てきたリナを見て首を傾げていた。

「どうかしましたか?」

「なんでもありません」

確実に頬が熱を持っていることを理解しながら、何事もなかったように返事をしたリナはそのまま聖女が祈りを捧げる部屋へと案内されていった。


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