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散策

情けないような恥ずかしいようなそれでも嬉しい気持ちもあって、リナは部屋で悶々とした気分を味わっていた。

ミル=ブラウテッドの訪問でリナは完全にギュンターに帰らないことを宣言した。いろいろと理由をつけて連れ帰ろうとしていたようだが、途中で現れたロイドのおかげもあって暴力的なことは起こらずにミルを神殿から帰すことができたと思っている。

憔悴していたようだが、護衛騎士に連れられた彼女は検問所が閉まる前に街に戻れたと聞いた。すぐにでもギュンターに戻ることになるだろう。その後のことはミル次第であり、リナには関係のないことだ。

すぐに部屋で休むことになったリナだったが、そのあとずっとロイドが側にいてくれた。と言っても、リナは自分の部屋で休むことになり、隣のロイドの部屋と繋がっている扉が開けっ放しになって、何度もロイドがそこから顔を出して様子を見に来るという状況だった。

アスロも顔を出してはリナの世話を焼こうとして、病人でもないのに部屋から出られない状況となってしまったのは予想外であった。

心配されているのはわかるが、過保護すぎる気もする。

次の日もロイドは王竜と一緒に空へ行くことはなく、時間の許す限りリナの側にいた。なぜか彼が世話をしようとするので、そのたびに申し訳なさと恥ずかしさが込み上げつつ、一緒に居られる時間に嬉しさもあった。そのことを口にすると、彼は穏やかな笑みを浮かべて婚約者なのだからと言ってくる。

それがなんだかむず痒く感じるのは、未だに婚約者という立場に慣れていないせいかもしれない。

複雑な心境を抱えていたが、ロイドは気にすることなくリナを労わってくれた。

「もうそろそろ部屋を出たいわ」

「庭の散歩でもするか?もう寒くなってきているから、暖かくして外に出たほうがいい」

窓の外を眺めて呟くと、クローゼットの中を確認して厚手のコートでも出してきそうなロイドに慌てる。

「だ、大丈夫。自分でできます」

婚約者とはいえ、着て行く服まで選ばせていたら申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

病人でも怪我人でもないのだ。これくらいは自分でやらなければとクローゼットの前に立った。

そこでロイドがじっとこちらを見ていることに気が付く。

「一緒に散歩に行くのではないのですか?」

彼もコートを取りに行くと思っていたが、リナ1人で行かせるつもりだろうか。

「いや、一緒に行く。まだ1人にするには危険だろうし」

「危険?」

心配されているのだと思っていたが、何が危険なのだろうと疑問に思う。ミルとのことは解決したつもりだ。彼女がまた何かするために戻って来たとしても力づくで神殿から連れ出すようなことはできないと思っている。

「侯爵令嬢のことは済んだと思っていいのかもしれないが、まだ神殿や王家のことがある。油断はしない方がいい」

ミルが侯爵令嬢としての立場で来たのなら、侯爵家との決別ができただけ。神殿の命令でここへ来たのだと思っていたリナは、神殿との決別もできたのだろうと思っていた。

「今回のミルの行動は神殿の意向が反映されていると思います。ミルが交渉に失敗した以上、神殿も手を出せなくなったと思っているのですが、ロイド様はそう考えていないようですね」

聖女として公に認められたわけではないが、神殿側もミル=ブラウテッドを聖女にしようとしている。もう一度リナの力を借りられればミルが聖花を咲かせたと偽装できると軽く考えていたのだろう。

「君の妹に交渉を任せたからと言って、神殿側が諦めたと結論付けるのは早いだろう。それに王国側がどう判断しているのかまだわからない」

ミルと話をしていた限りでは王子殿下は聖花が枯れたことをまだ知らされていないようだ。王子は未だにミルが聖女だと信じているのだろう。

もしも、ミルが聖女ではなくリナが本物だと気が付けば、王家としても動きを見せる可能性は大きい。

「国を相手にする可能性がありますね」

そうなったとしてもリナはギュンターに戻りたくなかった。本物の聖女だったと王子から謝罪され聖女として神殿に仕えることになっても、心から国を守りたいと願えるかと自分に問えば、否と答えてしまう自信がある。

「国の動きとなればヒスイも動ける。無理やり竜騎士の妻を連れて行くことをするなら、王竜に属する者を害したとして怒りを買うことになるからな」

まだ妻ではないが、王竜ヒスイにとってリナはすでに王竜に属する者に入れてくれている。それはありがたくて、とても心強い味方でもある。

「とにかく、しばらくは1人で行動しないこと。街に行きたい時は必ず護衛を付けること」

まるで子供に言い聞かせるようにロイドが説明していく。

「護衛ということはロイド様かタイトを連れて行けということですか?タイトは毎日の調理で忙しそうですし、ロイド様を頼るしかなさそうですね」

「アスロも腕は立つから彼女でも大丈夫だろう。少人数なら無理やり攫われそうになっても彼女なら対処できる。ただ、できるだけ大勢の人の目がある場所にいたほうがいいだろうな」

街に行きたい時はロイドに言うしかないと思っていたが、実はアスロも戦闘能力は高いということを聞いて驚いた。

「アスロに戦う力があるなんて知りませんでした」

「彼女は獣人だ。もともと人族より身体能力は長けている。スカイほどの戦う力はなくても、敵を怯ませて君を逃がすくらいはできるはずだ」

いつか機会があればアスロがどれほど戦えるのか見せることも可能だと言われた。他に不在の使用人たちもそれぞれに戦闘能力を持っている。彼らは神殿にいる間にお互いの訓練のために模擬戦を行ったりするというのだ。そこにアスロが混ざることもあるので、いつか彼女の力を知ることにはなるだろう。

「とりあえず今は庭の散歩だな。外の空気を吸って気分転換をしよう」

話が逸れていったことでまったく別の会話になってしまったが、当初の目的である庭の散策に出かけることになった。

今度こそロイドは通路を通って自室へと戻っていき、リナはクローゼットから厚手のコートを引っ張り出すのだった。


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