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偽聖女として烙印を押されたら、竜騎士の花嫁に抜擢されました  作者: ハナショウブ
ギュンターの聖女
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新たな使用人

無事に買い物を済ませたことと、お腹が満たされたことで幸せを感じながら神殿へと続く森の中を歩いていく。

隣を見れば歩調を合わせてくれているロイドと視線が合った。どうやら幸せを感じながら歩いていた姿を見られていたようだ。少し恥ずかしくなり視線を逸らすも、彼がくすっと笑ったのがわかった。

会話はないが、静かに2人で歩いているだけなのに嫌だとか気まずいと思うことがない。彼の隣にいることに居心地の良さを感じていた。

盗み見るようにもう一度視線を向けると、ロイドは何事もなかったように前を向いていた。その横顔を見ながら先ほどのことを思い出す。

ロイドと何度か街に出かけていたが、彼に声をかけている人を見たのは初めてだった。警備隊長をしているというリグストンだが、屈強な体に強面ではあるが、話をしてみると人懐っこい性格のようだった。ロイドと親しい間柄のようで、姿を見つけて軽い気持ちで声をかけたのだろう。

リナが一緒であったことに驚いていたし、春が来たと騒いでいた。

気恥ずかしさを感じつつ、ロイドが否定もしなかったことを内心で嬉しく思っていたのは内緒だ。

リグストンの雰囲気を考えると、きっと今頃あちこちにロイドのことを言いふらしていそうな気もする。それはそれで今後街に行った時の彼が少し心配になった。

だが、一緒に神殿へと戻っている今でも先ほどの話が話題になることはなく、ロイド自身特に気にしていないような雰囲気もある。そこは安心していいのだろうが、寂しいような気もしていた。

「何を考えている?」

「え?」

突然話しかけられて驚くと、ロイドは足を止めることなくこちらを見た。

「百面相をしていたから」

考えていたことが表情に出ていたようだ。貴族令嬢としては感情を表に出さないように教育されてきたはずなのに、どんな感情が内に渦巻いても笑ってやり過ごす方法を学んできた。その仮面が剝がれてしまっていたのだ。

ここは貴族社会の中ではないことで気が緩んでいたのだろう。少し恥ずかしく思ってしまった。

「いろいろと考え事をしていました」

ロイドのことを考えて気持ちが上下していたなど言えるはずもない。

「そう言えば、街の人からはロイ様と呼ばれていましたね」

気持ちを切り替える意味も込めて話題を変えた。

今までロイドに話しかける人間がいなかったため、リグストンがそう呼んでいたことを思い出した。

神殿では使用人やロゼストはロイド様と呼んでいる。街の人たちは親しみを込めてロイ様と呼んでいるらしい。

説明を受けてリナは納得して頷いた。

「竜騎士というのは孤高の存在かと思っていました。ちゃんと街の中に溶け込んで他の人と変わりなくいるのですね」

素直な感想だった。

特殊な存在である竜騎士。王竜に選ばれた唯一の存在のため王竜のように恐れられたり畏敬の念を抱かれることもあると思っていた。だが、街に行けば気さくに話しかけてくれる人もいて、1人の人間として扱ってくれる。

「ここに来てから、王竜や竜騎士についてもいろいろと知ることができて、とても勉強になります」

国から出たことがなかったリナにとってはすべてが新鮮に感じられる。

「勉強という程の事でもないだろう」

少し呆れたような言い方ではあったが、表情はなんとなく嬉しそうな気もした。王竜や竜騎士のことを知ってもらえて嬉しいのかもしれない。

「神殿でも、他の使用人達とももっと交流が持てたらいいなと思っています」

神殿に滞在するようになってから、自分で仕事を見つけアスロとはすっかり仲良くなったと思っている。ロゼストとも顔を合わせれば立ち話をすることもある。他の使用人もいるようだが、まだ会ったことがなかった。

いつか会ってみたいが、それがいつになるのか見当もつかない。彼らの服の手直しもしているのでリナが神殿を離れる前に一度は会ってみたいと思っていた。

アスロ以外はすべて男性だと聞いているので手直しする服に目立つ刺しゅうは入れないようにしていた。

再び考えごとを始めてしまったリナだったが、ロイドが足を止めたことで一緒に動きを止めた。

「戻って来たか」

彼の呟きに首を傾げると、視線の先を追う。

もう神殿が見えている距離。その入り口は解放されていたが、開かれた扉の前に黒いマントを羽織った赤毛の男性が立っているのが見えた。

「あ・・・」

青い瞳でまっすぐにこちらを見ていた男性は20歳くらいに見えるが、赤毛の頭から同じ色の毛で覆われた猫耳があった。明らかに獣人族だ。

「彼は神殿の使用人の1人だから心配いらない」

見たことのない獣人に一瞬戸惑ったリナだが、それを察したようにロイドが説明してくれて歩みを進めた。

「ロイド様、おかえりなさい」

近づいて行くと赤毛の青年は落ち着いた静かな声を発した。見た目よりもずっと大人びた雰囲気がある。

「それはこちらのセリフだろう。スカイ、長旅ご苦労だったな」

「これくらい平気ですよ」

わずかに笑顔を見せた彼は、リナへと視線を向けた。

「そちらが竜王様の客人ですか?」

リナとは会ったことがないはずだが、客人として滞在していることは聞いていたようだ。

「初めまして、神殿の使用人をしていますスカイと言います」

「リナです。長く滞在させてもらっています」

スカイが挨拶をすると、リナもすぐに挨拶を返した。アスロの時は始めて見る獣人に驚きと興奮があったが、スカイには落ち着いて対応できたと思う。

相手が獣人だからと虐げるようなことをするつもりはない。それよりも会話をしながらわずかに動くふかふかの耳が可愛くて仕方がなかった。

触ってみたいという好奇心を全力で抑え込んでいると、スカイはロイドへと視線を向けてしまった。

「出かけていると聞いていたのでお待ちしていました」

「部屋で待っていてくれればよかったのに」

何か仕事のことで大事な話しでもあるのかもしれない。そう察したリナはすぐにロイドへと両手を伸ばした。

「荷物は私が運びます。ロイド様はどうぞお仕事に戻ってください」

もともとはリナの買い物に付き合ってもらっていたのだ。荷物もすべてリナの物だ。店を出た途端にロイドがすべて持ってくれたので手ぶらだった。

それなりに量はあったが、1人で運べない量ではない。

促すように両手を突き出していると、最初渋るような雰囲気を見せたロイドだが、やはり仕事を優先してくれたようで持っていた荷物を渡してくれた。

満足そうに頷いたリナは彼らを置いて部屋へと戻ることにした。一度足を止めて入り口を振り返ってみたが、そこには2人の姿はすでになかった。

よほど大事な話があったのだろう。そう思うのと同時に何の話なのかわからないのに、どういう訳か不安な気持ちになってもいた。

「何事もなければいいけれど」

そう呟いてリナは抱えた荷物を持ち直して再び部屋へと歩いていくのだった。


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