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複雑な想い

オルトロが国に帰る前最後の宿泊はデイルも神殿に泊まることになった。

リナが指示を出してアスロとレーリアが部屋を用意していつでも使えるようにすると、2人は部屋へと案内されるはずだった。だが、どうにかしてキャスティの様子を先に見に行くことはできないかというデイルの提案に、対応したロゼストを困らせることになった。今はまだ街へ入る検問所は開いている。だがキャスティと面会している間に閉められてしまう可能性が高く、神殿に戻れず街に泊まることになる。

その説明をされても、明日には他の魔法師と合流することになるから今日中に面会したいと訴えるデイルに、オルトロもできれば街に行きたいと言ってきた。

それなら今夜は街に泊まってもらうしかないとロゼストが説明すると、そこへロイドがやってきて彼と一緒なら検問所が閉まった後でも神殿に戻ってくることができると提案され、2人はロイドと一緒にキャスティが収容されている警備隊の監獄に行くことになった。

リナはロイドが戻ってきてから一緒に夕食を摂りたいと思い、刺繍をしながら部屋で待つことにした。

日も沈み辺りが暗闇に包まれた頃、ロイドが戻ってきたという報せを受けて、リナはホールに行くことにした。

オルトロたちがキャスティと面会したので、その様子も聞いてみたいと思った。

ホールに向かったリナは、そこで複雑な表情を浮かべている2人といつも通りのロイドを見つけることになった。

「お帰りなさい」

声を掛けると、すぐにロイドが近づいてくる。

「出迎えは必要なかったのに」

「キャスティに会ったのでしょう。どんな様子だったのか少し気になって」

正直に話すとロイドは苦笑してから、未だに複雑な表情をしている2人に視線を向けた。

「2人が面会してきた。俺は直接会っていないが、話を聞く限り様子がおかしかったそうだ」

「おかしい?」

何かあったのかと心配になると、オルトロが近づいてきた。

「キャスティには会えたのですよね?」

質問を投げかけると、オルトロはため息をついて頭を掻いた。

「キャスティに会うことはできたけれど、随分と様子が変わっていて、こちらが戸惑うことになりました」

戸惑いを隠すことなく説明していく。

「様子が変わっていたというのは?」

「私たちの顔を見てもわかっていないようで、ずっと独り言を言っていました」

オルトロやデイルのことが認識できていないのか、その存在を無視するようにキャスティはどこか怯えるような雰囲気だったという。

「とりあえず話しかけてみたのですが、ずっと化け物だと呟いていました」

「化け物?」

それはいったい何に対してなのだろう。

首を傾げるとオルトロは苦笑した。表情から彼はその対象がわかっているらしい。

「断言はできませんが、彼女の言葉と言い方から、自分が放った大魔法がまったく通用しなかった王竜と竜騎士は化け物だと言っているようでした」

失礼なことを言っていると思ったが、大魔法でヒスイもロイドも傷つくことはなかった。それはリナの聖女としての力が働いたためなのだが、キャスティはそんなことを知らない。当然大魔法が王竜には全く通用しなかったと考えたはずだ。

大魔法が不完全だったから通用しなかったという結論も出せないことはなかっただろう。だが大魔法を研究して完成させたと自負していたキャスティにとって、無傷の王竜は歯が立たない化け物と評するしかなかった。

「何かを話しかけても怯えたように繰り返し言っていて会話になりません。関係のないことを聞いてみても、彼女には聞こえていないようで、ただ怯えているだけです」

それが面会した2人が疲れた顔をする原因だった。

「これでは国に連れ帰ってもまともに罪を償わせるのは難しいかもしれません」

デイルが近づいてきて口を挟むと、オルトロはそれでもと続けた。

「王竜に牙をむいたのは事実だ。それ相応の罪は償ってもらう。おそらく一生監獄生活となるだろう。その中でまともな精神を取り戻せれば何かさせることはできるだろうが、そうでなければ壊れていくのを見ていることになるだろう」

オルトロの中でキャスティの行く末は決まっているようだ。そのことにリナが口出しすることはない。

魔法国の法で捌き、竜王国に2度と敵意が向けられることがなければ王竜も何も言わないはずだ。

王竜に敵わず、竜騎士の攻撃を受けたキャスティは完璧だと思っていた大魔法が通じなかったことで精神を壊してしまった。それは彼女の自業自得ともいえるので、どうすることもできないだろう。

「できれば王竜様に直接報告をしておきたいのですが、可能でしょうか?」

オルトロの要望にロイドは首を横に振った。

「魔法国の魔法師の失態を同じ魔法師が処理したと形を取っている以上、王竜と関わることはしない方がいい。すべて魔法国の問題として対応してくれ」

「わかりました」

直接話ができなくても、今の会話はロイドを通して王竜に伝わっている。これだけで報告したと言えなくもない。

「今夜はもうお休みになってください。明日には魔法国へ出発することになるのですから、体力を回復させておいた方がいいです」

まだ怪我人のオルトロのことを考えて、できるだけ早く休んだ方がいいと提案する。

「そうですね。デイルと少しだけ今後の相談をしたら休むことにします」

デイルの部屋はオルトロの隣に用意されている。話し合いをするにも部屋で休みながらすることもできるだろう。

案内をしようかと思ったが、隣の部屋だと説明すると一緒に行けばわかるからということで、2人はすぐに客室のある2階へと向かった。

「今さらだけれど」

ホールから姿が見えなくなると、リナはあることを思い出した。

「どうした?」

ロイドが問いかけてくると、リナは頬に手を当てた。

「オルトロ様は魔法国の王様という立場なら3階の部屋を使ってもらった方がよかったのかしら」

2階は基本街に戻れなくなった一般の旅人や客が泊まる小さな部屋となっている。3階はそれよりもずっと広い造りになっていて王侯貴族が泊まる時のための部屋になっていた。ただどちらも必要最小限の家具や道具を置いているだけなので、部屋の広さが違うだけではある。

「キャスティに敗れて王座をはく奪されていることになっているから、一般の客と同等の扱いでいいと思う。次に王となって来る時があれば、3階を使ってもらえばいいだけだ」

少し考えてからロイドが真面目に答えてくれた。

王座から降ろされたオルトロはただの魔法師だ。特に問題はないという判断だったのだろう。

「それに本人も部屋に文句を言わなかったから、今さら変えても仕方がないだろう」

神殿に来た時は正体不明の怪我人だった。2階の狭い部屋の方が監視もしやすかったし、オルトロは部屋に関して何も言うことはなかった。

「次があったら今度は国王でしょうから、3階にお部屋を用意しましょう」

国王に返り咲けば国から出ることは容易ではないだろう。竜王国へ来ることもないだろうが、次があった時の話をして2人で笑いあった。

「俺たちも部屋に戻ろう」

ロイドが戻って来たことで部屋に夕食の準備がされているはずだ。

暖かい食事が待っていると思い歩き出したリナだったが、隣を歩くロイドが不意に呟いた言葉を聞き逃すことはなかった。

「・・・化け物か」

その言葉はキャスティが王竜と竜騎士に対して放った言葉。大魔法が通じなかった相手への畏怖。

化け物扱いされていい気分ではないだろう。オルトロと話している時は特に感情を表に出すことはなかったが、きっと傷ついたはずだ。

そっと手を握ると、ロイドがリナを見た。どんな言葉を言っても慰めにはならない気がした。ただリナはいつも側に寄り添っているのだと伝わればいいと思った。リナにとっては大切な愛おしい人なのだ。

ロイドが優しく笑ってくれたので、きっと思いは伝わったはずだ。

「これで2度と敵意を見せることがないのなら、どんな評価をされていても構わないとヒスイは言っているな」

ふとそんなことを口にする。彼を通して王竜も話は聞いていた。どんな評価をされようと王竜が動じることはない。それよりも攻撃対象にならないことの方が重要だった。

精神的なダメージがないことにほっとしていると、握られた手にロイドが指を絡めてきた。

「キャスティがどんな状態であれ、明日には魔法師たちも集まるだろう。そのまま国へ連れて行ってもらうことになる」

話が明日の事へと切り替わった。

すべてがアストル魔法国の問題であり、王竜もロイドも関係ないのだと口を挟むことはしない。

その約束を違えないためにもリナも黙っているしかない。

「魔法国でいろいろと対応はするだろう。俺たちはその結果を待つしかない」

王竜が納得できる結果を出してくれればそれでいいのだ。

「そうね。私たちができることは何もないのね」

リナも納得するしかない。

精神を病んでしまっただろうキャスティに同情するつもりはないが、自分の犯した罪と向き合ってもらえないことが少し複雑な気持ちにさせられる。

「リナ」

悶々としたものを抱えているとロイドがリナの額にキスを落とした。それはとても優しくて慰められているのだとわかる。先ほど化け物扱いされたロイドを癒したいと思っていたのに、いつの間にか立場が逆転してしまった。

「もう俺たちの手を離れたことだと思った方がいい。今夜は泊まっていくことになるが、神殿にたまたま泊まった客人というだけだ」

「・・・そうね」

キスされて指を絡めて握る手にドキドキしてしまって上手く返事が出来なかった。

気持ちがふわふわしてしまったリナにロイドは優しい眼差しを向けていた。

「夕食が待っているだろう。部屋に戻ろう」

いつの間にか歩みが止まっていた。ロイドに促されて、手を握られたままリナは再び部屋へと歩き出すことになった。


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