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襲撃の時

遠くで声が聞こえた気がしてロイドは目を覚ました。

辺りはまだ暗く夜中なのはすぐに理解できた。

『来たぞ』

短い声が頭の中に響く。ヒスイはいつも端的な言葉しか言わないが、それでも誰が来たのかロイドは理解できていた。

「夜の襲撃とは・・・」

隣ではリナが静かに眠っている。起こすのが忍びない気もするが、襲撃されるときに寝かせておくこともできない。

『1人ではないぞ』

リナを起こそうとした時再び頭の中に声が響いた。

「仲間がいるのか?」

大魔法を復活させて王竜を倒したいと考えている者がキャスティに協力しているのかもしれない。そんな考えが頭によぎると、ヒスイの更なる声が響く。

『10はいる』

頭数がわかったようだ。王竜の間に居ながら神殿の周囲をすぐに察知できるのはありがたい。

すぐにリナの肩を揺すって起こすと、彼女は眠そうにしながらも体を起こしてくれた。

「襲撃だ」

その一言で覚醒したのか、ぼんやりしていた表情が一気に変わった。

「まだ神殿には入ってきていない。森の中で様子を窺っているようだ」

「すぐにみんなを起こさないと」

「俺はヒスイと一緒に外に出る。相手の狙いはヒスイだ。その間に戦える者はホールへ。戦えない者はロゼストと一緒に地下へ行ってくれ」

当然リナは戦えない者に入るため地下に身を隠してもらう。護衛としてリカルドとアスロにもついて行ってもらうことを考えていると、彼女はベッドから降りて着替えながらとんでもないことを言ってきた。

「私も地上にいます」

動きやすい服を選んだようだが、それよりもロイドは耳を疑うしかなかった。

「神殿からは出ないわ。でもできるだけみんなの側にいた方がいいと思うの」

そう言われて、彼女が地上に残ろうとしている理由を思いついた。

「聖女の力は地下にいても問題なく発揮できると思う。わざわざ危険な場所に身を置く必要はないだろう」

聖女の力は守護と幸運。守護は王都の結界がわかりやすいが、それ以外にも身近な人々を守っていることがある。そして幸運があることで戦いで不利になることがない。

だがすぐ近くにいないと発揮されないということもないはずだ。相手は10人いるとヒスイが言っていた。危険なところにリナを向かわせたくない。

そう思っていると、リナは魔法石で明かりをつけることのない暗闇の中で穏やかに微笑んだ。

「大丈夫よ。私自身が聖女としての力に守られているはずだから。それに、ロイドが守ってくれるでしょう」

敵を制圧してみんなを守るのはロイドの役目だ。

「大魔法を使う魔法師がいるのに」

「聖女の結界は王都を守ったわ。いざとなれば私がヒスイ様も守ってあげる」

ギュンターの結界はキャスティの攻撃に耐えた。大魔法より聖女の守護が上なのだと言いたいようだ。だがあれは実験だったと聞いている。より強い魔法を使われる可能性は十分にあるのだ。そう説明したとしても、きっとリナは退かないともロイドはわかっていた。

説得したいが、きっと失敗に終わる。不思議と結果がわかってしまい納得している自分もいた。

仕方ないと思いながらロイドもベッドを降りると着替えを済ませた。

「戦えない者は地下へ。リナにはアスロとリカルドを護衛にする。それ以外は神殿の外で敵を迎え撃つ。今のところ相手はオルトロが神殿にいることを知らないだろう。彼には様子を見ながら戦いに参加してもらう」

魔法師には魔法師が一番だ。襲撃犯がすべて魔法師なのかはわからない。剣で撃退できればいいが、オルトロの力はきっと必要になる。

説明を終えるとリナは使用人たちに知らせるために寝室を出ようとした。だがそれをロイドが止めるのと、甲高いヒスイの鳴き声が神殿に響いたのは同時だった。

「全員に知らせるにはこれが一番早い」

敵にも知られることになるが、それよりも眠りについている全員を起こす方が優先された。それに敵も王竜が気が付いているのだと警告にもなる。これで怯んで引き返してくれれば戦うことはないが、留まるのなら戦闘は避けられない。

「すぐにアスロとリカルドが来ることになる。それまでここで待機していてくれ」

ヒスイの声に驚きながらも、全員を一度に起こせる方法に納得しているリナを残して部屋を出ようとする。

「ロイド」

隣の部屋に移ると後ろから声を掛けられて振り返った。すると優しく包み込むようにリナが抱きしめてきた。頬に触れるものを感じて、リナからキスをしてきたのだとわかると心の奥が暖かくなるのを感じた。

ロイドは事あるごとにリナへキスをしている。だがリナからのキスは恥ずかしがってあまりされない。それを寂しいと思うことはない。その代わり彼女は言葉や態度でロイドの側にいることに幸せを感じているのだと伝えてくれている。それでも彼女からキスをしてきたことは嬉しく思う。

「気を付けて」

心配しているのと勇気づける意味もあったのかもしれない。離れたリナはどこか不安そうにしながらロイドを見送ろうとしていた。

「ヒスイも一緒だから大丈夫だ。すぐに終わらせる」

不安を取り除くようにロイドもリナの頬にキスを落としてから部屋を出た。

妻からの触れ合いに嬉しさが込み上げてくるロイドはこれから戦いが始まろうとしているのに、口元に笑みを浮かべながら王竜の間へと行くことになった。


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