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王竜との面会

オルトロの怪我はひどいものではあったが、ロイドと話をした次の日には半身を起こして会話が可能になっていた。魔法師の回復力がずば抜けているのか、リナが側にいることで幸運が働いて回復が速いのか、ただ若さが影響したのかわからないが、再び会話をするには十分な状態になってくれたことはありがたかった。

「昨日は途中から覚えていないのですが、眠ってしまったようですね。申し訳ありません」

体力の限界で意識を手放しただけだ。オルトロが謝る必要はないと思っている。

「気にしなくていい。それよりも続きの話をしたい」

朝を迎えて再び目を覚ましたオルトロに、ロイドはすぐに話の続きを聞くため部屋を訪れていた。

朝食も少しだけ口にしたようで顔色がだいぶ良い。

「そうですね。怪我をした原因は話したと覚えています。大魔法の話もしたはずです」

「相手が女性魔法師でキャスティと呼んでいたな」

オルトロが意識を失う前に呟いた名前を思い出す。どこか親しみのこもった言い方に聞こえたのも思い出した。

「名前を言っていましたか・・・。彼女は私と王座を争っていたキャスティ=ブリストと言って、幼い頃からともに魔法を競い合い磨いてきた幼馴染であり、ライバルでした」

幼い頃から切磋琢磨して魔法師として腕を磨いてきた相手。キャスティが大魔法を研究してそれを実験と称して使おうとしたことから止めたオルトロだが、逆に彼女の攻撃を受けてしまった。その瞬間の感情は言いようがないほどの悲しみに満ち溢れていたように思う。幼馴染でありライバルに裏切られた気持ちがあったことだろう。

「魔法研究に没頭するのはいいのです。それを実際に試したいと思ってしまったことを否定するつもりもありません。私もきっと同じことを思うでしょう。でも、それによって多くの犠牲が出るのは駄目です」

どれほどの威力や効果があるのか、新しい魔法を生み出すと試したいと思うのは魔法師の性だろう。だがそれで誰かを傷つけたり、大きな損害を与えることはしてはいけない。

「それに実験ではなく本当に攻撃魔法として使うことになれば、予想できないような悲劇を生む可能性もあります」

「今の言い方だと、キャスティという女性は誰かを傷つけるために魔法を使おうとしているように聞こえるが」

実験と称して損害を与えるのではなく、明確に相手を定めて攻撃するような言い方に聞こえた。指摘してみるとオルトロは明らかに視線を泳がせた。その態度で彼が王竜に会おうとしていた理由の予想ができた。

「もしかして、大魔法で王竜に攻撃をするつもりなのか」

王竜への攻撃は宣戦布告とされる。それが国によるものなら、容赦なく王竜は国への攻撃を開始するだろう。

「決して国としての意思ではありません。彼女の個人的な判断です。ですがそれを止められなかったのは私の責任でもあります」

否定しなかったことでキャスティが王竜を狙っていることが決定づけられた。

攻撃目標をどこかで知ったオルトロはすぐにキャスティを止めようとした。だが隙を見て攻撃されてしまい大怪我を負ってしまったのだ。それによって王座も奪われるという大失態を犯した。それでも彼は国を離れ王竜にこのことを伝えようとしてくれたのだろう。

「彼女が王竜を目的にしているとどうやって知った?」

なぜ王竜に大魔法を使おうと考えたのかその理由を知る必要性を考えて質問すると、オルトロは視線を天井へと向けた。天井を見ているようでそれよりももっと遠くを見ているような視線は、過去を振り返っていたのだろう。

「もう何年も前からキャスティは大魔法について調べていました。古文書に大魔法が記載されているとはいえ、部分的だったり抽象的だったり、大魔法を使うための方法がはっきりと記載されているわけではありません。いろいろな記述を繋ぎ合わせてどんな魔法であったのか想像しながら組み上げていく必要があります」

大魔法は神から力を授かった魔法師だけが使える代物だった。魔王がいなくなったことで必要なくなったと判断され引き継がれることなく本に簡単な記述が載る程度の存在として扱われた。そのため大魔法は封印されたという表現が使われて、国の魔法師たちの間に伝わっていった。

誰にも伝承されなかった大魔法をもう一度復元しようとする魔法師は今までにもいたらしい。だが魔力が圧倒的に足りなかったり、記載されている内容を読み解けず諦めるしかなかった。

そんな中キャスティは諦めることなく大魔法の復元に年数を費やしていた。

技術面ではオルトロに負けても、魔力は十分にある。大魔法を生み出す自信があったのだろう。

「調べながら時々実践もしているようでした。でも、上手くいかない様子を見ていましたから、いつか諦めることになるだろうと思っていたんです」

オルトロも大魔法には興味はあった。だが彼は王という役職を担っていたため研究に時間を割く余裕はなく、国のために働くことで精いっぱいの日々を送っていた。

「ある時彼女の様子がおかしいことに気が付きました。研究をしていたはずなのに、良く外に出かけることが多くなったんです」

「どこかで魔法の実験をしていたということか」

本の解読が中心で、どんな魔法だったのか実践するのは少しだけ。それを繰り返していたはずのキャスティは外に出かけることが急に多くなった。

「気になってはいましたが、王としての役目があったため様子を見ているだけでした。もしも大魔法の復元ができたとしても、私になにかしらの報告はするだろうと思っていましたから」

大魔法が完成した場合は隠しきれるものではない。そう思ってオルトロも追及することをしなかった。それが仇となったのはそれからすぐの事だった。

「ギュンター王国で異変が起こったことを知った時、真っ先にキャスティのことが思い浮かびました」

ギュンター王国という言葉にロイドは内心動揺が奔った。ギュンターの王都が攻撃されたことは出来るだけ伏せられている。大騒ぎをして国が揺らぐようなことがあってはいけないことと、他国に侮られないためにもたとえ攻撃を受けても結界が守っているから大丈夫なのだと見せることも重要だった。

騒がないようにしていても、情報はすぐに他国に伝わる。魔法国もすぐにギュンターの攻撃を聞きつけたようだ。それがキャスティの仕業かもしれないと考えたのはオルトロだけだった。

「彼女に確認したのか?」

「すぐに確認しました。遠回しな質問をしてもはぐらかされる可能性があったため、直接彼女にはっきりとギュンターを襲撃したのか確認しました」

随分と大胆なことをしたなと思ったが、オルトロも切羽詰まっていたのかもしれない。他国の王都を攻撃したとなれば国同士の関係性にも大きく影響が出る。王竜が監視して保たれている大陸のバランスを崩しかねない。

「キャスティはあっさり認めましたよ。大魔法の実験でもあり、ギュンターの聖女の結界がどれほどの強さを持っているのか確かめたかったと言っていました」

彼女個人の身勝手な言い分で王都は攻撃され、それをリナが察知した。あの夜のことを思い出すと、彼女の苦しみを目の前で見たロイドは憤りを覚える。

「結界は壊れることはなく、大魔法も威力がまだ足りないと言っていました。最終目標は王竜への攻撃だとそこで初めて知りましたし、それを聞いた私はすぐに止めなければと思いました。それにギュンターで魔法国からの攻撃だと判断した場合、何とか話し合いで治められるように動かなければいけないと考えていました」

考えることが急にできてオルトロも混乱したのだろう。キャスティを説得する前に、隙を作ってしまった。そこを攻め込まれて怪我を負ったオルトロは、手負いのまま魔法国を逃げてきた。ちょうどリナと一緒にギュンターへと向かっていた頃だろう。

王竜が狙われていることを知った以上黙っていることは出来ない。傷が深いことも理解しながらオルトロは何とか竜王国の神殿まで来たのだ。

だが神殿を囲う森に入る前に力尽きてしまった。森の中には魔物も潜んでいる。このまま魔物の餌食になるかもしれないと思っていたところでキリアルと出会った。

「はっきり言って運が良かったと思っています。野垂れ死にを覚悟していましたから」

「運が良かったか・・・」

オルトロが神殿に運ばれたことで王竜が狙われていることがわかった。オルトロは運が良かったというが、ロイド達も情報を知ることができて運が良かったと言える。そう考えた時に妻のことを思い出す。

これもすべてリナの幸運が運んでくれた結果なのかもしれない。そんなことをリナに言ったとしても、実感がない彼女は複雑な表情をして喜ぶことはないだろう。

「魔法国の中はキャスティが私に勝ったことを主張すればすぐに調査がされて私が国から逃げたことが知られることでしょう。そうなればすぐに私に勝った彼女が新王として王座に座っているかもしれない」

逃げたと言うが、オルトロは王竜に知らせるために国を出たとも言える。誰かに事実を伝えるのではなく、話を聞いた本人が直接来ることで信ぴょう性を高めようとした可能性もある。

そのためアストル魔法国内がどうなっているのか、今は何もわからない状況だ。

「王座に就いているのなら、しばらくは動けなく可能性があるな。そうなれば研究も止まるし、襲撃もすぐにとはいかないだろう」

国をまとめる王となれば勝手に動き回ることもできなくなる。その間にこちらでも襲撃に備えることができる。だが、彼女が王座を放り出して大魔法を使うために竜王国へ向かおうとしていれば、事は急いで対応しなければいけなくなるだろう。

「オルトロ。君にはしばらくここに滞在してもらうことになる。その怪我では出歩くこともできないだろうが、キャスティの顔を知っているのは君だけだ。もちろん協力してくれるだろう?」

自分の怪我の心配よりも王竜にすべてを話すためにここへ来た。そんな彼が話をしたから終わりにするとは思えない。

「もちろんです。私にできることは言ってください。できるだけの協力はします。とは言っても、この怪我ではまだまだ動けませんが」

やっとベッドから起き上がれるようになった。まだベッドから降りることも部屋から出ることも難しいだろう。

「猶予はあるはずだ。その間に怪我をできるだけ癒してほしい。相手は魔法師だ。こちらには対抗できる魔法師がいないから、君に動いてもらえると助かる」

神殿で魔法が使えるのはスカイだが、彼の魔法はとても弱い。王になれる程の力を持っているキャスティとまともに魔法で戦えるはずもない。

「わかりました。魔法師がいなくても魔法石で少しは対応できるように準備もしましょう」

オルトロはキャスティが王座に就いて動けないと予想しているようだが、ロイドはすぐにでも襲撃をされる可能性を考えていた。彼が少しでも動けるようになってくれれば対応も変わってくるだろうが、もしも今日にでも襲撃をされた場合、今いる使用人たちで神殿を守るのはどこまで可能だろう。

王竜としっかりとした対策を話し合った方がいいかもしれない。

聞くべき話を聞いて今後のことを考ええていると、長い話をしたせいか、オルトロが疲れたようにため息をついた。最後まで半身を起こして会話をしてくれたが、まだ回復していない体ではもう限界のようだ。すぐに休むように言うと、彼は素直にベッドに体を横たえた。だがその瞳は覚悟をしたようにしっかりと天井を見上げていた。

オルトロの覚悟を確認できたロイドは、これから起こる戦いに向けて気を引き締めなければいけないと、改めて思うのだった。


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