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15.地上に戻ってハプニング・4

 ヴィーラントの視線が、扉の方にうつる。扉の外にはバルナバス殿下がいて、ロジーネへの想いを訴え続けていた。


「変な男に絡まれているのか?」

「いいえ、それはどうでも……。ねぇ、ヴィーラント。私をもう一度、獣人国に連れて行ってくれないかしら」


 ヴィーラントは驚きで目を丸くした。


「なっ、なんでだ」

「従姉が……ユリアンナが落ちたらしいの。私みたいに」

「いつだ」

「私が落ちて少し経ってから。あなたは見ていない?」

「見てないな。俺はあんたを拾った後、すぐに移動したから」

「そう……」


 うつむくロジーネの肩を軽く叩き、ヴィーラントは元気づけるように続ける。


「落ちた起点は同じなのだから、ある程度、近い場所に落ちるはずだ。でも地面に人の落ちた跡はなかった。だとすれば、考えられるのは捕獲スキルで捕まったということだ」

「捕獲スキル?」


 ヴィーラントは腕組をすると、部屋の中を歩き出した。


「獣人はそれぞれ独自のスキルを持つということは、説明したよな。王家所属の騎士の中には捕獲スキルを持っているやつがいる。そいつらが使える魔法みたいなもんだ。崖下の地面に魔法陣を張りめぐらし、触れた途端に対象物を捕獲できる」

「どうしてそんなことを」

「昔は無謀にも地上に上がろうとしていた獣人が多かったんだ。だが、俺みたいに羽をもっているか、跳躍スキルがなければ、登り切る前に落ちてしまう。それで死ぬ獣人が絶えなかった。だから王家の責任の下、捕縛魔法陣を張ったと聞いたことがある」


 話を聞くに、脱走者の捕獲と保護を目的としたもののようだ。


「でもそれなら、私も捕まるはずじゃ」

「飛んでいれば引っかからない。あんたは地面に落ちる前に俺が捕まえたから、魔法陣には触れていないんだ」

「そ、そっか……」


 つまり、ドレスが枝に引っかからなければ、ロジーネだって捕まっていたということになる。


「じゃあ、ユリアンナは獣人王に捕まっているのね?」

「おそらくはな」

「どうしよう……」


 ユリアンナが獣人の王に捕まったのだとしたら、ロジーネに救い出すすべはない。


(いいえ。本当にないなんて言いきれない。私も同じように捕まれば……)


「なんだかろくでもないことを考えていそうだな」


 考え込んでいるところに声をかけられ、ロジーネはびっくりしてしまう。


「いや、あの……もう一度私を大渓谷の下まで下ろしてくれないかなって思って」

「それで自分も捕まるって? あんたみたいなお嬢さんにはわからないかもしれないが、捕まったが最後、奴隷扱いだ。女性ならなお悪い」

「だったら余計放っておけないじゃない!」


 先ほどよりも声を荒げてしまったからか、扉の外からバルナバスが叫んだ。


『ロジーネ嬢、どうかしたのか? 私の話を聞いているのか?』


 ヴィーラントがロジーネを守るように前に立つ。


「さっきからうるさいな。あの男は誰だ?」

「私の婚約者……になるのかしら」

「婚約者?」


 ヴィーラントがじろりと扉の方を睨む。

 ひやりとした空気が漂い、ロジーネはなぜか焦ってしまう。


「求婚されているの。断りたいけれど、このままだとおそらく……」

「断りたいのか?」


 意外とでも言うような間の抜けた声が返って来たので、ロジーネは頷く。


「私が、お城やお屋敷でじっとしていられると思う?」

「無理そうだな」

「でしょう? 畑仕事をやめろって言われるのも嫌。それでも、家のためなら諦めなきゃいけないのかしらって悩んでいた。でも、今は本当に嫌なの。ユリアンナを放って、自分だけ安穏とした場所にいるなんて耐えられない」


 ロジーネがきっぱりと告げれば、ヴィーラントは目を細め、彼女の腕を掴んだ。


「……言っておくが、獣人国に来れば、危険は隣りあわせだ」

「分かっているわ。でも、このままここにいたって、私は幸せじゃない。やりたいことを制限される結婚をするのも嫌だし、ユリアンナのこともあきらめたくない。だから、獣人国に行きたい」


 ロジーネの決意を確かめるように、ヴィーラントの視線が動く。

 はあと深いため息の後、ガシガシと髪をかきむしった。


「……これでも俺は、ここまで努力してきたつもりだ」

「何を?」


 きょとんと小首をかしげれば、ヴィーラントは恨めしそうにロジーネを見る。


「あんたは人間だから。恵まれて育っているから、だから俺たちの世界に引き込むことなんてできないってそう思っていた。だけど、ここで連れていけっていうなら、もう帰せない」

「え?」

「……あんたは俺の番だ。運命の相手だ! あんたにわからなくとも、俺にはわかる。今ここで俺とくる選択をするなら、もう、君を諦めてはやれない」

「へ」


 あまりに予想外なことを言われて、ロジーネは一瞬何も言えなくなる。


(まるで告白されているみたいな……え? ええ?)


 ロジーネは顔が熱くなっていくのがわかる。


「え、……え、ヴィーラントって私のこと」

「この鈍感女! 獣人から求婚されたって困るだろ? だから、……俺が我慢しているうちに、獣人国に行くのは諦めろ」


 突き放すようにそんなことを言うヴィーラントを見ていると、ロジーネの胸もドキドキしてきた。そう言えば何度か、番という言葉を聞いた気がする。


(じゃあ、あのキスも)


 別れ際に額にくれたキスは、恋情のこもったものだったのだとしたら。


(……あら?)


 うれしい。湧き上がった感情はそれだ。バルナバス殿下に求婚されたときと、全然違う。

 胸がはやって、飛び上がりたいような気持ちになる。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔方陣は数学用語なのです。 なんかこの辺勘違いしているWEB小説作家が多めなんですよね。 おかげさまでどこぞの小説の漫画版でもこうした間違いが……校正さん仕事しているのか不安です。 […
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