ロン毛と狂犬
「こら〜! ロン毛!! あんたまたやらかしたでしょ!」
フサフサの尾を揺らして少女が叫んでいた。
言われた方はと言えば、テーブルに足を投げ出し長くしなやかな髪を床まで垂らして惰眠中らしい。
「ミンク、いつも言ってるがそんなに大声張り上げてると怖がって男が寄り付かなくなるぞ?」
切れ長の目をチラリと向けて、また眠りにつく。
「寝るな〜! アホロン毛! あのミノタウロス倒したのアンタでしょうが! 凄い事になってるんだぞ。」
「あ? 魔障石なら取ったぞ?」
ふあ〜と欠伸をしながら面倒臭そうに足を降ろす。
魔障石とは魔獣の核になる宝石の様な物だ。
物によっては1つで家が建つ位の値段で売れる。
「魔獣倒して何で処理しないのよ! 森から凄い瘴気が出て大変だったんだから。」
「あ〜急いでたからな。結界張るの忘れたわ。」
通常、魔障石を抜いた後は肉が食用になる物等、必要な物を収穫し結界を張り、その結界を頼りに専門の掃除屋が後片付けをする。
魔獣の瘴気は他の魔獣を呼ぶ為だ。
何より強烈な悪臭が出てしまうのも困る要因ではある。
「その呑気な物言いは何よ。悪臭が酷くて掃除屋もお手上げになるし、パイロヒュドラが集まって討伐大変だったんだからね!」
「あ〜その・・・なんだ。狂犬ミンクが居れば大丈夫だと思ってな。」
「アタシは昨日まで違う依頼の為に出かけてたの! アンタのおかげで貴重な休みが台無しよ!」
「うん、流石はマスターAのミンクだ。」
「ふざけんな! そのロン毛切らせろ〜!」
「おっと。」
ミンクの突進をヒラリとかわし、背後から両手を掴む。
「まあまあ、そう怒るな。非常に面倒だが今から片付けに行くよ。」
「もう片付けたわよ。離せ〜!」
───その時、バタバタと足音が近づいて来た。
「おい!大変だ。パイロヒュドラの集団が森から出てきて暴れてやがる!」
狂とミンクが視線を交差させながら走り出した。