言える? ねえ言える? 僕言えなぁい。
健康診断で「採血」ってあるでしょ。注射器で2・3本、血を抜くやつね。
あれ、毎年思うのだけれど、お医者さんが、採血の前に「痺れを感じたら言って下さいね」つって、こっちにひと言申すじゃん?
誤って神経に針ぶっ刺しちゃった場合の対応らしいけど……。
てゆーかさあ、実際に、注射器がチクッと刺さって、あれ? マジ? いや~んビリビリ度高めなんですけど、ってなった時に。
「ほ~い! 痺れちゃってまあ~す!」とか、喰い気味で言える?
「タイヘンダ ビリビリ シビレテ ウゴカナイ」なんつって、昔懐かしロボットの故障みたいに言える? 頭でっかち両手マジックハンドのロボットみたいに?
言えねーよ、僕言えねー、僕じぇったい言い出せにゃい。たぶん全身ビリッビリに痺れてても、我慢する。
なんかねー、変なとこ、気が小さいのよね、ぽっくん。
だいだい「痺れを感じたら言って下さいね」つってさあ、僕ねー、なんかねー、んなこと言われた途端に、右耳の裏あたり、ピクピクっと痺れちゃう。
緊張で耳たぶの裏が痙攣するのです。
んーだからつって、大の男が、注射打たれる前から、「耳たぶの裏、ピクピクいってまあ~す!」とか言える? ねえ言える? 僕言えなぁい。
だから毎年僕の「採血」は、山椒をかけた蒲焼のような「ほのかな痺れ」、味わってむあ~す。
まあ、言って下さいつって向こうが言ってんだから、正直に言えばいいじゃんって話なんすけどね。ははは。
分かっちゃいるけど、言える? なんか小っ恥ずかしくない?
「お嬢さん、僕はね、あなたの『採血』に、体の底から痺れちゃいましたよ」なんつって言える?
変な意味に取られない? エロおやじが、若い女口説いてると誤解されない?
そもそも、言ったところで、どうなるの? 痺れ取ってくれるの?
ふぐ料理屋が「痺れを感じたら言って下さいね」つって、ふぐ刺し出すのと一緒じゃね?
医者がメスを入れる患者に「死んだと思ったら言って下さいね」って言うのと一緒じゃね?
そうなった時は、時既に遅しだバカヤロー! なんつって僕なんかは思うのですが。
※ ※ ※ ※ ※
でさ。
言える? ねえ言える? 僕言えなぁい。つって戸惑うことって、思えば日常生活の中に結構あって。
例えば床屋で散髪する時の、シャンプータイムの例のあれ。「痒いところあったら言って下さいね」ってやつ。
あれ、言える? ねえ言える? 僕言えなぁい。
え~っと、つむじから6センチ左! 3センチ上! あー違う違う! もうちょい南南西の方角! そこそこそこおおお!
なんつって事細かに指示出せる? 僕とても言えなぁい!
てか、あれさ、やっぱ頭皮の痒みに限定したことなのかね? 例えば「鼻の下のくぼんだとこ」つっても、コリコリ掻いてくれるのかね、美容師さん。
いつかは「ちんこ痒いー」なんて威風堂々と言ってみたいものである、男なら。ははは。
きっと、頭シャンプーまみれのまま首根っこ掴まれて、店から放り出されるね。後ろからケツどーんって蹴っ飛ばされて。とほほ。
「痒いところあったら言って下さいね」
「え~っと、この状況が、歯がゆいんですけど」
って返事はどう? 結構オシャレじゃね?
※ ※ ※ ※ ※
僕、昔から歯が丈夫で、歯医者さんには子供の頃ちょこちょこっと通って以来、長らく行っていなくて、大人になってから虫歯の治療でまた歯医者に通い始めたのが、たしか35歳を過ぎてからだったのね。
んで、ブランクあるから、歯医者の例のあれ、「痛い時は手をあげて下さいね」ってやつ。
もおおお、困惑しちゃうわけ。オロオロぶっこいちゃうわけ。
痛い? って聞かれりゃ、そりゃあ削りから歯形取りまで、正直大概痛い。そもそも痛くて我慢出来ないから医者に来ている訳でさ。痛くなかろう筈が無い。
だからはじめは僕、正直に手をあげてたんです。
キュイーーーン!
はい!……先生、超いてえ。
ギュイーーーーーーーン!
はい!……先生、たまらなくいてえ。
ガリッ! ガリガリガリッ!
はい!……先生、はい! はいっだっつってんじゃん!
ところが先生「もう少しだから我慢してね~」なんつって半笑いで、何か特別な処置を施す訳でもなく、ただただ軽くあしらうばかり。おいよお、あれ、いったい何のために聞いてんだ?
んーな対応されて、次から言える? ねえ言える? 僕言えなぁい。
だったら歯医者さんもはじめっから、「大人としての尊厳をかなぐり捨て、赤子のように泣き叫びたい時は、手をあげて下さいね」なんつって具体的に指示してほしいよ。
やっぱさあ、患者にだけ一方的に、無駄に手を上げさせ続けるのもどーかと思うので、
「痛い時は手をあげて下さいね」
「分かりました。では、そちらも、痛みを与えたと思った時は手をあげて下さいね」
つって双方で挙手のやり合いってのはどう?
院内も何だか楽しげなムードになったりして。
キュイーーン!
はい!
キュイーーン!
はい! はい!
ギュイーーーーーーーン!
はい! こっちもはい!
ガリガリガリッ!
お先に失礼して、はい!
どーぞどーぞ! お気になさらず、はい!
……アホかいな。
…え?
嘘でしょ? このエッセイ、まさか、こんで終わり?
記念すべき新年一発目のエッセイを、こんな中途半端に終えるだなんて、
言える? ねえ言える? 僕言えなぁい。