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逢魔が刻

バベルの塔

作者: 名月らん

気が付くと天まで伸びた高い塔の階段を駆け上がっていた。


塔の外側についた階段をぐるぐる駆け上がる。

どんどんどんどん上がっていく。

しかし、なかなか頂上にはつかない。


それどころか、さっきまで見えていた頂上には雲がかかり見えなくなっていた。


どれだけ登ればいいのか…


肩で大きく息をしてまた歩き出す。


ふと足が軽くなった。


これで駆け上がれるぞ!


楽になったのが嬉しくて、どんどん駆け上がると


あれ?軽すぎないか


まるで何も踏んでいないかのように足が軽くなっていく。


そのうち遠心力に操られるようにクルクルと塔の周りを回り始め、少しずつ塔から離れていくのが分かった。


それは自分の頭と塔の先端が紐で繋がっていて、クルクルと回っている感覚だった。


突然恐ろしさがやってきた。


もしこのまま離れ過ぎたらどうなるのだろう。


繋がっているはずの紐が切れてしまうのではないか。


そう考えだしたらいてもたってもいられず、塔に近寄ろうと回りながら斜めに戻ろうとしていた。


そんな自分が滑稽でため息をついたりもしたが


あと少しで足が付く!


と思ったその時、ガクッ足元が不安定になった。


これは夢だな


と気付き少し安堵したが、心臓がバクバク早鐘のようになっていた。


夢でも落ちるのはゴメンだ。

何とか持ちこたえなければ


必死で力を入れようとしてみるが、なかなか上手くいかない。


腕をのばせば何とかなるかも


あと少しなのに届かない。


そうじゃない!


突然誰かの声がした。


え?


大丈夫そのまま歩けばいい戻れるから


と言うので走るのをやめてその場でゆっくりとあるき出した。


えっ何で?


声の言うとおりゆっくりと塔に戻れた。


ふと周りをみると全てが白い霧に覆われていた。


突然、けたたましいサイレンの音がして真っ暗な中に落ちていった。


ビクッとして薄っすらと目を開けると


「先生目を覚ましました」

「どれどれ」


眩しい光が目に差し込むが、ぼんやりとしている。


「とりあえず危機は脱したようだな」


そう言い去っていった。


暫くするとハッキリと周りが見えだした。


身体中に繋がれた管…

看護師と医者との会話で、どうやら事故にあい入院したようだと分かった。


この管、まるで夢の中の紐みたいだな


そう思いながら居ると、泣きながら誰かが入ってきた。


「良かった生きてて」

「本当に良かった、車に引かれたって聞いて驚いたぞ」


両親らしいが何か違和感がある。


その奥で若い女性が呆然と立っている。


何処かで…


頭の奥がズキンとする。


女性はそっと部屋を出ていった。


どうしても拭い切れない違和感を感じながらも動けるようになり、何気に鏡を見て言葉を失った。


これは、誰だ?

それに頭についている白い紐は何なんだ?


訳もわからず混乱していると彼女が入ってきた。


「何故あなたが助かったの?死ねばよかったのに」


どういう事だ?

彼女は何なんだ?


「別れ話をしに二人であなたに会いに行った日、車が来ているにもかかわらず、あなたは彼を路上に突き飛ばしたの覚えてる?」


突き飛ばした?

別れ話?なんの事だ?


「だから私はあなたを突き飛ばしたの彼の手前に」


待て、手前に…殺そうとしたってことか?


「一人は死んだのに何故あなたは生きてるの?」


彼女の冷たい目付きに凍りついていると


「二人共死ねばよかったのに」


その言葉に頭の奥がズキンとなった。


どっちでも一緒だ、だからこれで終わりなんだよ


頭に声が響いた。


「利用されてたなんて、別れてやるよ今すぐに」


そう言うと彼女は不思議そうな顔をして


「利用?もう一人の方に言われるならだけど、あなたに言われるとは思わなかったわ」


そう言い彼女は出ていった。


あの日から頭の中に声が響くことはなくなった。

塔に登る夢も見なくなった。

そして頭から出ていた紐も見えなくなっていた。


あの紐は何だったのか?

あの声は誰だったのか…

今となっては知る由もない。


ただ漠然と、もう二度と本当の家族と過ごすことは出来ないだろうな

あの頃には帰れないだろうな


と思う。


自分ではない人生をこれから生きていくことの虚しさを感じながら今日も生きている。



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