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第八十二話 終戦

「…これで本当に終わったんだな…。」


 すべてを出し尽くした俺はその場であおむけに横たわる。真っ黒な雲に覆われていた空は晴れていき、太陽が大地を照らす。


「やっと元の世界に帰れるんだね…。」


 目を閉じれば、いつも通りの毎日が瞼の裏によみがえってくる。何でもない普通の日々。学校に行って、ご飯食べて、お風呂入って…。そんな当たり前の日々。


「でもちょっと寂しい気もするなー。」


 でもそれと同じくらいここでの日々は俺たちにとってかけがえのないものとなった。以前の俺では考えられない日々の連続。きっとこの先も忘れることはないだろう。


「あ、そういえば大河さんに聞きたいことがあったんだった!」


 真白は状態を起こすと、気になっていたことを聞き始める。


「どうして大河さんたちは最上階まで来れたんですか?」

「実は俺らたまたま秘密の入り口を見つけちまってな。」

「え?どういうことです?」

「あんたらが魔王城に吸い込まれていくのを見て俺たちもすぐに後を追いかけたんだ。でも特に吸い込まれるわけでもなければ、入り口が開くわけでもなくてどうしようかと途方に暮れていたんだ。」


 つまり中に入れなかったってことか。何か特殊な条件でもあったのか。


「次の幹部戦は俺らも戦うって約束した以上帰るわけにもいかなかったから、何とかして中に入る方法を探ってたんだ。そんで裏の方に回ろうとしたとき、壁に一か所ひびの入った場所があったんだよ。そこを壊してみたら…その先には一本縄がぶら下がってたんだ。それを登った先が最上階だったってわけだ。」

「まじかよ…。最上階に行くまでの俺たちの苦労は何だったんだ…。」


 確かに驚きだな。そんな方法で最上階に行けるなんて誰も思ってなかっただろうしな。


「…でもどうしてそんな道があったんだろう。それもわざわざ隠していたなんて。」

「確かに変だね。魔物側からしたらそんな裏道作る必要がないからね。」

「ということは人間の仕業ってこと?」

「でも俺たちの見た日記にはそんな記述なかったぜ?」


 確かにアレンの言うとおりだ。でもほかにも捕らわれた人がいた可能性もなくはない。もしそうであるなら、魔王城を脱出できた人がいるということになる。


「まあ、よかったんじゃない?真相がなんであれ、そのおかげで大河さんたちが間に合って、あたしらも助かったわけだし。」

「…そうだな。今さら考えたって何が変わるわけでもないし。」


 気になりはするが、この話はここで終わりだな。


「話は終わったかな?」


 どこからか声が聞こえてくる。この声と脳に直接語り掛けてくる感じは、俺たちが最初にこの世界に来た時に聞こえてきたものと一緒だ。


「まずは魔王討伐おめでとう。これでこの世界は救われた。心から感謝するぞ、異世界の勇者たちよ。」

「そりゃどうも。それよりもこれで俺たちは元の世界に戻れるんだよな?」

「もちろんだ。左腕に付けた機械から、元居た場所に戻れるはずだ。」


 なるほど。左腕に付けた機械か…。


「って俺左腕ないじゃん!?」


 痛みが消えていたせいで忘れていたが、魔王との戦いで俺の左腕は切り落とされたんだった。


「そうであったな。すまない。先に君たちを回復させてあげないとな。」

「え?もとに戻せるのか?」

「もちろんだ。」


 すると不思議なことに左腕に粒子が腕の形に集まってきて、どんどん肉体が構成されていく。体力も完全に元通りになり、戦う前と遜色ない。


「すっげ…。本当に元通りになった。」


 いろいろな能力を見てきたが、再生する能力は初めて見た。


「どうやら皆回復したようだな。では私から一つ、ここまで勝ち残ってきた君たちに重大な話をしようと思う。」

「重大な話…?」

「ああ。君たちは一度でも疑問に思ったことはないかい?巨大な隕石が降ってきたのに、自分たちの帰る場所はあるのかと。」

「…。」


 思わなかったといえば嘘になる。けれどなるべく考えないようにしていた。ただでさえ大変な異世界生活で、余計なことは考えたくなかったのだ。


「どうやらみんな考えたことがあるみたいだね。でも心配はいらない。結果だけ言ってしまえば、君たちのいた世界は、隕石が落ちる前と何ら変化はない。変わったことといえば、君たちを含める一部の人間が姿を消したということだけだ。」

「そうなのか!?」

「でもなんで…?隕石で何も壊れなかったというのなら、どうして私たちはこの世界に連れてこられたの…?」

「…今は話すことができない。しかし、いずれわかるときが来る。」


 いずれわかる…。そう聞いて胸騒ぎがするのはなぜだろう。


「じゃあなんであたしたちにそんな話をしたの?確かに知りたかったことではあるけど、あんたから話し始めたのに話せないって…。なんか変じゃない?」

「言われてみればおかしいかもね。このような質問が来ることも想像できたはずだろうに。」

「ふふ。君たちは鋭いね。でもその質問にも答えられない。ただ私から言えるのは『そう答えることが決められていたから』ということだけだ。」


 どういうことだ。そう答えることが決められていたって。それじゃまるで俺たちが魔王に勝つのも、こうして話を進めるのもあらかじめわかっていたみたいじゃないか。


「何か言いたそうだね。黒野春人君。」

「そりゃ一つや二つ言いたいことはあるけど、今は言わないで置くよ。なんかお前とはどこかでもう一度会えるような気がするからな。」

「…そうか。皆には私から元の世界に帰れるようになったことを伝えておく。では私はもう行くとしよう。」

「あ、ちょっと待ってくれ!」


 一番聞きたかったことをまだ聞けていなかった。


「一つ確認しておきたいんだけど、元からこの世界にいた人を逆に俺たちの世界に転移させることってできるのか?」

「転送システムはこの世界の住人には表示されない仕組みになっているが、その権利を譲渡してもらうことは可能だ。この世界に留まってもいいという人がいるのであればだがな。」

「そっか。それだけ聞ければ十分だ。」

「もういいのだな。ではさらばだ。勇者たちよ。」


 そういって声の主はどこかへ消えていった。


「なあ、一度街に戻らないか?最後にみんなに会っておきたいんだ。」

「私も同じこと考えてた。」

「じゃあ決まりだな。」


 こうして俺たちは一度街に戻ることにした。

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