第七十九話 魔王城に響き渡る歌
「一度様子を見よう。何も知らない状態で戦うには相手が悪すぎる。」
がむしゃらに攻撃してもきっと当たらない。それどころか返り討ちにあうだろう。それくらい今の魔王は先ほどとはオーラがまるで違う。
「来ないならこちらから行かせてもらうよ。」
背中に生えた2本の黒い翼を大きく広げる。そして手足のように自由自在に操り、剣には鋭い形、槌や拳には丸めた形という風に、俺たちの動きや武器に合わせて翼の形を変形させながら、的確にこちらを狙ってくる。その繊細さは、羽根一枚一枚に神経が通っているかのようだ。
斬っても斬っても次から次に再生し、終わりのない攻撃に苦しめられていく。
このままでは近づくことすらできない。
「くっ…!」
落ち着け…。焦っても状況は悪化するだけだ。せめてあの攻撃を何とかしないと。
「…お前ら!今こそあれを使うぞ!」
大河たちが俺らを囲むようにして一点に集まる。
「大河さん、何するつもりなの!?」
「まあ見ててくれ。」
そういうと持っている武器をしまい、5人一斉に盾を取り出す。
「スキル発動!『光の領域』」
「…!!」
光の壁が俺たちを包み込んでいく。5人同時に放たれた光の領域は、魔王の攻撃をもはじく。
「これは…。美織が使っていたのと同じスキルか…。」
「どうして大河さんたちがこのスキルを?」
「ずっと考えてたんだ。どうしたらあんたらの役に立てるかって。レベル上げをしたところであんたらの力には追い付けねーし、これといって威力のあるスキルを覚えているわけでもねー。そんな時思いついたのが、盾としてみんなを守ることだった。」
この世界の武器はほとんどが攻撃系だが、中には例外もある。武器の中で唯一防御に特化しているのが盾だ。覚えることができるスキルもすべて防御系であり、攻撃スキルを覚えることはない。
しかしサブウェポンとして使用すれば話は変わる。武器を入れ替えることで攻撃系、防御系のスキルを一人で使うことが可能になる。サブウェポンは能力の幅を広げてくれる。しかし、メリットしかないのであればみんなも使っている。当然ながらこれにはデメリットも存在する。
一つは強い技の習得が難しくなることだ。この世界はレベルが上がるごとにスキルポイントがもらえ、選んだ属性に割り振ることでスキルを習得する仕組みになっている。そしてレベルが高くなればなるほど強い技が習得可能になるのだが、ほかの武器を扱うことで、そちらの方にスキルポイントを割り振らなければならなくなってしまうのだ。
もう一つは一定時間武器の入れ替えができなくなることだ。俺たちもこれが理由でサブウェポンを持っていないのだが、入れ替えができないということは、スキルポイントをしっかりと割り振っていないとスキルが使用できなくなってしまい、不利にしかならなくなってしまうのだ。
「…そっか。ありがとう。」
大河さんたちはみんなを守るという強い意志を持っているからこそ、こうして戦場に立って戦うことができるんだ。だったら今度は俺たちがそれに応える番だ。
「みんな。これを使おうかと思うんだけどいいかな。」
俺はグロウフラワーを取り出してみんなに見せる。
「これは何だい?」
「これはグロウフラワーって言うんだ。この中にはパラメータアッパーってスキルが入っている。」
「それって…!?」
「ああ。美織のスキルだ。」
美織が託してくれた最後の力。
「…私はいいと思うよ。最後の戦いだもん。美織と一緒に戦いたい。」
「俺も賛成だがよ、誰が覚えるんだ?」
「俺は真白がいいと思ってる。」
「私も真白おねーちゃんが覚えるべきだと思う。」
美織の一番近くにいたのは真白だから。きっとこの力を誰よりもうまく扱えるはずだ。
「…わかった。」
真白はグロウフラワーを受け取ると胸に当てて目を閉じる。するとグロウフラワーの輝きが真白の中へと入っていく。
(スキルだけじゃない。美織の思いが私の中に入ってくるのを感じる。)
「じゃあ歌うよ。」
真白の歌声が殺伐とした空に浮かぶ魔王城に響き渡る。真白の歌う姿が美織と重なって、本当にそばにいるみたいだ。
「これがパラメータアッパーか…。力が湧いてくる。」
「大河さん。あなたの仲間を1人ずつ真白たちにつけてくれませんか。」
「というと?」
「2人1組になってみんなで魔王を囲んだら、俺たちが最大火力で一斉に攻撃します。大河さん達には止めようとしてくる魔王の攻撃を防いで欲しいんです。」
「なるほどな。」
自分でも無理を言っているのはわかる。無理と言われれば別の方法を考えるしかないが、きっと大河さん達なら…。
「任せとけ。なんとしてでも守ってやるからよ。」
「…ありがとうございます。」
「でも2人1組じゃ1人余るぞ?」
「俺は大丈夫です。上手いことやるんで。」




