第七十八話 最終決戦
「もー、こんなところまで来て喧嘩なんてしないでほしいなー。」
空から突如現れた青年に、さすがの黒谷も戸惑っている様子。この状況は彼の想定外の出来事のようだ。
「お前は一体誰なんだ…?」
「誰って…君たちは僕に会いに来たんじゃないのかい?」
「いや、俺たちが会いに来たのは魔王で…。」
「だから僕がその魔王だよ。」
「……えー――――!!?」
どこからどう見ても俺たちと同じ人間だ。姿かたちは俺たちと何ら変わりはない。とてもこの世界を支配している魔王とは思えない。
「魔王ってもっと…こう…邪悪っていうか、悪魔みたいなのじゃないのか?」
「ん?あー、ごめん。変身を解除するのを忘れてたよ。」
魔王は指を鳴らす。すると魔王は紫色の煙に包まれていく。
煙が晴れ、中から姿を現したのは、背中に黒い翼を生やした上半身裸の男だった。
「これが僕の本当の姿。」
確かに先ほどの姿よりいくらか身長も伸び、魔王らしくはなったが、それでも俺の想像していた魔王の姿とはかなり異なる。てっきりもっと体はでかくて、毒々しい雰囲気に包まれていて、大きな角を生やした邪悪の塊みたいなものだとばかり思っていた。
「なんかあんまり怖がってないね。」
「まあ、迫力でいえばさっき戦った鬼のほうがあったからな。」
あの鬼ほどの気迫がこの男からは感じられない。
「ふーん。まあいいや。それよりもよくここまで来たね。ずっと君たちのような強い奴が現れるのを待っていたよ。」
そうだ。見た目に惑わされてはいけない。こいつは大陸を分断し、魔物を凶暴化させ、多くの命を奪った張本人だ。こいつを倒さなければ、俺たちの未来もこの世界にいるみんなの未来も終わりだ。
「あなたが魔王様なのですね。私たちはあなたに会えることを心待ちにしておりました。」
黒谷たちが片膝をついて頭を下げる。
黒谷のこんな姿は初めて見る。誰かに頭を下げる、まして片膝をついて忠誠を誓うなど。もいこのまま本当に黒谷たちが魔王の配下になるのであれば、疲弊しきった俺たちに勝ち目はない。
「君たちは?」
「私の名はクラム。そして後ろにいるのが私の仲間です。」
「へー。それで、僕に会いたかったっていうのは?」
「私どもは魔王様の手となり足となり、力の限りを尽くして働く所存です。ともに人間どもを倒そうではありませんか。」
「なるほどー。」
魔王は黒谷たちの周りを何周もしながらじっくりと眺める。
「君たちつまんないね。さっきの戦いにも参加してないみたいだし、ここにいる資格はないよ。」
そういうと黒谷の頭をつかみ、詠唱を始める。
「な、なにをするつもりです?」
「この魔王城から出て行ってもらうんだよ。」
詠唱が終わると黒谷たちの足元が光り始める。
「あれは転移魔法陣…。」
「ちょっ…私はま」
何か言おうとしていたが、最後まで言い切ることはなく黒谷たちは魔王城から姿を消した。
これが結果だ。黒谷は人間に裏切られてからずっと魔王に会うために頑張ってきた。過程はどうであれ少しかわいそうに思ってしまう自分がいる。決して許せるわけではないけれど、誰か黒谷に手を差し伸べる人がいたら結果は変わったのかもしれない。
「さて、邪魔者はいなくなったことだし、戦おうか。」
「…その前に一つ聞いたいことがある。」
魔王と戦う前聞いておかなければならないことがある。
「ん?なんだい?」
「お前は本当に暇つぶしのためだけに大陸を5つに分断したのか?」
「んー、そうだね。大陸を分断したのはいずれ現れる異世界人のためだよ。」
「いずれ現れるって…俺たちがこの世界に転移されることを知っていたのか?」
そもそも俺たちをこの世界に転移させたのは誰なんだ。あの声の主はいったい誰だったのか。
「声が聞こえてきたんだよ。『いずれお前を討つべくたくさんの人間が別の世界から現れるだろう。』って。最初は嘘かと思ってたけど、その時の僕は暇で暇で仕方なくてね。力も有り余ってたから、どうせならわかりやすく道を示してやろうと思ったんだ。」
「幹部もその一つってことか…。」
道を示すために大陸を分断するなんてデタラメすぎる。
「まあ、そのせいでかなり力を使っちゃってこんな姿になっちゃったけどね。」
ということは以前ほどの力は残ってないということだろうか。
それにしてもこの口ぶりから、魔王ですらあの声の主は知らないように思える。
一体俺たちは何に巻き込まれているんだろうか。謎は深まるばかりだ。
「もういいかい。」
「…ああ。」
「それじゃあ最終決戦の舞台に移動しようか。」
魔王がそういうと、地面が大きく揺れ始める。そして俺たちのいる最上階だけが宙へと浮いていく。
「なんだ!?」
「あたしたち空を飛んでるの!?」
気がつけばかなり上空まで来ていた。上は雷の鳴り響く雲、下には見渡す限りの荒廃した大地が広がっている。
「そうだ。これを渡しておくよ。」
魔王はポーションを差し出す。
「準備なら今のうちにしておいて。」
「随分と親切だな。」
「まあね。この日をずっと待ち望んでたんだ。最高の状態でやりたいじゃないか。」
こちらからしてもそれはありがたい。準備する時間をもらえるならもらっておこう。
「でも俺たち本当に勝てるのか?敵は大陸を5つに分断するような男だぜ。」
「そこは戦ってみないとわからないけど、正直未知すぎて…。」
力を使いすぎて弱体化しているとはいえ、その強さは計り知れない。
「この戦いで全てが決まる。やれるだけやってみよう。」
「準備はできたみたいだね。」
こちらの話が終わったのを見て、魔王はフィールドを展開する。
「では始めようか。」
すると一瞬で魔王の雰囲気は豹変する。鬼とはまた違った禍々しいオーラに包まれ、あふれんばかりのエネルギーを肌でひしひしと感じる。
今、俺たちの未来をかけた最終決戦の火蓋が切られる。




