第七十七話 黒谷という男
「計画だと…?」
「そうだ。私が魔王様に謁見するためのな。」
魔王様。たしかに黒谷はそう言った。倒すべき対象の魔王に対し、様をつけたのだ。しかも謁見するなど目上のものに対してしか言う言葉ではない。
「…それは前にお前が言ってた魔王直属の部下を目指している組織と関係があるのか?」
「さすがだな。私の見込んだだけはある。」
「…?どう言うこと?」
「…もし俺の考えが正しければこいつは最初から俺たちの味方なんかじゃなかったってことだ。」
できることなら間違っていて欲しい。少なからず俺たちは黒谷たちに助けられた。いつも前を走ってみんなを引っ張っていく様は多くの人の憧れだ。
この男が敵だとは…思いたくない。
「そうだな。私は君たちの味方ではない。君たちを利用したんだ。」
「利用した…だと?」
「ああ。春人くんに出会ったその日から私の計画は動きだしたのだよ。」
「俺と出会ってから…。」
俺が黒谷と会ったのはウルウルフに襲われていた時だ。
「な!?あそこで春人くんと出会ったのは偶然だろ!?」
「君には話していなかったな。あそこで春人くんと出会ったのは偶然なんかじゃない。」
偶然じゃない?俺は草原地帯が人でいっぱいだったから湖に…。
「最初の幹部戦だけどうして人数を増やしたと思う?」
「俺を湖に誘導するため…。そうか。あれほどに人を集めたのはそういう訳だったのか。」
俺はまんまと黒谷の思惑通りに動いてしまったということか。
「でもどうして春人くんを…?」
「この世界に飛ばされてから魔物が襲ってきただろう。あのときにピンときたんだ。この子なら私を魔王様の元へと連れて行ってくれると。」
「ちょっと待て。お前はその時から魔王の配下になることを望んでいたのか?」
あの状況でこいつは戦うことではなく、下に就くことで生きることを選んだと言うことだろうか。それも一つの方法ではあるかもしれない。けれどそれじゃ元の世界に帰ることは永遠に叶わない。
「それは少し違う。私はそもそもこの世界の人間だからな。」
「!!?」
あまりの衝撃にみな驚きを隠せない様子。
「でも黒谷って…。」
「黒谷正義という名は私の本当の名ではない。私の本当の名はクラム。魔王を崇拝する者『デーモンズ』のリーダーだ。」
「デーモンズ…。それがお前の姿なんだな。」
たしかに所々違和感はあった。黒谷はどこが自分の力を隠している節があった。あれほどの実力がありながらなぜか幹部戦では守りに徹していた。
それにこの世界についてやたら詳しいのもそうだ。
「俺らはずっとリーダーに騙されてたってことか?」
「いや、こいつらもデーモンズの一員だ。」
「なっ!?じゃあどうしてあの時俺を助けてくれたんだよ。俺の存在は邪魔になるんじゃないか?」
「そんなことはないさ。君がいたから私たちは誰にもバレなかったんだ。」
「…そうか。優樹という存在が黒谷たちに対する疑心感をなくしていたのか。」
たしかに一度も黒谷たちを魔王の配下を目指すものとして考えたことはなかった。それは優樹がパーティーにいたからだ。
「でもわからねぇ。どうしてそんなに魔王の配下になりてーんだ。それはつまり人間の敵になるってことだろ。」
「ふっ。人間はくずだ。私利私欲のために平気に他人を犠牲にする。」
黒谷は少し間を置いて再び話し出す。
「かつては私も魔王討伐を目指す1人だった。それなりに実力のあるパーティーにいて、支え合って生きていた。そんなある日私たちは魔物の討伐に向かった。魔物は群れで行動していたが、最初は順調に倒せていた。しかし、途中で仲間の1人が大怪我を負ってしまったのだ。そこからは酷かった。みんな慌ててしまいすぐさま形成は逆転。撤退命令が下された時、私は仲間の1人に背後から斬りつけられたのだ。信じていた仲間だけにショックだった。私はその場で倒れ、死を悟った。そんな時助けてくれたのがデーモンズ初代リーダーだ。彼も私と同じよう人間に裏切られ、人間不信になっていた。そこで私たちはデーモンズを作り上げた。それから来るべきに備えて仲間を増やしていった。それが今につながっている。」
なるほど。黒谷も人知れず苦労してきたんだな。
「でもそこからどう魔王の配下になりたいとつながるんだ?」
「魔王様は絶大な力を誇るまさに神のような存在だ。その下につくことができれば人間を滅ぼすことも夢ではない。」
それほどまでに人間を恨んでいたとは思いもしなった。そんなそぶりはみじんも感じなかった。
「最後に一つ聞かせてほしい。ブラッディファナティックスに指輪を渡したのもカジノを乗っ取った人たちに毒薬を渡したのもあなたなの?」
「そうだ。」
「どうして…!?」
「君たちにこの世界の闇に触れてもらうためだ。正義感の強い君たちは困っている人たちを放ってはおかないと思ったからな。」
実際俺たちは闇を見ることになった。そしていろんなことを知った。黒谷の目的が俺たちが闇に触れることで力をつけることだったとしたら、思惑通りに事が運んだことだろう。
結局俺たちは何から何まで黒谷の手のひらの上で踊らされていたってことか。
「黒谷さんがどうして魔王に会いたいのかはわかったわ。けれど私は納得できない。そのふざけた計画のせいでどれだけの人が辛い目にあったと思っているの。」
「君たちにわかってもらおうとは思っていないさ。」
黒谷とその仲間は武器を取り出した。
「ようやく私たちは悲願を叶えることができる。しかし君達の存在は邪魔になる。今ここで死んでもらう!」
「ちょっと待ってよ!」
魔王城の天井を突き破り空から1人の青年が現れ、俺と黒谷の真ん中に立つ。
「何しようとしてんのさー。せっかく面白い子たちが見つかったのに。」




