第七十五話 信頼
「春人君。これを使え。」
そういうと優樹は光沢のある空色の剣を取り出す。
「さすがの君でも剣が折れてしまっては戦えないだろ?」
あんなこと言った手前恥ずかしいが、確かに優樹の言うとおりだ。
「でもどうして優樹が剣を持ってるんだ?槍使いのはずじゃ…。」
「そいつは俺のサブウェポンだ。といっても俺には合わなくて1度しか使ってないけどね。」
サブウェポンか…。普通は持っているものなのだろうか。
「遠慮なく使ってくれ。」
「じゃあお言葉に甘えて。」
俺は剣を受け取る。
俺が使っていたものよりも一回り小ぶりで軽いが、なぜだか手になじむ。振った感じも悪くない。これなら何の支障もなさそうだ。
「…待たせたな。」
「カマワン。オレハスコシデモツヨイヤツトタタカイタイダケダ。」
俺が剣を受け取っている間いくらでも攻撃できただろうに、鬼は待ってくれていた。情けなどではなく純粋に自分が楽しむために。
「さっきまでの俺たちと一緒だとは思うなよ。」
「オモシロイ。カカッテコイ!」
「はあああ!!」
金棒に気を付けながら接近し、攻撃してはすぐ離れを手分けして絶えず行う。鬼の攻撃に対しては回避を第一に、防御するときは最低3人で受け止める。これを徹底して行っていき、少しずつではあるが確実に鬼にダメージを与えていく。
「チョコマカト…!」
「アレン!!しゃがめ!!」
「うおっ…!!」
アレンの頭すれすれを鬼の金棒が横切る。
「あっぶね…!助かったぜ。」
「気を抜かずに攻め切るぞ!」
不思議な感覚だ。みんなの動きがよく見える。自分でも怖いくらい集中しているのがわかる。
そしてそれはきっと俺だけじゃない。今のアレンの反応にしたってそうだ。みんながすべてをかけてこの戦いに臨んでいるんだ。目の前の敵だけを倒すことに必死なんだ。
「もらったーーー!!!」
スキを見て早乙女が鬼の背後に回り込み、スキルを放とうとする。しかし、次の瞬間攻撃を食らったのは早乙女のほうだった。
「…がはッ!!」
どういうことだ。今のは完全に後ろをとっていて、鬼の位置からじゃ見えなかったはずだ。早乙女の攻撃を止められるはずがない。
そして何よりも鬼の攻撃が全く見えなかった。この目に映ったのは早乙女が吹き飛ばされていく姿だけだった。
「早乙女!!!」
「…よくも翼おねーちゃんを!!」
アレンとマイが飛び出していく。
「だめ―!二人とも!!」
「…。」
鬼は無言で左手を振る。
真白の声は一歩及ばす、アレンとマイは鬼の攻撃をくらって壁まで吹き飛ばされてしまった。
「くそ…。こいつはまずい。」
優勢かのように思えた俺たちだったが、たった一瞬で形勢は再び逆転する。
「春人君!1度態勢を整えるぞ!」
このままではやられてしまうと判断した優樹がみんな1度下がるように指示を仰ぐ。
「…ミトメテヤロウ。オマエタチハサイコウノテキダ。ダガ…。」
鬼は突然金棒を空に向ける。
「何をするつもりなんだ…。」
緊張が走る。とてつもなく嫌な予感がする。そしてこういう時悪い予感は必ず的中する。
「おいおい…嘘だろ…。」
金棒はバチバチと音を立てながら雷を纏っていく。その姿は北欧神話の神トールを思い起こさせる。
「コイツハフセゲマイ。」
振りかざされた金棒から放たれる電撃が俺たちに襲いかかる。
「あいつらを守れー!」
「!?」
突然大河たちが俺たちの前に立つ。
「ぐああああ!!!」
電撃をまともに食らう大河たち。
「どうして…!!」
「…言っただろ…。いつかあんたらの…役の役に立つって…。」
「でもだからって…!」
「大丈夫…だ。俺らタフだからな。」
「それに…僕たち信じてるから。皆さんならあいつに勝ってくれるって…。」
「大河さん…。タケル君…。」
真白ならまだしも今日初めて会う俺にすら身を挺して庇ってくれた。倒してくれると信じて。それに応えないわけにはいかない。
「…春人君。」
「分かってる。」
俺と真白はそっと手を合わせ、目を閉じる。それから大きく深呼吸をする。
「…はは。こいつはすごいものが見れるかもしれないな。」
そういうと優樹は単身で鬼のほうへと駆け出していく。
『ウォーターストリーム』
「ナンダキサマ。」
優樹の攻撃は鬼の右足に命中した。
「…クッ!ジャマダ!」
しかし、その直後繰り出される電撃によって優樹は吹き飛ばされる。
「…俺も君たちを信じてる。…あとのことは…頼ん…だよ。」




