第七十三話 裏切り
「ついにここまで来たのか…。」
様々な困難を乗り越え、俺たちは5階にたどり着いた。
5階の構造をはとてもシンプルで、大きな通路に扉が一つ。きっとこの扉の奥に幹部がいるはずだ。
「魔物の奴ら追って来ねーな。」
黒谷の一撃を見て諦めたのか、それとも追っても無駄だと思ったのか。どちらにせよ戦わなくてもいいのなら好都合だ。
「皆準備はいいか?開けるぞ。」
ゴクリと唾を飲み込む。
大丈夫、俺たちは強くなった。右も左もわからなかったあの頃とは違う。今の俺たちならどんな敵にだって負けはしない。
黒谷が扉を開けると、巨大な部屋の真ん中にポツンと一人男が立っていた。それ以外には特に何もなく、物などは一切置かれていない。
「思ってたのと違うな。」
この場にいるほとんどが、派手な装飾に自画像、豪華な玉座などを想像していただろう。
しかし、部屋の装飾など今はどうだっていい。問題なのは目の前にいる幹部だ。
「こいつが最後の幹部…。」
鋭くとがった歯に真っ赤に染まった強靭な肉体、頭からは強大な角が2本、手には殺傷能力の高そうな金棒。
「まさに鬼だな。」
鬼は日本では伝説上の存在。鬼といえばその凶暴さから人々から恐れられているが、俺たちが今目の当たりにしているのは、まさにその鬼を具現化した存在だ。
フィールド越しでも感じるすさまじい威圧に思わず身を構える。
「今から私たちはこんな化け物を相手にしなければならないの…?」
戦わなくてもわかる。こいつは今まで戦ってきたどの敵よりも圧倒的に強い。
ついさっきまでどんな敵にも負けないなんて思っていたのに、実際に対面してみると体の震えが止まらない。頭では勝たなきゃと思っていても、体は素直だ。
「最初から弱気でどうする!」
黒谷が口を開く。
「君たちは何しにここまで来た?元の世界に帰るためだろう。敵が強いなんてはじめから分かりきったこと気にしている場合ではないはずだ。私たちがどれほどの人達の思いを背負っていると思っている。皆のためにも気合を入れろ!」
黒谷の喝が殺風景な部屋の壁に反響して何度も俺の胸を刺す。
…どうしてこいつはこんなにも人の心を動かすのが得意なんだろうか。その言葉が本心からなのかもわからないのに。
たくさんの人たちの思いを背負っている。それだけで前を向くには十分すぎる。
「バシン!!」
両手でほっぺたをたたく。
「大丈夫だ。端から逃げるつもりなんてない。今日で全部終わりにしよう!」
「…ふっ。その意気だ。がんばりたまえ。」
黒谷は俺の背中を強く押す。表現などではなく物理的に。
俺はそのままバランスを崩し前に倒れこんでしまった。すると一気にフィールドが展開されていく。
「え?ちょ…ま…。」
黒谷はこちらを笑いながら見つめている。
俺は何が起きているかわからなかった。一つわかることは、目の前にいる鬼を一人で相手しなけれならないということだ。
「グオオオオオ!!!!!!!」
「な!?」
鬼は一心不乱にこちらに向かってくる。
(速い…!?)
振り下ろされた金棒を何とかかわす俺だったが、鬼は何のためらいもなく金棒を振ってくる。
(まずい…!!こんなの受けきれない…!!)
「てめぇぇ!!何してやがんだ!!」
アレンが黒谷の襟元をつかむ。
「何ってそんなの簡単な話だ。この戦いが終われば次には魔王と戦うことになる。それなのに皆疲弊していては勝ち目はないだろう。それならば手分けして戦う方がいい。」
「ふざけんな!!じゃあどうして相談もなしに春人を押しやがった!!」
「口で言うよりも早いと思ったからだ。」
そういうと黒谷はアレンの手を払いのける。
「…だましたの?あんなこと言って私たちに戦わせるために。」
「答えてやってもいいが、いいのか?早く助けに入ってやらないと、彼死ぬぞ。」
こうしている間も春人は一人で幹部と戦っている。
「どうしてあんたはいつもそうなんだ!」
同じパーティーであるはずの優樹が黒谷に怒る。
「今回ばかりはあんたには従えない。俺も戦うからな。」
「…好きにするといい。」
今回の黒谷の行動に関して彼は何も知らなかったのだ。
「そうだ、真白!ペンダント!」
「そっか…!これならフィールドの中に入れる!」
「でもみんな入れるのかな…?」
ペンダントがどんな効果を持っているかわからない。もしみんなで入れなかったとしても、せめて私一人でも…。
「とにかく今は可能性に懸けるしかない。」
私たちは手をつなぎあう。一つになれば壁を抜けられるかもしれない。
せーのでフィールドに入ろうとしたとき、部屋の扉がバタンと開く。
「ちょっと待ってくれ!俺らも行く!」
「大河さん!?どうしてここに!!?」
「訳はあいつに勝ってからだ!」
それもそうだ。今は少しでも戦力が増えたこと喜ぼう。
気を取り直して、私たちはせーのでフィールドの中へと飛び込む。
するとペンダントは春人の持っているものと共鳴して光りだし、まるで壁など存在しないかのように中へと入ることができた。




