第七十話 一冊の日記
「危ないところだった…。ありがとう、優樹。」
「礼には及ばないさ。お互い様だろ。」
あと1秒遅れていたら俺は見つかっていただろう。
「ここは…書庫?」
「でもなんか雰囲気が違うね。」
書庫というには本の量も管理も行き届いていない気もするし、ちゃんとした入口がなかったことを考えると、この空間はおそらく魔物たちも知らない隠し部屋のようなものなのだろう。
「これを見てくれ。」
優樹は一冊の本を差し出す。
「この本を読めばここがどんな場所なのかわかると思う。」
「本…。」
俺は表紙を捲る。どうやら日記のようだ。
『…され…1日目……ここはどう…王城の…だ。』
ところどころ文字がかすれていて読むことができない。最初の数ページで何とか読むことができるのはこの一部分だけだった。
「22日目あたりから読めるようになるはずだ。」
俺は22日目の内容が書かれているページへと進める。
『拉致監禁されて22日が経った。町に残された家族が心配だ。どうして俺がこんな目に遭わなければいけないんだ。早くみんなに会いたい。』
『28日目。ついに脱獄に成功した。だが城中に魔物がいて脱出は難しそうだ。まずは食料の確保をしなければ。』
『30日目。やっとの思いで食料を確保をすることができた。これでうまくすれば30日くらいは持たせられるはずだ。』
『39日目。魔物どもの目を盗んで夜な夜なコツコツと作り続けていた隠し部屋がついに完成した。ここならば見つかることもないだろう。』
『45日目。今日も脱出を試みたが、外に出る方法がわからない。あの扉を開ける方法を見つける必要がありそうだ。』
『62日目。食料が尽きてしまった。奪った書物にも扉の開け方は記されていなかった。』
『68日目。もうだめだ。おなかが好きすぎて死にそうだ。最後くらい家族に会いたかった…。誰か魔王を倒してくれ……。』
日記は68日目を最後に途切れている。
「かわいそう…。」
「そうだね…。」
二か月以上ものあいだ魔王城に拉致監禁され、家族とは引きはがされ、最後まで脱出することはかなわなかった。
「どうしてこの人たちは捕まったんだろ?」
「うーん…。」
この日記がいつ書かれたものかはわからないが、この大陸にもまだ町があった時代ということを考えると100年以上前のものかもしれない。
しかし、なぜ町の人を拉致監禁する必要があったのだろうか。一体どういう目的があったというのか。その理由がわからない。
「でもこの日記でここは書庫じゃなく、人間の手によって作られた場所というのはわかった。」
よく見ると地面には人間のガイコツが転がっている。ここを拠点としていたことがわかる何よりの証拠だ。
「それにしても優樹さんたちはどうしてここに?」
「魔王城に吸い込まれた後、俺たちは右の道へ進んだんだ。」
「右?」
「ああ。」
変だな…。右に道なんてあったか?でもあの時俺たちは魔物を倒すのに精いっぱいだったからもしかしたら見落としていたのかもしれない。
「それでそのまま進んでいったんだけど、魔物の群れに襲われてね。最初は全部倒そうと思ったんだけど倒しても倒してもキリがなくて結局逃げることにしたんだ。その途中にたまたまリーダーがこの場所を見つけて今に至るってわけだ。」
話を聞く限り、俺たちとほぼ一緒みたいだ。
「よく見つけることができたな、こんな場所。」
「はは、神が私たちを生かしてくれたのかもしれないな。」
神…か。本当にそんなものがいるのなら魔王を倒してほしいものだ。
「それでは、無事合流することができたし、進もうか。」
「そうだな。この人たちのためにも魔王を倒してあげないと。」
何年もの間繰り返される魔王の悪行によって、何人の命が失われたことか。こんなことはあってはならない。
俺は日記をもう一度開き、一言書き加える。
『俺たちがあなたたちの思いを背負って魔王をぶっ倒してきます。』
そのまま日記をガイコツのところへ持っていき、抱えるようにして腕を組ませる。
「安らかにお眠りください。」
手のひらを合わせ頭を下げる。
俺に合わせてみんなも頭を下げる。
「少しでも届いているといいね。」
「ああ…。」
俺にしてあげられることはこれくらいしかないけれど、もし聞こえているのなら応援してほしい。俺たちが魔王を倒すその瞬間を見ていてほしい。
「さ、行こうか。幹部のいる場所へ。」
「よっしゃ、目指すは最上階だな!」
きっとそこに幹部はいる。
待っていろ。俺たちが倒しにくからな。




