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第七話 思い出

「侵入者ヲ直チニ排除シマス。大人シクヤラレヤガレデス」

「誰が大人しくしてたまるか!」

「私たちはこの薬草を持って帰りたいだけなの!だからやめて!」

「排除ッ!排除ッ!」

「だめだ、俺たちを殺す気満々だぞ」


 二人の話にまったく耳を傾けることなく、ロボットは両手に持った刀を振りかざす。体こそミノタウロスより一回り小さいが、威圧感は勝るとも劣らない。


 春人の額から頬を伝ってしたたり落ちる汗が、この場の緊張感を表している。


「やるしかなさそうだな」


 逃げ場のないこの状況では、二人に残された選択肢は1つしかない。


「はああッ!!!」


 真白がロボットに一撃を当てる。しかし、頑丈な装甲に真白の剣ははじかれてしまう。


「あんなに硬いんじゃ、どうやってダメージを与えればいいの……!」


 まずはあの頑丈な体をどうにかしなければならない。防御力に特化した魔物相手に、生半可な攻撃は防がれてしまう。たとえスキルを使おうとも、今の春人たちでは多少はダメージが入るかもしれないが、両手の刀で反撃されて斬られてしまうのがオチだ。


「――こいつを倒すには一撃で勝負を決めるしかない」

「でもそんな強力な技なんて……」

「せめて少し考える時間があれば……」


 方法を考えようにも、このロボットがその時間を与えさせてはくれない。


「死ネ侵入者」

「くそっ、このままじゃこっちの体力が持たない」


 何とか攻撃を防いではいるが、春人たちの攻撃が効かない以上やられるのは時間の問題だ。


 ――なんかいい方法はないのか。


 かなり苦しくなってきたそんな時だった。真白がふと一つの作戦を思いつく。


「――春人君。ポーション今何個持ってる?」

「えっと……。さっき1個使ったから、ラスト1個しか残ってない」


 男の子の家を出る際、薬草をとりに行くだけだからと、ポーションの補充をしなかった。こんなことになるのならきちんと補充しておくべきだったと、今さらながら後悔する春人。


「そんなこと聞いてどうするの?」

「……私に考えがあるの」


 真白は滝の頂上を見てそう告げる。


「考え……ってまさか!?」

「うん。多分今春人君が考えているので合ってると思う。だから少しの間時間を稼いでほしいの」

「だったら俺がやる! もし失敗したら死ぬかもしれないんだぞ!」

「それは春人君も同じでしょ」


 すでに決意を固めている真白は、決して春人に譲ろうとはしない。


「それに、やらなければどっちにしてもやられちゃうもん。だったら私は勝つ可能性に賭けるよ」

「……わかった。俺は真白を信じる。すべてを君に託すよ」

「ありがとう。じゃあ私もこれを春人君に託す」


 そういって真白は春人にポーションを手渡す。


「私もこれが最後の1本。任せたよ」

「……ああ」


 春人がポーションを受け取ったのを確認した後、真白は滝の流れるすぐ横の壁へと走っていく。小さいながらも大きな役目を背負った真白の後ろ姿は、とても凛としていた。


 ――真白の覚悟を無駄にするわけにはいかない!


「おい! へなちょこロボット! お前の相手は俺だ! はああッ!」


 春人はロボットへ全力で突っ込んでいく。そしてこれまでに培った戦闘スキルを最大限生かし、全力で攻撃をかわし続ける。


 春人が時間稼ぎをする間、真白は壁の凹凸を足場にして、巧みに滝を登っていく。


「どうしたへなちょこ! そんな攻撃当たんないぞ! 悔しかったら当ててみろ!」


 こんなことを言っているが、本当は春人に余裕なんかない。攻撃を受け止めるたびに衝撃で内臓がつぶれそうになる。それでも真白に意識が向かないように、春人は挑発し続ける。


「――ごめんね春人君。必ず成功させるから……!」


 痛みで吐きそうになりながらも、春人は剣を振り続ける。


「はぁはぁ。やばいな……。さすがにもう限界かも……」


 ポーションも残り1本となり、体力は残り僅か。剣を握る握力がなくなっていくのがわかる。


 そんなときだった。


「――春人君!」


 頂上から春人を呼ぶ声。


「待たせてごめんね! でももう大丈夫!」


 真白は数メートルもある滝の頂上から飛び降りると、ロボットの頭上めがけて真っ逆さまに急降下する。


「これで決める! ――『ウインドスラスト』!!」


 剣に風をまとわせた一点突きのスキル攻撃を繰り出す真白。落下速度を含んだスキル攻撃の威力は、通常の比ではない。


「イツノ間ニソンナ所ヘ。迎撃スル」

「させるかッ!」


 真白に気をとられ背を向けるロボットに、春人は残った体力で出せる全力の一撃を放つ。


「――『ブレイブソード』!!」


 背後からの一撃は、右手に持った剣を彼方へと弾き飛ばす。そして、そのまま春人はありったけの力でロボットの左腕にしがみつく。


「邪魔スルナ!」 


「やああああああッ!!!!!!」


 最高火力で放たれる一撃はロボットの頭頂部へと命中する。同時に強い衝撃が大地を揺らす。


 脳天を貫かれたロボットはピタッと動きを止める。


「ウウ…………侵入者ヲハイ……ジョ……シ…………マス……」


 やがて完全に機能が停止し、展開されていたフィールドが消えていく。


「ふぅ……。何とかうまくいったね」

「ほんとだよ。あんな無茶なことするって言われたときはどうなるかと思ったよ」

「でも勝てたでしょ」


 真白は鼻を高くしてドヤ顔で春人を見つめる。


「はは、さすがです」


 真白の諦めない精神と覚悟がなせる業に、春人は心から感心していた。


「やっぱり君をパーティーに誘って正解だったよ」


 ホッと一息をつく真白の横顔を見ながら、春人は小さい声でつぶやく。


「そうだ、これ」


 春人はバッグからポーションを取り出す。


「あと1個しかないから、半分こしよう」

「え、でも春人君もうボロボロだよ。私はいいから1人で飲みなよ」

「半分もあれば大丈夫だよ。それに、もともとこれは真白のポーションだからな」


 春人はポーションを半分飲むと、腕を曲げて元気いっぱいアピールをする。


「ほらね、大丈夫でしょ? はい、口をつけないように飲んだから、気にしないで飲んでいいよ」

「……わかったよ。そこまで言うのならもらうね」


 回復を済ませ、薬草を手に入れるという目的を果たした春人たちは、来た方向へと戻ろうとする。しかし、すでにそこには道はなかった。


「あれ? どういうこと? 私たちこっちから来たよね」

「んー、そのはずなんだけどな。少しこの辺を散策してみようか」


 普通なら出口がなくなっていたら取り乱すところだが、死闘をくり広げた後の二人は驚くことなく、冷静に状況判断をする。


「あれ、この滝の裏になんかあるぞ」


 滝の奥にはちょっとした洞穴があった。


「本当だ。きっとこれが帰り道なんじゃない?」


 岩に反響して聞こえる滝の音と、流れる水に映る木々の風景に二人は目を奪われる。


「いい場所だな」

「そうだね」


 しばらく二人は無言になり、神秘的なこの空間を体全体で感じていた。


「行こうか。男の子も心配しているかもしれないし」


 時間も19時を回り、外はすっかり暗くなっているだろう。


 洞穴を少し進んでいくと、宝箱とその隣には魔法陣が描かれていた。出口がなくなっていることを考えると、この魔法陣は外へ転移するためのものとみて間違いない。


 それよりも、二人は宝箱のほうに夢中だった。宝箱といえば、冒険の醍醐味、誰もが一度は開けてみたいと思うロマンの塊だ。


「宝箱……。こういうのってワクワクするよね」

「まさかゲーム以外で本当に宝箱を開ける日が来るとは、夢にも思っていなかったな」


 ワクワク気分で宝箱を開けると、底に一枚の写真が置いてあった。春人は写真を手に取り、何が写っているのかを確認する。

 

「これって……」

「とりあえず戻ろうか」


 写真をバッグにしまうと、二人は魔法陣の中に入る。すると、魔法陣は赤く光り始め、春人たちを一瞬にして森の外へと転移させる。


 ――これだけ一瞬で転移できるなら、どれだけ移動が楽になるだろうか。


 そんなことを思う春人であったが、あいにく魔法陣は高い魔力を持ったものにしか作り出せないため、異世界人の春人では自ら覚えることはできない。


 森を抜け、街に戻ると、光輝く巨大な木が町全体を照らしている。これもまた街の守り神と呼ばれる所以であろう。


「あ、おかえり! お兄ちゃんたち」

「ただいま。ほらこれ、約束の薬草だよ」

「わあ! 本当に見つけてくれたんだね! ありがとう!」


“ありがとう”その一言で今日一日の苦労が報われる。


「そうそう。これも君に渡しておくよ」


 春人は宝箱の中にあった1枚の写真を男の子に手渡す。


「この写真は……。」


 写真に写っていたのは、小さい男の子の赤ちゃんを抱えて笑っている夫婦とそれを見守っているおばあちゃん。写真の裏には日付と名が記されており、その横に一言『アルドラ誕生』という文字が添えられている。


「これって僕の名前……。それに写真に写っているのって、お父さんとお母さんとおばあちゃんと……僕?」

「きっとそうだと思うよ。これが秘境の滝に隠されてあったんだ」

「そうなんだ。……ありがとう。こんなものまで」


 アルドラの目からは涙が流れ、小さな手で写真を大切に抱きかかえていた。


「何かお礼をしないと。そうだ、ご飯食べていってよ。それくらいしかしてあげられないけど」

「お礼なんていらないよ。せっかく薬草が手に入ったんだから、おばあちゃんに飲ませてあげて」

「でも……。じゃあ、せめてこれを受け取って!」


 アルドラは2本のペンダントを差し出す。


「これ、お父さんとお母さんのなんだ。出かける前に『困ったらこれを売りなさい』って言われたの」

「そんな大事なもの受け取れないよ」

「いいの。僕にはもう必要ないから。だからもらって」


 断っても引き下がらないアルドラに、春人たちは仕方なくペンダントを受け取る。


「――それじゃあ、俺たちはもう行くよ」

「え、もう行っちゃうの?」

「ずっとここにいると迷惑がかかっちゃうからね」

「そっか……。うん。本当に……、本当にありがとう!」

「バイバイ。おばちゃん、元気になるといいね!」


 お別れの挨拶を済ませた二人は、にぎやかな街を歩く。


「でもどうしてあんな場所に写真なんかあったんだろうね」

「さあね。あの子にきれいな景色を見せてあげたかったのかもね」


 あの場所にロボットがいた理由、幹部でもないのにフィールドが展開した理由、写真が隠されていた理由、どれも定かではないが、春人はある1つの考えを導き出していた。


 ――ロボットは実はもともと幹部だったが、何らかの理由で入れ替わった――


 しかし、あくまで可能性の話であって、今では確認する方法はないと、春人は自分の胸の内に留めるのであった。


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