第六十九話 逃走劇
「突っ切るって…正気か!?」
「じゃああいつら全部倒すか?」
「うっ…。それは…。」
挟まれてしまった時点でもう俺たちに残された選択肢は一つしかない。こちらに人数がもう少しいたのであればほかにもいくらか方法はあっただろうが、今はそんなこと考えている余裕はない。
「それなら私に任せてよ。私が魔物たちの注目を集めるから、そのスキに行ってよ!」
「どうするつもりなの?」
「それはね、こうするの。」
マイは四つん這いになって全身に力をためる。猫の獣人はこの体勢になると、攻撃ができない代わりに素早さが上昇する。特性を生かした獣人ならではのスタイルだ。
「にゃーー!!」
マイは前方にいる魔物たちの群れに突っ込んでいく。そう簡単には通すまいと攻撃してくる魔物の足元をするりと抜けていく。
「ギィィ!!」
人数が仇となり、魔物たちは足元を抜けていくマイに思うように攻撃ができず戸惑っている。
「…行こう!今なら抜けられる!」
マイに注目が向いている間に俺たちは突破を目指す。マイのように魔物たちの下を抜けていくのは無理なので、できるとしたら上からだ。
真白と早乙女は壁を利用して、俺とアレンは魔物たちの頭を足場にしてそれぞれ魔物の軍勢の更に向こうへと超えていく。
マイも俺たちが突破したとわかるや否やスキを見計らって潜り抜けてきた。
「これで何とか抜けれたな。」
「安心するにはまだ早いぞ!」
しかし、当然ながら魔物たちは追ってくる。倒したわけではないので、振り切らない限りこの状況はずっと続くだろう。
「…アレン!そういえば酒持ってたよな!」
「ん?ああ、久しぶりに飲んだらまた飲みたくなってな。買っておいたんだが…、もう飲まねーだろうな。」
「じゃあ貸してくれ!」
「いいけどよ…まさかこの状況で飲むってわけじゃねーよな。」
「違うって。それに俺はまだ未成年だ。」
俺はアレンから酒を受け取る。ノンアルコールではなくしっかりとしたお酒。これがあれば足止めできるかもしれない。
俺は受け取った酒を地面にまんべんなくばらまく。
『フレイムバースト』
そしてばらまいた酒にスキルを発動する。すると酒に引火して、俺たちと魔物たちとの間を隔てる火の壁ができた。
魔物たちは火を恐れているのかなかなかこちら側に来ようとしない。
「今のうちに上に行こう!」
奥にある階段を上っていき上の階へとたどり着くと、念のために魔物が階段を上ってこれないように破壊しておく。
「これであいつらは追って来られないだろ。」
ほかにも上の階に上がる手段はあるだろうが、時間を稼ぐには十分だ。
「今のうちに先へと進もう。ほかにも魔物はいるだろうからな。」
「そうね。まだ転移魔法陣はあるかもだし、いつ襲われるかわからないからね。」
ここは敵の本拠地。常に緊張感をもって行動しなければ、幹部戦にたどり着くまでにやられてしまうかもしれない。
「なんかさー、お城にしては部屋の数が少なくない?あたしの勝手なイメージだともっとたくさん部屋があるもんだと思ってた。」
扉は左右にひとつづつ。あとは奥に上の階につながる階段があるだけ。俺は特に何も感じていなかったが、言われてみれば少ない気もしなくもない。
しかし、各地に散らばる幹部や襲い掛かってくる魔物の感じから、特にこの城に誰かが住まわっているわけでもなさそうなので、それほど部屋の数は必要ないのだろう。それに、大陸を5つに分けたのも魔王の暇つぶしだとすると、この城そのものが雰囲気づくりの飾りということもあり得る。
「ギィィ!!」
「はっ…!?」
俺たちが今向かっている方向から魔物の声が聞こえてくる。
すぐ近くというわけではないが、引き返すことができない以上見つかるのは時間の問題だ。
「まじかよ…。」
今度ばかりは戦うしかない、そう覚悟した時、どこからか声が聞こえてくる。
「こっちだ。」
「誰だ?」
壁にかけかけてあった垂れ幕のほうから声がする。
「まさかあの裏にも敵が…!?」
俺たちはグッと身構える。
「違う違う。俺だよ。優樹だ。」
「え、どういうことだ。」
垂れ幕の裏には人一人がぎりぎり通れそうな大きさの小さな穴が開いていた。
「そんなことよりも早くこっちへ!!」
優樹の言うとおりに穴をくぐっていく。穴は小さいので順番に入っていくことにしたのだが…。
「うわ、挟まっちまった!」
後に俺が控えているのに、アレンは穴につっかかってしまった。
「何やってんだ。」
後ろから無理やり押し込む。アレンは苦痛の声を上げていたが、そんなこと言っている場合ではない。
前のほうからどんどん魔物の声が近づいてきている。
「よっしゃ!抜けた!」
「春人君急げ!」
奥から優樹が手を伸ばす。それをつかみ穴の中をくぐっていく。
「ギギ?」
何とか間に合ったようで、俺たちは魔物をまくことに成功した。




