第六十六話 そのためにここに来た
二人の警戒が解けたところで俺たちは一旦集まる。
「二人に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「…別にいいよ。それくらい。」
「ありがとう。君たちはここに住んでいるの?」
一番気になっていたことだ。人が生活していく上で水と食料は絶対に必要となるが、ここにはそれがない。
「ああ。俺とルナは生まれてからずっとここで暮らしてる。ちょっと前までは俺たち以外にも住んでいる奴がいたんだけど全員魔物に殺されて、今は俺たち二人だけ。」
「そんな…。」
こんな過酷な場所でたった二人残されたこの子たちの気持ちを想像しただけでつらくなる。
それに、建物が崩れてがれきまみれでは、遺骨を見つけることが難しく、埋葬してあげることもできない。
「もっと私たちが早く来てあげていれば…。」
「別に。俺たちも同じようなことしてるしな。」
「…どういうこと?」
「魔物を殺してその肉を食べているんだよ。」
なるほど、魔物の肉を食べて生活しているというわけか。確かにこの世界ではそれが普通だし、変なことではない。しかし、問題はそこではない。」
「…二人とも。どれくらいの頻度で食事をとっている?」
「…1週間に1回くらい。」
やはりそうか。この環境で育った魔物の肉なんてほぼ毒に近い。もし仮に魔物を一体倒したとして手に入る肉の量などごく少量だろう。
それに加え魔物のレベルも高い。小さな子供二人では倒すことすらほぼ不可能に近い。おそらく魔物が一体だけの時を狙い不意をついているのだろう。あいにくこの場所では不意をつきやすい。
「魔物の肉が食べられないときはどうしているんだ。」
「雨水を飲んで空腹を満たしてる。ここではたま雨が降るから。」
水ですら満足に飲めなていないのか。
「何十年か前はいくらかマシだったみたいだけどな。」
「何十年か前って?」
「…母ちゃんが言ってたんだ。『昔はもっと食料もあったのに。たくさんご飯を食べさせてあげれたのに。ごめんね。』って。母ちゃんは何にも悪くないのに…。」
「…。」
俺はかがんで男の子に目線を合わせ、頭をなでる。
「なんだよ急に!!」
「もう大丈夫だ。」
「あ…?」
俺は立ち上がり真白たちのほうを向く。
「悪いけど一度戻ってもいいか?」
そう聞くと、みんなあきれ顔で答える。
「当たり前でしょ。」
「むしろここで何もしなかったら俺がぶっ飛ばしてたところだぜ。」
「…はは。そうだよな。」
俺は再び男の子のほうを向く。
「俺たちがいいところに連れて行ってやる。」
「…どういうことだよ。」
「おいしいものがたくさん食べられるところ。」
「おーい、やってるかー?」
「へいらっしゃい!お、久しぶりだな!」
あれから俺たちは一旦引き返し、イッテツの経営する酒場に来ていた。ここには何度か足を運んでおり、よくお世話になった。
「…ここは?」
ルナが少し怯えた様子で聞く。
「ここがおいしいものがたくさん食べられるところだよ。」
「ここが…。」
二人にとっては目に映るすべてが初めて見るもので、二人の暮らす廃墟との違いに驚きを隠せない様子だ。
「マスター!頼みがあるんだけど…。」
「ん、なんだぁー、割引か?」
「いや、そうじゃなくて。この子たちをここにおいてくれないか?」
俺は頭を下げて頼み込む。
「おいおい…どういうことだよ。さすがの俺も理由もなしにうんとは言えないぜ。」
「この子たちは新大陸に住んでたんだけど、そこはあまりにもひどい場所でさ…。食料は魔物からしか手に入らないうえに、やっとの思いで手に入れた肉も大半が腐って食べれない。だから普段は雨水を飲んで空腹を満たしているんだよ。こんな小さな子供二人がだぞ。黙って見過ごせるわけがないよ…。」
本当ならば俺たちが面倒を見るべきなのだろうけれど、戦いに連れていくわけにもいかない。
だから無理なお願いでも頼み込むしかない。
「…なるほどな。そういうことなら断るわけにはいかねえな。」
「本当か!」
「ただし、ただでというわけにもいかねえ。今回のお代2倍、いや3倍もらうぜ。」
「分かった!」
よかった。これでもうこの子たちが危険な目に遭うことはない。
「ちょっと待てよ!どうしてそこまでしてくれるんだよ!」
「困ってる人は助ける、だからかな。」
「でもさすがにここまで…。」
「だったら祈っていてくれ。俺たちが魔王を倒すことを。」
「え…!?」
今までで一番大きな声で驚く。
「俺たちはそのためにここに来たんだよ。」
「いくら何でも魔王を倒すなんて…。」
「それでもやらなきゃいけないんだよ。この世界を平和にするにはな。」
そういって俺たちは店を後にする。
「…頑張って。」




