第六十四話 近づく距離
幹部戦後、俺たちは街への帰路に就く。
「この雪がきついな。」
降り積もる雪に足を取られ思うように歩けない。加えて、疲労が溜まりヘトヘトな状態での雪道はとてもしんどい。
「でもなんかこんな大人数で移動するって不思議な感じだねー。」
「緊張感も幹部戦前と比べて少ないから安心感あるよな。」
とはいえ油断は禁物だ。視界の悪い場所ではいつ魔物に襲われるかわからない。
「…きゃ!」
真白が足を滑らせ転びそうになる。
「真白!」
俺は咄嗟に真白の手を引くもそのまま一緒に倒れてしまった。
「…っ!?」
するとどういうわけか俺が真白を押し倒したような形になってしまった。
「はっ!ごめん!!」
俺は急いで立ち上がる。
俺も真白も顔が真っ赤になっている。こんな展開漫画でしか見たことなかったが、実際に体験すると頭の中はパニックで他のことは何も考えられなくなる。
「え、えっと…だだ大丈夫だよ!!」
「そっか…!」
動揺を隠せず、まともに顔を見て話せない。
「お前ら何やってんだよ。」
少し前を歩いていたアレンがこちらへ振り返る。
「ちょっと!今いいところだから邪魔しちゃダメ!」
それをすぐさま早乙女が止める。
「邪魔ってなんだよ。」
「ほら見てよ二人のあの顔。ちょーおもしくない?」
「…悪かった。確かにあれは邪魔しちゃわりーな。」
それからしばらくの間俺と真白の無言の時間が続いた。話したいことはたくさんあるはずなのに、恥ずかしさのあまりなんて話しかければいいかわからなくなっていた。
それでも勇気を出してあの日の感謝を伝えようと口を開く。
「なあ…。」
「ねえ…。」
全く同じタイミングで真白も話を始めようとする。
「あ、ごめん。先にいいよ!」
「ううん!春人くんからどうぞ!」
「そう?じゃあ…。」
謙遜しあう二人にどこかもどかしさを感じながら、アレンと早乙女は耳を澄ませる。
「おかゆありがとうな。おいしかったよ。」
「え…そっか。食べてくれたんだ。」
あのおかゆは今まで食べたおかゆの中で一番おいしかった。3日近く何も食べてなかったのもあるけれど、何よりもぬくもりを感じた。
「それとさ…俺が寝ている間ずっと手を握っていてくれてありがとう。」
俺は照れ隠しに目をそらす。
「え!?どうして知ってるの!?」
「精神世界でいろいろあったからね。」
「そうなんだ…。」
こっちからははっきりとは見えなかったが、真白はどこか嬉しそうだった。
「真白は何を言おうとしたんだ?」
「あ、え、私!?私はもう大丈夫だよ!聞きたかったことわかったから。」
「ん?ならいいけど。」
今まで友達が一人だけだった俺には、女の人の気持ちを理解するのは難しい。
でも真白が嬉しそうなら俺はそれで満足だ。
「なんだか青春って感じだねー。」
「ああ。学生時代が懐かしいぜ。」
「どうしたのー?」
二人の会話が気になったのか、マイが話しかける。
「いずれマイちゃんにもわかるときが来るよー。」
「??」
「盛り上がってるところ悪いけどまだここら辺は魔物も出るぞ。」
勇気が後ろにいる俺たちに聞こえるように大きな声で言う。
そうだった。さっきまで油断は禁物とか思っていたのにもう忘れていた。
「気を引き締めないとな。」
「やっとついたー!!」
あれから魔物と2、3回ほど戦闘はあったものの、無事に街に着いた俺たちは黒谷たちに別れを告げた後、最初に防具屋へと向かった。
「こんにちはー。」
「いらっしゃいーってあなたたちは…。」
この防具屋は俺たちが今着ている防寒着を作ってくれたお店らしい。
「今日はどのようなご用件で?」
「今回はもう一人私たちの仲間を連れてきたんです。」
真白が店員に俺のことを紹介する。
「ということはこちらの方が…。」
「初めまして。黒野春人です。」
「そうなんですか。よかったですね!」
そういうと店員の女性は奥の部屋へと入っていき、男の人を呼び出す。
「おー、君がもう一人の仲間の子か。」
「はい。お二人には仲間のみんながお世話になったとのことで。」
「いやいや、こちらは店員として当然のことをしただけだよ。」
「そうですよ。驚いたのはこちらの方なんですから。」
女性は防寒着を作るまでの出来事を俺に話してくれた。
「そっか。この服が…。」
「はい、簡単なことじゃなかったはずですよ。」
「…みんなありがとう。」
まさかこの服を手に入れるまでにそんなことがあったなんて知らなかった。俺はみんなに感謝しても感謝しきれない。
それから俺たちは30分近く話し込んだ後、宿へと戻ることにした。
「すいません、お忙しいところ。」
「いえいえ、こちらこそわざわざいらっしゃってくれてありがとうございました。」
「それでは失礼します。」
みんながここの人たちにお世話になったということで来てみたが、とてもやさしい人達でつい長居してしまった。また来たくなるのもわかる。
「この大陸は寒いけど温かいなぁ。」
「ふふふ。そうだね。」




