第六十三話 これからも
「…ということなんだ。」
俺はみんなに寝ている間に起きたことのすべてを話した。
「そっか、美織が…。」
「信じてもらえないかもしれないけど、俺は美織と家族の言葉に救われたんだ。」
あの言葉がなければ俺は今も自責の念に苛まれていただろう。
「でもなんかすごいね。それって美織お姉ちゃんと春人お兄ちゃんの家族の人たちが心配して会いに来てくれたってことでしょ。」
「信じてくれるのか?」
「うん。え、どうして?」
俺の精神世界で起きた出来事だ。普通に考えたら俺自身が作り出した妄想と思うだろう。
それなのにまったく疑うことなく信じてくれる。むしろどうして信じてもらえないと思っているのかがわからないって顔をしている。
「…はは。ありがとう。」
「まあ、俺は信じてたけどな!お前ならすぐ戻ってくるって!」
「そんなこといって、めっちゃ心配してたくせにー。」
「はあ?俺が?」
「うん、酔っぱらってた時に『春人の奴大丈夫かなー』って。」
お酒は人を素直にするっていうからな。飲みすぎには注意が必要だ。
「私からも一つ聞いていいか。」
黒谷が向こうから歩いてくる。
「君はどうしてフィールドの中へ入ることができたのだ?幹部戦の途中は中と外の出入りはできないはずだが。」
「そのことなんだけど…。」
俺は首にかけていたネックレスをみんなに見えるように服の上に出す。
「このネックレスが急に光りだしてさ。そしたらどういうわけかフィールドの中に入れたんだ。」
「そのネックレスってもしかして…。」
「うん、あの時助けた男の子からもらったものだよ。」
まだパーティーメンバーが俺と真白だけだった時に、男の子に薬草を届けた代わりにもらったネックレスだ。
「どういうことだ?」
「もしかしたら真白の持っているものと共鳴したのかもしれない。」
「ふむ…そのような効果は今まで聞いたことがないな。」
黒谷でも聞いたことないとなると、俺の思い違いかもしれないが、このネックレスのほかに入れた理由は思い当たらない。
「となるとそのアイテムは相当にレアなものということになるな。」
「これが…。」
世の中何が起こるかわからないな。こんな形でネックレスが役に立つ日がくるとは思ってもいなかった。
「きっと日頃の善行がこうして帰ってきたんだよ。」
「そうだといいな。」
「何はともあれこれで残すは幹部一体と魔王だけだな。」
決して順調とは言えないが、それでもここまで来れるなんて最初は思ってもみなかった。
「ついにここまで来たんだねー!元の世界に戻る日まであと少しだね!」
「そうだね。」
この異世界冒険の終わりも徐々に近づいてきている。
「…もう一つみんなに言いたいことがあるんだ。」
俺は一度大きく深呼吸をする。
「今までごめん!みんなにはたくさん迷惑かけたし、心配もかけた。今回だって幹部戦っていう大事な時に遅れてしまった。でも俺はみんなともっと一緒にいたい。こんな情けない俺だけどもう一度みんなと戦いたい。」
みんなの顔を見るのが怖くて顔を上げられない。
「春人君。大丈夫だよ。春人君がどれだけ辛い思いをしたかわかってる。それでもこうして私たちのピンチに駆け付けてくれた。今までも春人君はずっとみんなを支えてくれていた。」
真白は俺を抱きしめる。
「真白…。」
「迷惑だなんて思ったことないよ。だからもう一度一緒に頑張ろう。」
「そうだぜ。何を言うかと思ったら、俺たちをなんだと思ってるんだよ。」
「みんな…。」
本当はわかっていた。みんなならきっと許してくれるって。それでも怖かったんだ。もしかしたら拒絶されるかもしれないって。
「ほら、顔を上げて。」
そう思っていた俺が恥ずかしい。こんなにも優しい仲間を持っているのに何を恐れる必要があったのだろうか。
「本当にありがとう。」
俺はみんなと一緒ならどんな困難も乗り越えていける。そう思った。
「どうやら落ち着いたみたいだね。」
そうつぶやいたのは優樹だった。
「君たちはこれからどうするつもり?このまま次の大陸へ行くのか?」
俺はみんなの顔を見る。
「いや、さすがにやめておくよ。今の状態で次の大陸に行くのは危険だからな。」
「そっか。だってよリーダー。どうする?」
「そうだな。さすがに今回ばかりは私たちも一度引き返そう。」
少し意外だった。これまでずっと最前線に立ってきただけあって、彼らは戻るという選択をしたことがなかったのだ。
「じゃあ一緒に戻ろうか。いくら街まで戻るだけって言ってもこの大陸の魔物はなどれないからな。」
この提案に乗らない理由はない。
「あとずっと思ってたんだけど…寒くないのか?」
ここは雪の降る極寒の大地。いくら風がないといっても十分寒い。
「そういえば…寒い!!!」
「春人君、これを!」
真白は防寒着を取り出す。
「これ春人君の分!」
「ありがととうう。」
かじかんだ手で防寒着を受け取る。
「さささむむい…。」
そういえば結局寒さ対策はしなかったんだった。無我夢中で走って、ついてからは戦いっぱなしで、今の今まで寒さのことなんか忘れていた。
「さすがのお前も寒さにはかてねーか!はっはっは!」
「もう、笑い事じゃないよー。」
こうして俺たちの4回目の幹部戦は無事勝利に終わった。




