第五十九話 私の英雄
「父さんに母さんに夏美まで…どうしてここに。」
「何バカなことを言っているんだ。早くこっちに来て食べるぞ。」
言われるままに俺は定位置である一番右の席に座る。
家族全員でご飯を食べるのはいつぶりだろうか。
「今日はあなたの好きなカレーよ。」
「…うん。」
俺はスプーンを手に取るが、そこから先がどうしても進めない。
「どうしたの兄ちゃん?」
「…いや。」
「聞いたぞ。お前大変なことに巻き込まれているらしいな。」
ここは精神世界だ。知らないはずのことをしていてもおかしくない。
「もうー、兄ちゃんは普段は大人しいくせに、なんかあると首を突っ込むんだよね。」
「ほんと誰に似たのかしらね。」
「いや、今回は自分から首を突っ込んだわけじゃ…。」
気が付いたら知らない場所にいたんだ。
「…悩みがあるんだろ。言ってみろ。」
「俺どうしたらいいのかな。頑張ってやってきたつもりだったけど、いざというときに大切な人を守れなかった。今も俺は仲間に迷惑をかけてる。いつも失敗ばかりでどうしていいかわからないんだ。」
考えてみれば家族に自分の悩みを話したことなかった気がする。
「お前自身はどうしたいんだ。」
「それは…俺はみんなと一緒にいたい。誰にもいなくなってほしくない。」
もう二度と誰かが殺されるのを見たくない。
「だったらこれまで以上の努力をしないとな。そりゃ生きてればつらいこともたくさんあるさ。だからってすべてから逃げていいわけじゃない。向きあって受け入れなければならない時もある。」
「父さん…。」
「あなたはまだ子供なんだからすべてを背負う必要なんてないのよ。それは大人のすることなんだから。子供は何度も間違えて、失敗して、そうやって成長していけばいいの。」
「母さん…。」
やっぱりすごいんだな、親っていうのは。なんだかとても心に刺さってくる。
「人生にやり直しはきかない。だから今あるものを大切にしなさい。」
「うんうん。大体前から思ってたけど兄ちゃんは自分一人で何とかしようとしすぎなんだよね。もっとみんなを頼ってもいいっていうか。」
「そうだよな。」
今の俺には頼れる仲間がいる。何よりも大切な仲間がいる。
俺は勢いよく立ち上がる。
「どうしたの兄ちゃん?」
「ごめん、俺みんなのところに急がないと!」
そのまま部屋の扉へと走っていく。
「春人!」
俺は振り向く。
「行ってこい。」
「…ああ、行ってきます!」
勢いよく扉を開け、俺は家を飛び出る。
「どうでしたか。」
「ああ、おかげで自分の気持ちの整理ができたよ。ありがとうな、美織。」
「それはよかったです。」
そういうと美織は後ろを向く。
「ということはお別れですね。」
「…うん。」
「またこうして春人さんとお話ができてよかったです。本当はもっとお話ししたかったですけど、仕方ないですね。」
だんだんと美織の姿が消えていく。それだけではなく、この世界そのものが消えようとしている。
「…美織。俺は必ず美織の分まで生きるよ。託された命無駄にはしない。」
「…うれしいです。」
美織の目か涙がこぼれる。
「ありがとう…。本当にありがとう!」
「…さようなら。私の英雄。」
完全に姿が消えたその時、俺は現実世界で目を覚ました。
「…君のことは絶対に忘れない。」
美織は今も俺の心の中で生き続けているんだ。
「行かないと。」
俺はベッドから起き上がる。
「あれは何だろう。」
キッチンの上にお鍋と手紙が置いてあった。
「これは真白が作ってくれたのか…。」
蓋を開けると中身はおかゆだった。アイテムで保温してくれていたおかげでまだ食べれそうだ。
「食べやすいようにおかゆにしてくれたんだ…。ありがとな。」
俺はおかゆを一気にかきこむ。
「ごちそうさまでした。さてと…。」
書き残してあった手紙を読む。
「起きたらメッセージをください…か。」
俺はメッセージ画面を開いて、真白にメッセージを送ろうとする。
「…ん?なんだこれ。」
画面に表示されたのは見たことのない文面だった。そこには幹部戦中のため送れませんと書かれていた。
「な…!?幹部戦中だと!?」
俺は慌てて宿屋を出る。
「くそ…!早くみんなのもとへ急がないと!」




