第五十七話 選択
「ガチャ。」
私は春人君のいる部屋の扉を開ける。
「寝ちゃってるか…。」
2日たった今も春人は塞ぎ込んでいる。
私は部屋に付いているキッチンに向かう。
「…やっぱなんも食べてないのかな。ちょっとは栄養取らないと身体の方も疲れちゃうよ。」
外へ出かけた様子はないため、キッチンに何も残っていないということは何も食べてないということだろう。
「…よし!少しでも元気になってもらうためにおかゆでも作ろうかな!」
本当は彼の好きなカレーを作ってあげたいけれど、翼ちゃんたちと別れてから直接ここに来たため、食材がない。
「…食べてくれるといいな。」
「春人くん、入るね。」
おかゆを片手に私は扉を開ける。
「起きて。おかゆ作ったから食べよ。」
しかし春人の返事はない。
「…起こすのもかわいそうかな。」
私はそばにあった小さなテーブルの上におかゆをおく。
そのまま空いているベットに腰を下ろし、膝を抱え春人を見つめる。
「なんだか初めて会った頃を思い出すなぁ。あの頃は私、自分のことで頭がいっぱいで…。それでも春人くんは歩み寄ってくれた。」
今でも忘れない。あの時春人くんに会えたから今の私がある。
「…今度は私が君を助ける番。なのにその方法が思いつかないよ…。」
私は立ち上がって春人くんの手をそっと握る。
「せめてこうして君のそばにいることしか私には…。」
それから夜が明けて日が昇るまで手を握り続けた。少しでも傷ついた心を癒すために。
「…んん……あれ、私寝ちゃってた。」
時間を確認すると午前6時を回ったところだった。
「春人くんは…。」
眠ってはいるが、どこか苦しそうにしている。
私はテーブルの方をむく。
「結局食べてもらえなかったか…。」
テーブルの上には昨日と同じ状態のままおかゆが置かれている。
「…だめだめ。こんなことで挫けるわけにはいかない。もう一回作ればいいだけ。」
私はもう一度キッチンへと向かう。
「まずはお米を研いで…。」
慣れた手つきで進めていく。
「よしできた!」
おかゆが完成し、持っていこうとした時、ピロンと音が鳴った。
「あれ、メッセージだ。誰からだろ。」
メッセージはアレンからだった。
『悪いが急いでこっちに戻ってきてくれないか。もし春人が元気になってたら春人も一緒に頼む。』
「何かあったのかな。」
こんな時間に連絡してくるぐらいだ。もしかしたらまた大きな事に巻き込まれているかもしれない。
「春人くん、ごめんね。私行かないと。」
おかゆに蓋をして、その横に置き手紙を残す。
『おかゆ作ったので食べてね。起きたら連絡ください。くれぐれも無理はしないでね。』
「これでよし。行ってきます。」
聞こえるように大きな声で言ったが、やはり返事はない。その静寂に私は少し寂しさを覚えた。
「ごめーん。お待たせ!」
「悪いな急に呼び出して。」
何やら空気が重たい。昨日の陽気な雰囲気が嘘のようだ。
「ううん、大丈夫。」
「春人のやつは?」
「まだ眠ってる。今もずっと戦い続けてるみたい。」
「そっか…。」
みんな口にしないだけで辛いんだ。彼なら戻ってくるという期待が大きいほど、彼がいない時のショックも大きくなる。
「それで何があったの?」
「それに関しては私から話させて頂こう。」
後ろから黒谷たちが出てくる。
「まずは君たちの助けた人たちのことだが、彼らは全員目が覚め、自由に歩けるほどに回復したらしい。」
「…よかった。ほんとによかった。」
ずっと心配だったから、この知らせはとてもありがたい。
「…もう一つ大事な話がある。」
「大事な話?」
「ボスが見つかったのだ。」
「え!?」
まだ前回のボスを倒してから3日しかたっていないというのに。
「明日、討伐しに行こうと思う。君たちにも是非参加してほしい。」
「でも…。」
春人くんがいない今、参加するのは正直難しい。
「春人くんがいないのはわかっている。でも私たちも遊びでここにいるわけではない。彼を待っているわけにもいかないのだ。」
「そんな…。」
「返事は今日中であれば構わない。では私たちは去るとしよう。」
操られた人たちの話を先にしたのはきっとこのためだ。断りにくい状況を作りたかったのだろう。
「どうしようみんな…。」
「俺は反対だぜ。あいつがいない幹部戦なんて考えられねえよ。」
「…あたしは参加した方がいいと思う。こんな時だからこそ頑張らないと。」
2人の考えはよくわかる。だからこそ真剣に決めなければならない。黒谷さんも言っていた通りこれは遊びじゃない。本当の命をかけた戦いなんだ。
「…私も参加した方がいいと思う。今の彼をみて思ったの。どれだけの負担が彼一人の肩にのしかかっているかが。」
それはとてつもなく重いはずだ。
「私のわがままかもしれないけど、彼なしで頑張りたいの。」
自分が何を言っているかわかってる。誰だって自分が大事だ。でもそれ以上に私は彼が大事なんだ。
「…ったく。そういうと思ってたぜ。」
「私もだよー。」
「みんな…。」
そうだった。みんなにとっても彼は大切な存在なんだ。
「ありがとう。じゃあ連絡するね。」




