第五十三話 残された疑問
「先に向かうのはいいけどよ、どこに行けばいいんだ。」
「氷の壁や冷却装置を起動できたってことはここからそう遠くにはいないはず。遠隔操作できたとしてもその範囲は限られると思うから。」
しかし、いくら範囲が限られるといっても探し出すのは困難だろう。視界を遮るもののない、明らかに違う場所は探さないとしても、4人だけでは厳しい。
「せめて何か手掛かりになるものでもあればよかったんだけどなー。」
「あのモニターに映ってたのは男と黒い壁だけだったもんね。」
これでは何の手掛かりにもなりそうにない。
「ここは俺たちらしく聞き込みってのはどうだ?昨日この辺りにいた人たちを探してよ。」
「えー、無駄じゃない?さすがに誰かに見られるようなへまはしてないって。」
翼ちゃんの言うとおりだ。この地帯を武装もしてない人たちが集団で歩いていたら変に思われるだろう。
(考えないと…。確か言動の一つ一つにヒントが残されているかもしれない。あの男の話し方からしてかなり余裕があった。それほど見つからない自信があるてことだよね。だとするとまた氷山の中とか…。いえ、それはないわ。あれほど大掛かりなものではないにしろ、大人数で過ごせる大きさの空間を作るには時間がかかりすぎる。それならもっと簡単な場所を選ぶはず。)
「…ちゃん、真白お姉ちゃん!」
「…へ?」
「このままここにいても仕方ないからいそうな場所探してみよ?」
「そ、そうだね。」
私たちはとりあえず身を隠せそうな場所を手あたり次第探すことにした。
「ここにもいない…か。くそ…どこにいやがる。」
(やっぱりがむしゃらに探していても見つからない。…操られていた人たちは30人近くに対し、男たちは10人もいなかった。それなのにどうして襲撃が成功したのか。あの装置はどうやって作られたのか。狭い入口の中を運び入れるのは不可能。あの場で組み立てられたと考えるのが自然だよね。だとしたら部品を集めてくる必要があるはず。)
「…ねえ、一度みんなのところに戻らない?」
「どうしたのいきなり?」
「ずっと気になってたことがあるの。彼らはどうしてあんな毒薬を持っていたのか。それも装置で継続して流し込めるほどの量を。」
基本この世界では薬の材料となる物質は植物か魔物からしか手に入らない。魔物のレベルは高く、植物一つ生えていないこの大陸に生を享けた彼らには不可能に近い。
「確かに気になりはするが…。戻ってどうするつもりだ。冷却措置が起動している以上すでにさっきとは比べ物にならないくらい寒くなってるはずだぜ。」
「それこそが彼らの狙いだったとしたら…?」
「どういうこと?」
「私は彼らがブラッディファナティックスとつながっていると考えているの。」
「!!?」
早乙女はあまりピンと来ていない様子だったが、アレンとマイはとても驚いている。
「もし彼らがブラッディファナティックスとつながっているなら、薬の謎も、なぜ30人近くを襲うことができたのかも、あの装置がどうして複数用意できたのかも説明がつくの。」
「…詳しくは聞かねえ。お前が言うなら一度戻ろう。」
「そんなこと言って理解できないからでしょー?」
「うるせー!」
こういう時でも翼ちゃんは翼ちゃんらしい。彼女が元気でいてくれるおかげで私たちも明るい気持ちになれる。
私たちは一度みんなも元へと戻った。
「あれ、どうしたんだ?忘れもんか?」
「いえ、決着をつけに来たの。」
大河たちはみんなわけがわからないといった表情をしている。
「私たちは勘違いをしていたの。ここにはもう敵はいないと。」
「どういうことだ?カジノにも競技場にもあいつらの姿はなかったぞ。」
「そう思わせることが敵の狙いだとしたら?彼らの本当の狙いは私たちを殺すことじゃなかったの。」
「でも冷却装置やら氷の壁やらで本気で俺らを殺しにかかってただろ。」
「もちろんあの場で私たちのことは殺すつもりだったとは思う。」
実際大河さんがタケルさんを正気に戻していなければ私たちはあの場で凍え死んでいたかもしれない。
「でも結果はどちらでもよかったの。ここにはもう誰もいないと思わせることができれば。」
「まさかまだ俺らの知らない場所がここにはあるってことか?」
「おそらくね。そしてその場所は…。」
私は従業員スペースへと入っていくと、地面に何かを探す。
「…あった。」
そこには隠されるように取っ手があった。
私は取っ手を引っ張ると、そこには地下につながる梯子があった。
「この下にあるわ。」
「うわ、こんなところに隠し部屋があったなんて。」
「なるほどな。一度いないと思ったらふつうはもう探さないもんな。でもどうしてわかったんだ?」
「うまく説明できないんだけど…彼らは多分とても悪い人たちとつながっているの。私たちは以前その人たちと戦ったんだけど、その時も彼らは地下に拠点を築いていたの。だからもしかしたらって。」
きっとこの施設自体がもともとブラッディファナティックスの手によって作られたものなのかもしれない。
「確証があったわけじゃないのか?」
「んー、でも自信はあったかな。」
地下空間であれば地上に比べて移動は楽だし、何をしてもほかの人にはばれない。温度管理をして薬の材料となる植物を育てることも、部品を安全に回収し、装置を作ることもできる。
「行きましょう。この戦いを終わらせに。」




