第五十二話 休息
「この人数を運び出すのは骨が折れそうだな。」
薬が効いてきたようで、操られていた人たちは今はぐっすり眠っている。
「でも早くこの場を去らないとみんな凍え死んじゃう。」
冷却装置を破壊したわけではないので、今も気温は下がり続けている。
勝負に勝ってもみんなを助けられなければ意味がない。
「うっ…。」
「和哉!!大丈夫か!」
大河は口から血を吐く。
「大丈夫だ。まださっきのダメージが残ってるだけだ。心配すんな。」
防御の姿勢もとらずに顔面にパンチをもらったのだ。ダメージがないわけがない。
「…とりあえず一人ずつ扉の向こうまで運びましょう。あそこならここよりも暖かいはずだから。」
「そうだな。急ごう。」
「…ふう。これで最後の一人だな。」
私たちはカジノにある椅子に腰を下ろして一息つく。
ここは暖房装置がそのままの状態で残されていたので寒さで死ぬことはない。
「それにしてもとんでもない事件だったぜ。」
「まさか仲間を探していたらこんなことになるとは思いもしなかったな。」
今回の事件は偶然見つけたものだ。もしあの時大河さんに声をかけられていなかったら。もしあの時マイちゃんが氷山の隙間を見つけていなかったら。私たちは彼らを助けることができなかっただろう。
「今回は本当に助かった。なんて礼を言ったらいいのか…。」
「いや、まだ終わってないよ。まだあたしたちにはやることが残されている。」
「そうね。あの男とその仲間を捕まえないと。」
元凶を捕まえなければいつまた同じことが繰り返されるかわからない。
「…この人たちはいつから操られていたのかな。」
マイはとても悲しそうな目をしながら言う。
「この人たちにも仲間がいたんだよね…。」
「…そうだね。彼らのためにもこんなこと二度と繰り返されないようにしないとね。」
ブラッディファナティックスの時といい、今回といいこの世界は多くの闇を抱えている。今もどこかで誰かが苦しめられているかもしれない。
「どこの世界にも悪い奴はいるもんだ。でも同時にそれを何とかしようとしている奴もたくさんいる。多分この戦いに終わりはないんだろうな。」
少しの間沈黙が続いた。
「…暗い話は終わりにしよう。せっかくみんな助けられたんだ。明るく行こうぜ!」
「…んん……。」
「!?」
操られていた人たちの内の一人が目を覚ます。
「ここ…は…?」
「よかった!目が覚めたんですね!」
「あんたらは…?」
目覚めたばかりでまだ意識が完全には戻りきっていないようだ。
「私たちはあなたたちを助けに来たんです。ここは氷山の中にある場所なんですけど…なんて言ったらいいのかな。とにかくここは安全な場所です。」
「そうか…俺はあの時変な男につかまって…くっ!」
男は突然頭を押さえて苦しそうにしている。
「大丈夫か!?」
「…ああ。思い出した。俺はここで働いていたんだ。でもある日変な男たちが現れて変な薬を飲まされたんだ。」
「とするとここにいる人たちは…。」
「何人かはここの従業員だ。そのほかの人たちは多分客だろうな。」
この人の言う通りならあの男たちはここの店員でも何でもない。
「いろいろ聞いてすいません。今は休んでいてください。」
「悪いけどそうさせてもらうよ。」
男は再び眠りにつく。
「だいぶつかめてきたな。あいつらが何者なのかが。」
「ああ。どこまでもクズ野郎ってことがな。」
「あたし、あいつをぶっ飛ばさないと気が済まないよ!」
(そういえば彼らはどうやってあの薬を入手したんだろう…。もしかしたらブラッディファナティックスとつながりがあるのかも…。)
「どうしたんだ?さっきから黙って。」
大河さんが私に話しかけてくる。
「いえ、少し気になったことがあっただけで。それよりもいつまでもここにいるわけにはいかないよね。」
「そうだな。みんないつ目を覚ますかわからねーし、ずっと待っているわけにもいかねーよな。」
かといってこの人数を私たちだけで運ぶには無理がある。
「あんたら先に行ってくれねーか?ここは俺たちが見てるからよ。」
「え、でも…。」
「あんたらの強さは十分わかってる。俺たちが行ってもいいが、こっちのほうが可能性が高いだろ。」
「お前らはそれでいいのかよ。」
私たちも大河さんたちのことは理解しているつもりだ。誰よりもあの男たちが許せないはずなのに。
「今はタケルのそばにいてやんねーと。一人にさせないって約束しちまったからな。」
「…わかった。それじゃみんなを願いします。」
「おう!」
彼らが残るといっている以上私たちがここに残る必要はない。
「必ずあたしらがぶっ飛ばしてくるから!」
「…頼んだぜ」




