第五十一話 絆の力
「はああ!!」
相手の動き自体に変化はなく、懐に潜り込み薬を飲ませる。
「やった…!」
「…う…うぅ…!」
薬が効いているのか、頭を抱えて苦しみ始めている。
「効いてる…!!この調子でみんなに飲ませよう!」
それからも私たちは順調に薬を飲ましていく。
「何度も向かってこないだけ前回より楽だが、さすがにこの人数は面倒だな…。」
「せい!…でもこの感じなら間に合いそう…だね。」
「あと…これで6人!」
私は剣で攻撃を防ぎ、そのまま左手に持っていた薬を口へ投げ込んだ。
「ははは、さすがに簡単にはやられてくれないようですね。」
「そんな余裕ぶっこいていられんのも今のうちだぞ!」
マスターの男はこれだけの人数がもとに戻されているのに顔色一つ変えずに笑っている。
「…まだ何かあるのかも。最後まで油断しないで。」
「ああ。わかってる。」
そして最後の一人に薬を飲ませる。
「うおおおぉぉ!!」
「頑張って…。」
薬が完全に効くまでは苦しい時間が続くだろう。あとはみんなの精神力が持ってくれるかどうかだ。
「素晴らしい。まさかここまでやるとは思っていませんでしたよ。お見事だ。」
「…お前何を企んでる。ここまで来たら後はあの氷の壁ぶち破れば俺らの勝ちだぞ。」
「そう焦らないでください。いまからとっておきを出しますから。」
「とっておきだと…!?」
さっきまで閉じていたステージの扉が開いていく。そこから1人男が出てくる。
「…タケル!!!」
「え!?」
大河さんは確かにタケルと呼んだ。ということは…。
「あの人が大河さんたちの仲間…?」
「…ああ。くっそ…!まさかあいつまで…!」
「あれこそが私たちのとっておきですよ。」
先ほど操られていた30人の人たちとは様子が少し違う。
「てめえ!タケルに何をした!」
「その方は薬に対して人より耐性がありましてね。少し違う方法をとらせていただきました。」
「なんだと!!?」
血管は浮き出ていて、常に苦しそうな顔をしている。
「彼は今無差別に人を襲う状況にありましてね。」
「…絶対許さねーぞ貴様。」
「気持ちはわかるが今はタケルを救うのが先だ。」
仲間がつらい目に合わされているんだ。気持ちは痛いほどわかる。だからこそ今私たちにできることは目の前のタケルさんを救うことだけだ。
「…頼む。あんたらは手を出さないでくれ。」
「おい、そんなこと言ってる場合じゃ…。」
「わかってる。わかってるけど…あいつは俺らの仲間だから。」
大河たちは4人全員が前だけを向いている。
「…わかった。」
「真白…!」
「そちらは任せます。」
「助かる。」
そういって大河たちはタケルのほうへと歩いていく。
「…よかったの?あたしたちも行かなくて。」
「うん。きっとタケルさんを助けられるのはあの4人しかいないから。」
彼らの声ならきっと…いや、必ず届くはず。だから私たちは信じるしかない。彼らの可能性を。
「真白が言うなら大丈夫だね。」
「私もそう思う!」
「二人とも…。ありがとう。」
「…そうだな。俺たちは逃げ道を確保しておこうぜ。」
私たちの帰る方法は一つ。氷の壁を壊し閉ざされた道を切り開くしかない。
「みんなで頑張ればきっと壊せるはず…!」
「よっしゃー!やってやる!!」
「タケル。お前こんなところにいたんだな。遅くなって悪かったな。帰ろうぜ。」
「う…うああああああ!!!!」
タケルはためらいなく大河に殴りかかる。
「くっ…!」
(…重い!攻撃も強化されているのか…!)
「あああああああ!」
「和哉!危ない!」
タケルの蹴りを間一髪で大河はかわす。
「くっそ…!」
「タケル!俺らだ!これまでずっと頑張ってきただろ!」
「あああああ!!!!」
みんなの声は届かず、見境なしに攻撃を繰り出す。
「…だめか!何かあいつを正気に戻す方法はないのか…!」
しかし、4人で一人を相手にするのがいっぱいいっぱいで考えている暇はない。
「まずい…!」
仲間の一人がタケルの攻撃に対し、防御が遅れてしまった。
「……?」
「う…く……あああ…!」
あと数センチのところでタケルは苦しみだし、攻撃の手を止める。
「タケル!!」
「た…のむ……。おれ……を…ころして…うううああああ!」
一瞬正気を取り戻したが、すぐにまた自我を失ってしまった。
「ふざけんなよ…。そんなことできるわけねーだろ。」
「ああああああ!!!!」
タケルは標的を大河に定め一直線に走りだす。
「お前は俺らの仲間だ。たとえどんな目に遭おうとも俺は仲間を見捨てることなんてできねぇ。」
「和哉!!何やってんだ!!」
大河は一歩も動こうとしない。
「俺はリーダーだからよ…。お前が苦しんでいるなら何とかしないとな。」
「ああああああ!!」
大河は顔に一発パンチをもろに喰らう。
「和哉!!!!」
「…捕まえ…た。もう離さねーからな。」
大河はそのままタケルの手を引き抱きしめる。
「ふがいないリーダーですまねぇ。こんな俺にできることはほとんどないかもしれねーけど…。」
「……。」
「お前の苦しみを背負ってやることくらいはできる。一人の間よく頑張った。生きててくれて本当によかった。もうこの手は離さねーからよ。だから…。」
大河はタケルの目を見ている。
「元のお前に…優しいお前に戻ってくれ…!!!」
大河の目からは涙が流れている。
「そうだぜタケル!お前には俺らがついてる!だから一緒に帰ろうぜ!!」
「また一緒にバカしようぜ…うぅ。」
「これはこれは。素晴らしい絆ですね。ですがそんなものでは彼をもとに戻すことなど…。」
「リー…ダー。ずっと待って…たよ…。」
「なんだと!!?」
タケルはそのまま気絶してしまった。
「…よく頑張ったな。すっと苦しみと一人で戦い続けて疲れただろ。ぐっすり休んでろ。」
「そ、そんなばかな…!!」
大河はモニターを睨みつける。
「人の心の強さをなめるな。心がある限り誰にも人を操ることなんてできねーんだよ。」
「だ…だがお前たちはそこから出ることはできない!!残念だっ」
その言葉を遮るように競技場全体に轟音が鳴り響く。
「…ふっ。お前はどうやらこちらの強さまで図り間違えたみたいだな。」
音のした方を向くと、大きく風穴のあいた氷の壁があった。
「ちくしょうが!!!覚えていろ!今回はたまたまうまくいったみたいだが次はそうはいかない!次はお前らを必ず…ザザザ。」
大河が飲み終わった後の空のポージョンビンをモニターに投げつけた。
「うるせーな。もうお前の声なんて聞きたくなーんだよ。」
「同感だな。」
「みんなー。無事におわったみたいだね。」
私たちはステージのほうへと降りていく。
「ああ。倒れているみんなを連れて帰ろう。」




