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第三十八話 ありがとう

「なん…で。なんで治ってくれないんだよ…!」

「春人さん…。最後に一つ私の話を聞いてくれませんか…?」


 かすれた声で美織が言う。


「最後って…。そんなこと言うなよ。いくらでも聞いてやるから!」

「やっぱり優しいですね…。私皆さんに会えて…本当によかった。うっ…。」

「美織!!」


 血を吐きながらも美織は話を続ける。


「…今の私があるのは皆さんのおかげです。皆さんに会って初めて生きていて楽しいって思えたんです。」 

「もうそれ以上は何も言わないでくれ!まだ俺は…!」

「…最初に会った時も迷わず助けてくれて…。真白さんも私に優しく接してくれて、アレンさんもどんな時でも頼りになって…。マイちゃんと遊ぶ時間はとても楽しくて…。早乙女さんはいつもみんなを笑わせてくれて…。」


 みんな涙を流しながら聞いている。


「春人さんは倒れていて動けなかった私を真っ先に見つけてくれて…。本当にうれしかった。」


 どんどん声に覇気がなくなっていく。


「…私に希望をくれて…、幸せをくれて…。皆さんが大好きです。」

「う…うう…美織…。」

「…そんなに泣かないでください。最期は笑って見送ってほしいです。」


 そういう美織の顔はとてもやさしい表情をしていた。


「皆さんはやっぱり笑顔のほうが似合いますよ。」


 あふれ出る涙は俺の思いなんか無視して次から次へと流れていく。


「うぅ…笑うなんて…できないよ…。」


 俺の頬から零れ落ちる涙を美織が震える手で拭う。


「私、春人さんが好きです。誰よりも一番好きです。」

「…え?」

「だから最後に…あなたを守れてよかった。」

「そんな…。」

「今までありがとうございました…。私の分まで生きてくださいね。」


 その言葉を最後に美織は目を閉じる。


「…美織?待ってくれ…俺はまだありがとうも言ってないよ…。」


 それから美織は目を開くこともなく俺の腕の中で永遠の眠りについた。



「我々はそろそろ次へ進もうか。」

「…俺も少し残ってもいいか。」

「好きにするといいさ。次の街で落ち合おう。」

「…ありがとう。」


 優樹も少しの間だが行動を共にしたこともあり、グッとくるものがあるのだろう。


「結局彼も一人の人間か。まさかここまで脆いものだたとはね。正直少しがっかりしたよ。」


 黒谷が去り際のボソッとつぶやいた。


 しかし、今の俺の耳にその言葉が届くことはなかった。






「春人の奴まだ目を覚まさねーのか?」

「……うん。まだ眠ってる。」


 あれから俺は美織を抱えたまま気を失ってしまった。今はウルゴアの街で眠っている。


「…仕方ないよ。自分をかばって目の前で殺されちゃったんだもん…。」

「そうだよね。私たちでさえこんなにつらいんだから、きっと春人君はもっと苦しいはずだよ。」

「…美織はいい奴だったな。少ししか一緒にいなかったあたしでもわかる。」


 仲間が殺されたのだ。何とか気を保ってはいるがみんなもきっと必死でこらえてる。


「…これからどうするか。春人がいつ目覚めるかわからねーからな。」

「うん…。でもこのままじっとしているわけにもいかないよね…。」


 どれだけ辛くても時間は待ってはくれない。元の世界に戻るためにはみんなのレベルアップが不可欠になる。


「…ん…んん。」

「!!」


 俺は目を覚ます。


「よかった…。目が覚めたみたいだね。」

「ここは…?」

「ウルゴアの街にある宿だよ。あの時春人君気を失っちゃってここまで運んできたの。」

「そっか…。俺気を失ってたのか。ごめん、迷惑かけたな。」

「全然大丈夫だよ。それよりも…大丈夫…?」

「うっ…!」


 あの時のことが脳裏に浮かび上がってくる。美織のあの顔と大量に流れる真っ赤の血を鮮明に思い出してしまう。


「ごめん…今は一人にしてないか。」

「…わかった。」


 俺を寝室に残してみんなは部屋を去る。


「全然平気そうじゃなかったね。」

「ああ。あの様子じゃ今後のことを話し合えそうにねーな。」

「とりあえずあたしたちだけでも明日の予定を話し合っておこ。」

「そうだね…。」


 真白は少し悩みこむ。


「…新大陸に行こう。」

「え!?」

「いつも私たちは春人君に頼りすぎてる。でもそれじゃダメなの。私たちが彼を支えてあげられるくらい強くならないと、きっとこの先また彼を傷つけちゃうから。それに今の私たちじゃ悔しいけどそばにいても傷ついた心を治してあげることはできないから。」

「じゃー春人はどうすんの?このまま置いていくの?」

「先に進むよりもここにいる方が安全だからね。」


 実際未知の世界に連れていくのはリスクが高すぎる。ここなら魔物に襲われる心配もない。


「俺も真白の意見に賛成だぜ。美織のためにもいつまでも暗い気持ちでいるわけにはいかねーからな。」

「とりあえず今日は休みましょうか。」


 こうしてあまりに大きなものを失った1日が終わった。

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