第十九話 グロウフラワー
「改めてよろしくお願いします。」
美織は深々と頭を下げる。感謝の意も込められているのだろう。
「こちらこそよろしくお願いします、小笠原さん。」
「…あの、できればでいいのですが、私も皆さんと同じように名前で呼んでくれないでしょうか。」
恥ずかしそうに美織は言う。
「えっと…じゃあ、美織さん。」
「さん付けなんですね…。」
じっとこちらを見つめてくる。
「美織…。」
俺がそういうと、とてもうれしそうな表情を浮かべる。
「ぜひ皆さんも美織と呼んでくださいね!」
「じゃあ私も真白って呼んでください!美織!」
名前の呼び方が決まったところで、俺たちはこれからについて話し合う。
「さて、まずはパラメータアッパーを何とかしないとな。このままだとまた襲われるかもしれない。」
「…そうですね。グロウフラワーがあればもしかしたら何とかなるかもしれないのに…。」
「そういえば、そのグロウフラワーって何なんですか?」
美織は俺たちと会う前からグロウフラワーを探しているようだった。
「グロウフラワーは自分のスキルを保存できる貴重なアイテムなんです。つまり、自分のスキルを忘れることも、他人に譲渡することも可能になるんです。」
「スキルを譲渡!?そんなアイテムが…。」
一度覚えたスキルは忘れることはできない。それがこの世界の常識である。そもそもスキルを忘れる必要性がないため存在しないのだろう。
「そんなものを探していたということは誰かに譲渡するつもりだったんですか?それってつまり貴重なスキルを手放すということですよね?」
「ええ、そのつもりでした。私が持っていても宝の持ち腐れですし。それよりも皆さんのように強い方が持っているほうがいいと思いまして。」
「ん?でもそれって結局なんの解決にもならねーんじゃねーか?」
確かにスキルを俺たちに譲渡したところで、パーティーになった以上俺たちが狙われてしまえば美織は危険な目に合うのは明らかだ。
「…いや、何とかなるかもしれない。」
「どうした?春人。」
「美織、たしかグロウフラワーにスキルを保存させるんだよな?」
「はい、そのはずですよ。」
となると一時的に誰の手にもそのスキルはない状態になるわけだ。
「…一度情報屋に会いに行けばいい。」
「…どういうことですか?」
「情報屋に俺ら全員のステータスを見せることで誰の手にもそんな能力はないということを証明してもらう。」
「なるほど。でもそれって情報屋が完全に信用できる人じゃなければ無理だよね。大丈夫なの?」
情報屋についてはまだまだ分からないこともあるが、美織を何とかするように頼んできたのは情報屋である。
「今は、頼るしかないかもな。」
こうして俺たちはグロウフラワーを探しに行くことにした。
「ねえ、なんであの男の人たちにそのパラメータアッパー?っていうのを使わなかったの?」
「そうですねー。見るからに怪しい人たちには使わないようにしているんですよ。一時的といえど悪用されてはいけませんからね。あっ。」
マイの質問で美織は何かを思い出したみたいだ。
「そういえばあの男の人達、虎を倒してブラッディファナティックスの一員になるとか言ってたんですけど、なんなんでしょうか。」
「ブラッディファナティックス…。ってどういう意味だ?血まみれの…。」
「血まみれの狂信者。ろくな組織ではなさそうね。」
「真白英語得意なの?」
俺は正直英語が苦手だ。英単語帳は何度読んでも次の日には忘れてしまう。本来ならばこの時期は猛勉強しているころだったろうな。
「少しくらいならできるよ。でも意外だなー、春人君頭が切れるからてっきり勉強できるのかと思ってた。」
「うっ…。」
あれー、なんかさらっときついこと言ってくるなー。
「もっと勉強真面目にやっとけばよかったよ…。」
やっぱり面倒くさがってはダメなんだな。後回しにしてもいいことなんてないのに…。
「それにしても一体何の組織なんだ?幹部を倒すためにいるとは到底思えないしな。」
アレンの言うとおりだ。聞いたこともない名前なので、もしかしたら公になってはまずい組織なのかもしれない。それに虎を倒すことが目的だったのなら、本来の目的は美織ではないのか。
またわからないことが増えてしまった。
「そのことも情報屋に聞いてみるか。とりあえず今はグロウフラワーを探すことに集中しよう。」
しかし、レアアイテムなのでそんな簡単に見つかることはなく、日も沈んできているので、今日は探すのをあきらめることにした。
「ここから一番近い宿ってどこだ?」
「前の大陸に戻ったほうが早いかも。」
今はこの大陸にきてすぐの自然豊かな草原にいるので、森に戻るよりも早いだろう。
「じゃあ、いったんマナの木のある街に戻ろうか。」
「宿に行く前に一回武器屋に顔を出してもいいか?少しの間だけど世話になったからな。」
俺たちはアレンにいた武器屋へと向かった。




