第十八話 パラメータアッパー
「ん―、んんん!」
森の北にある小さな小屋の中で両手両足と口を縛られ美織は動くことができなかった。
「おい、本当にこいつが能力値を上げるスキロを持っているんだろうな?」
「ええ、この目ではっきり見ましたから。」
(この人たちも私のスキルを狙って…。)
「おい、お前。ちょっと俺たちにそのスキルを使ってくれねーかな?そしたら解放してやるからよ。」
リーダーと思われる人物が口を縛っていた布をほどく。
「…あなたたちに使うスキルなんてありませんよ。諦めてください。」
「ちっ。てめえ今の状況がわかってんのか?」
リーダーが頬に一発パンチを入れる。
「さっさと使えよ!」
「…。」
「このくそ女が!」
今度は腹に蹴りを入れる。
「助けなんて来ねーんだからよ。さっさとすかったほうが楽じゃねーのか?」
美織は一言もしゃべらずに黙り込む。
「…まあいい。死にそうになれば使うだろ。お前ら、こいつを連れて奴をぶっ倒しに行くぞ。あのでか物を倒すことができれば晴れて俺たちはブラッディファナティックスの一員だ。はっはっは!」
「春人君、あれ!」
赤い布切れをおっていた俺たちは小さな小屋へとたどり着いた。
「小笠原さん!」
勢いよくドアを開けるが、そこはすでにもぬけの殻だった。
床にはいくつも足跡がついており、かなりの人数がいたことがわかる。
「くっそ、誰もいねー。!」
「遅かったか…。」
「どうしよう…。もう赤い布も落ちてないし…。」
美織を追う手段がなくなってしまい、その場で立ち尽くしていると、いきなり地面が揺れ始める。
「なんだ!?地震か!?」
突然の出来事に驚いていた俺たちであったが、マイが苦しむように耳をふさいでいる。
「どうしたの!マイちゃん!」
「声が…向こうのほうから声が聞こえるの。」
マイは進んできた方向とは逆の方向を指さす。
「声?」
「うん…。魔物の叫び声が…。」
「魔物の叫び声…。もしかしたらあの子もそこに。」
「行ってみよう!」
マイの耳を頼りに俺たちは声が聞こえた方向へと向かうことにした。
「今日こそ勝たせてもらうぜ、でか虎!」
「ガルァァァァ!!!」
虎の魔物は大声をあげる。しかし、ひるむことなく男たちは笑っている。
「今日の俺たちはいつもと違うぜぇ!」
「おい、女!スキルを使え!」
リーダーの男が虎のほうへと美織を押し出す。
「やめてください!」
「やめてほしければさっさと使えや!」
虎は美織のほうを見つめる。
「…くっ…。」
しかし美織はかたくなにスキルを使わない。それにいら立ったリーダーは美織を投げ飛ばす。
「こいつは役に立たねえ。俺らだけであいつをやるぞ!」
「声が近い…もうすぐだよ!」
森を抜けると、そこにはいくつもの窪地があった。
「なんだここ…。」
見たことのない地形に戸惑いながらも、必死にマイが耳を澄ませる。
「あそこの窪地だよ!」
「よし!」
言われた場所へと向かうと、窪地から次々と人が出てくる。
「あんなのに勝てるわけがねー!」
「まだ死にたくねー!」
男たちの逃げてきた先には大きな虎がいた。
「小笠原さん!」
虎の狙う先には腰を抜かして逃げ遅れていた美織の姿があった。
「誰か…助け…て。」
「はああああああ!!!!」
俺は真っ先に飛び出し、美織を狙う手を思い切りはじく。
「大丈夫ですか!」
「…黒野さん…!」
後を続いてみんなは降りてくる。
「もう、また春人君は一人で飛び出して。」
真白は心配そうな目で見つめてくる。
「ごめん、気づいたら飛びだしてて…。」
「おい、悠長に話している暇はなさそうだぜ。」
先ほどの攻撃に腹を立てたのか虎は暴走しだし、見境なしに攻撃してくる。
「うわっ!」
振り降ろされた手は大地をえぐる。
「まじか…。」
まるで幹部級のその一撃に驚きを隠すことができない。
「…みんなは小笠原さんを連れて逃げてくれ。俺が時間を稼ぐ。」
「またそんなこと!私も戦うよ!」
そうこうしているうちに次の攻撃が来る。
「くそ…!アレン!マイと小笠原さんを頼む!」
スキルを駆使して何とか二人で攻撃を食い止める。
「今のうちに逃げるぞ。」
「でも…。」
「あいつらなら大丈夫だ!何とかしてくれるはずだ!」
アレンは強引に小笠原さんの手を引き、窪地を抜け出す。
「くっ!」
「きゃあ!」
二人は虎の攻撃に耐えきれずに吹き飛ばされる。
「…やばい…。何とかして俺たちも逃げないと。」
すると、どこからか歌が聞こえてくる。
「あれは…小笠原さん?」
「なんだろう…この不思議な感じ。」
その歌を聴いていると力がみなぎってくる。
「今のうちです!お二人とも早くお逃げになってください!」
この歌が噂のパラメータアッパーの力らしい。その効果は想像以上のものだった。
「今ならいける…。真白!」
「うん!行くよ!」
俺たちは虎のもとへ駆け出していく。
「よっしゃ、俺も行くぜ!」
「私も!」
アレンとマイも虎へと向かって走り出す。
「みんなでいくぞ!『クロスドライブ!』」
四人同時に放ったスキルが虎を貫き、虎は消滅した。
「はぁはぁ、危なかった…。」
「それにしてもあの魔物何だったんだろう。」
フィールドが出現しないということは幹部ではなかったということだ。
「皆さん!すごいですね!」
きらきらと輝いた眼で美織はみんなを見つめる。
「いえ、小笠原さんがいなければどうなってたことか…。」
実際あのスキルがなければもしかしたら死んでいたかもしれない。
「っ痛。今はとりあえず宿に戻らないか?もちろん小笠原さんも。」
「私もですか?」
「当たり前ですよ。私たちもう仲間じゃないですか。」
「仲間…。」
美織は驚いた顔をしていた。
「私も仲間に入れてもらえるんですか?」
「もちろんです。」
皆笑顔で受け入れる。
こうして小笠原美織が五人目の仲間としてパーティーとなった。




