第十四話 もう逃げない
午後2時、黒谷からメッセージが届いた。
『おそらく情報屋から話は聞いていることだろう。今から1時間後に会議を開く。場所は君の仲間の獣人に配慮して山のふもとにしておいたから、騒ぎになることもほぼないだろう。連絡は以上だ。君たちが来てくれることを祈っている。」
やはりあの子の言うことは本当だった。おかげで心構えをする時間が十分に取れた。あとはメッセージ通り、山のふもとへと向かうだけだ。
それにしてもマイに配慮とはよく言ったものだ。黒谷たちがこちらの都合を考えてくれるなど、ほぼゼロだ。戦闘前に騒ぎになるのを防ぐためといったところか。
「…でも助かるのも事実だな。」
1時間後、山のふもとについた俺たちは、なるべく目立たないように後ろのほうで話を聞くことにした。
それにしても、今回は人数が少ない。前回は100人以上いたはずなのに、今回は俺たちを含めても30人程度である。あれほどの残酷な光景を目の前にしたんだ。無理もないか。
「どうやらみんな集まったようだな。作戦は基本的に前回と変わらないが、部隊は分けずに全員で戦う。見てわかると思うが、今回は人数が少ない。きっと大変困難な戦いになるだろうが、今日まで生き残ってきた私たちなら、必ず勝てる。何があろうと幹部を討ち取るぞ。」
「本当に勝てるのか…?今度こそ死ぬんじゃないか。」
俺の隣にいた男がそうつぶやいた。しかし、黒谷の耳には届いていたようだった。
「怯えている暇はない。君がここまで来たのは何のためだ。勝つためだろう。勝つために頑張ってきた自分を、自分が信じられないで何ができる。戦うと決めたなら腹をくくれ。」
自分を信じないで何ができる…か。黒谷の考え方には賛成できないが、少なくともその言葉は正しいと思う。
「…今度は絶対に誰も死なせない。」
「うん。もうあんな思いは二度としたくないから。」
道中、魔物と何回か交戦しつつ、目的地にたどり着いた。ここまでは順調に事が進んでおり、体力を温存することができている。あとは幹部を倒すだけなのだが…。
「あれが今回の敵…。」
洞窟の中は不自然に明るく、外からでも様子を確認できたが、その姿はまるで恐竜のようだった。
「誰が相手でも倒すだけだ。そうだろ、春人君。」
そういったのは青葉優樹だった。俺のかすかな記憶だが、優樹は黒谷パーティーの中で唯一犠牲者を出したことを嘆いていた。
「…そうだな。」
優樹の横顔が輝いて見える。本当にいいやつなのだろう。それだけになぜ黒谷のパーティーにいるのかがわからない。
「さて、そろそろ準備はいいかな?」
皆うなずく。
「では行くとしよう。」
落ち着いた様子で黒谷は言う。
フィールドに入ると、1回目と同じように、俺たちを閉じ込めるように展開していく。
「来るぞ!」
敵が目を覚ますと、大きな叫び声をあげながらこちらへ突進してくる。
「左右に広がれ!」
黒谷の指示通り、左右へと別れてよける。
「まずは一撃入れさせてもらう!」
優樹が腰のあたりに槍で一撃をかます。それに続いて黒谷の仲間が次々に攻撃を繰りだす。怒涛の攻撃で全員が一撃をくらわすと、一斉に退避して敵の攻撃に備える。
「…すごい連携だな。」
思わず本音が漏れる。最前線を走るだけあって、その強さは本物だ。
「ウグァッッ!」
かなり効いている様子で、幹部は鋭い爪と牙、長い尻尾を振り回しながら突進してくる。スピードは速いが、動きは単調なので、よけられないほどではない。
(…このまま焦らずに戦えば勝てる。)
しっかりと動きを読みながら、俺たちも攻撃を繰り出していく。
『ブレイブソード!』
スキルも決まり、かなりいい調子で戦いを有利に進めていく。
「最後は俺がもらう!!」
幹部がひるんだすきを狙って、優樹の一撃が首元を貫く。
「グワァァァァァァ!」
攻撃をもろに食らった敵は、その場で倒れこんだ。
「はぁはぁ、やったのか…?」
かなりの攻撃を食らったはずだから、倒れてもおかしくないダメージは入っているはずだ。けれど何か引っかかる。あまりにもうまくいきすぎている。みんなが強くなったといえばそれで済むかもしれないが、これなら前回のほうが緊張感はあった。
「おい、まだフィールドが消えてないぞ!」
「…まさか!?」
幹部へと目をやると、優樹の一撃で風穴の空いた首元が光っていた。すると、そこからもう一つ頭が生えてきた。
「うそでしょ…。」
幹部は、再び起き上がると、目を赤く光らせる。
「あれは…。あの時と同じ…。」
「ここからが本番ってわけか。」
攻撃に構え防御の姿勢をとる。
「グワアアア!!!」
興奮状態の幹部は、先ほどよりも速いスピードで突進してくる。
「くっ!速すぎて防ぎきれない!」
段違いのスピードに加え、頭が増えたことで厄介さが何倍にも増している。
(このままじゃまずい…。なんとかして攻撃のスキを作らないと。)
何とか攻撃を防ぐ俺だったが、右の頭の攻撃に気を取られていると、左の頭がマイへ襲い掛かる。
「くそ…!」
「マイちゃん!」
真白が間一髪のところで攻撃を食い止める。すかさずアレンが助けに入る。
「おっらあ!大丈夫か二人とも!」
「ええ。助かりました。」
なんとかマイを守ることができたが、そのあとも防戦一方の戦いが続く。
「はぁはぁ。」
皆すでに体力の限界に近かった。
「たった一瞬でもあいつの気を引くことができれば…。」
「…春人お兄ちゃん。私を使って。」
突然マイがそう言う。
「いきなり何を…。」
マイは真剣な表情でこちらを見つめてくる。
確かにマイの身軽さがあれば、もしかしたら気を引くことができるかもしれない。でもそれは同時に危険が伴うということだ。
「…本当にいいんだな。」
「うん。」
「分かった。」
俺は真白を呼び、二人に作戦を伝える。
「そんなこと…!危険すぎる!」
「そんなこと俺もわかってる。でも俺にはこの方法しか思いつかなかった。」
「そんな…。無理する必要はないんだよ。マイちゃんが嫌というなら…。」
「…やるよ。今度は私も役に立ちたいから。」
この子は一度やると決めたらもう止められない。
「…もう話は終わったか。もうそろそろ…限界なんだが。」
話をしている間、アレンと優樹には何とか攻撃を耐えてもらっていた。
「ああ。もう大丈夫だ。ありがとう。」
大きく深呼吸をして呼吸を整えると、俺たちは勢いよく幹部へと駆け出していく。そして目の前で軌道を右へと変える。
「よし、追ってきてるな。」
「…あいつらどうするつもりだ。あのままじゃ追い込まれちまうぞ。」
(まだだ、なるべく引き付けろ。フィールドを最大限生かすんだ。)
だんだんと追い付かれていき、幹部との距離が人一人分程度になった。
「今だ!」
俺の合図で真白は切り返して、幹部の脚と脚の間をくぐるように滑っていく。そしてマイは俺の肩を使って、敵の頭上まで跳んでいく。
「…そうか。上下に意識を分散させたのか。」
こいつは左右の動きに対しては、ある程度の小回りが利くせいで、どちらかに焦点を当てられてしまい、その長い尻尾のせいで背後をとることができなかった。しかし、上下であれば話は変わってくる。
「もうお前に防ぐ手段はないぞ!『フレイムバースト』」
渾身の一撃が右の頭の首を切り刻む。しかし、もう一方の頭が空中で動けないマイに襲い掛かる。
「マイ!」
「私だってやればできるんだ!『リベリオン』」
空中で体をひらりと回して攻撃をよけ、短剣を眉間に突き刺す。
「ギャアアアアア!!」
幹部の断末魔がフィールドがフィールド中に響き渡る。
マイの一撃を食らった幹部はその場で倒れ、フィールドはゆっくりと消えていく。
「…私やったの……?」
一人の少女の勇気ある決断によって、2度目の幹部戦は死者を出すことなく、完全勝利という形に終わった。




