第十二話 覚悟
昼食を済ませた春人たちは、真白の提案でその日一日街をまわることになった。
「今日はマイちゃんの好きなところに行こうね。あ、でもマイちゃんの装備も揃えないといけないよね…。」
「じゃあ最初にマイの装備を揃えて、それから街をまわろうか。まだ時間はたっぷりあるし。」
「そうだね。そうしようか!」
春人たちはマイの装備を揃えるべく街にある防具店を目指して歩く。
「なんだかんだで俺たち、この街をじっくりまわったことなかったよな。」
街に来てからの二日間息つく暇もなかったので、春人と真白はまだこの街のことをほとんどわからない。
「なんだお前ら、この街のこと知らねえのか。なら俺が案内するぜ。」
アレンは鍛冶師であり、春人たちよりも装備に好いては詳しいはずだ。マイの装備のことも任せていいだろう。
「そっか、なら頼むよ。」
それから春人たちはアレンの案内で様々なお店に行った。道中マイは耳のことを気にしていたので、マントを脱ぐことはできなかったが、それでもとても楽しそうにはしゃいでいた。こうしてみると普通の女の子だということを実感させられる。これまでつらい日々を送ってきただけあって、今日のような何でもない日常が貴重な体験になっただろう。
マイの装備一式を揃えるついでに春人たちも装備を買い替えたため、それなりに出費はかさんだが、日常に戻れたようでとても有意義な一日を過ごすことができた。
◇◆◇◆◇◆
翌日、体力を十分回復させた春人たちは、少しでもマイのレベルを上げるために、比較的魔物のレベルが低い荒野に来ていた。この場所ならば人も少ないので、耳のことで何か言われる心配もない。
「本当にやるんだね。魔物と戦うのは危険だよ。」
「…それでもやるよ。マイもみんなの役に立ちたいから。」
マイの覚悟は本物だ。怯えていた二日前と違い、マイの目はしっかりと前を見据えていた。そういうことならば俺春人たちのすべきことは、サポートをしてあげることである。
「まずは自分に合った武器を見つけないと。例えば俺と真白は剣、アレンは槌みたいにね。」
「ステータスを見る限りでは、素早さがかなり高かったから、それを生かせる武器がいいんじゃないかな。」
「そういうことなら短剣とかはどうだ?短剣なら素早い攻撃がしやすいだろ。」
そういうとアレンはマイに短剣を渡す。
「これどうやって使うの…?」
「とりあえず俺が手本を見せるよ。」
春人はこの世界に来て間もない頃、何度か短剣を使っていたのでそれなりに扱うことができる。
するとタイミングよく春人たちの前に魔物が現れる。口で説明するよりも実際に見てもらう方が速いと判断した春人は、短剣を構え魔物を見つめる。
「まずはしっかりと敵の動きを見て、一気に懐に入り込む。そして足を狙って敵の動きを封じる。できるかな。」
「…うん。やってみる。」
「一撃で仕留める必要はないからね。まずは自分の安全を第一に。」
マイはうなずき、短剣を構える。
「まずは動きをよく見て…。」
マイは真剣な表情で魔物を見つめる。その頬には汗が流れている。
「…怖がっちゃだめ。足手まといにはなりたくない。」
小さい声でそうつぶやくと、マイは覚悟を決め飛び出していく。しかし、魔物の攻撃に少し反応が遅れてしまった。
「危ない!」
魔物の攻撃がマイめがけて繰り出される。その攻撃は確実にマイをとらえていた。しかし、次の瞬間マイはとっさに体をひねり、魔物の攻撃をかわしとっさに距離をとる。
「マイちゃん!」
真白がすぐさまマイのもとへ駆け寄る。
「大丈夫?ケガしてない?」
「大丈夫だよ。マイまだやれるよ。」
そういうと再びマイは武器を構える。
「変わりたいから。私、逃げたくない。」
「マイちゃん…。」
昨日とはまるで別人のようだった。もしかしたらこの場にいる誰よりも強い意志を持っているのかもしれない。
「今度こそ…。やあああ!」
完璧なタイミングで魔物の懐に入り込み足に一撃を入れた。その動きは今日初めて短剣を使うものとは思えなかった。
「グアアアア!」
魔物は足に攻撃を食らい動けなくなっている。
「…驚いたな。まさか二回目でこんなにうまくいくとは。」
あまりの呑み込みの早さに春人たちは驚きを隠せずにいた。
「すごいよマイちゃん!やったね!」
「…私勝ったの…?」
マイは自分でも驚いている様子だった。
「あとは普通に倒すだけだよ。」
「うん!」
はじめは危ない部分もあったが、あの動きはとっさにできるものではない。これは彼女が獣人だからじゃなく、自分自身で培った力だ。もしかするとマイは春人たちが助ける以前から、本来ならばハルザを倒せるほどの力を持っていたのかもしれない。
「この調子で頑張っていこう。」
マイの頑張る姿に奮起させられ、春人たちにも気合が入る。
それからも4人は鍛錬を続け、着々と経験値を重ねていく。ポージョンも昨日かなり買っておいたので、体力面においても不安はない。マイも初めの戦闘以外危ない場面もなく、その後は順調に戦闘を進めることができた。十分に経験値を稼ぎレベルを上げた春人たちは街に戻ることにした。
やがて街の入り口に入ると、何やら街の中心部のほうで人が集まっているようで騒がしい様子である。気になった春人は近くにいた男性に話を聞く。
「この街に獣人がでたんだってよ。」
「っ!?」
男性の話によると、獣人がいると街中で噂になっているようだ。
「本当なんだよ!獣人をこの目で見たんだよ!」
はじめは疑問視する人も多かったが、気づけばそこら中から処分しろという声が聞こえてくる。
「どういうことだ…。なんでこんなことになっているんだ。」
とりあえずここにいてはまずいと判断した春人たちは、街を離れ、再び荒野へと戻ることにした。
「……私殺されちゃうの?」
マイは怯えていた。真白は必死に慰める。
「大丈夫。私たちがそんなことさせないから。」
「それにしても考えが甘かったな…。街の人がこれほどまでに獣人に否定的だったなんて…。」
マイが耳のことを気にしていたのは、こうなることがわかっていたからだ。この世界では獣人は煙たがれているということを、春人たちはわかっていなかった。
何とかして獣人は危険だという誤解を解かないければ、このままでは街に戻ることはおろか満足に人前に出ることもできない。
そんな中人影がこちらに近づいてくる。
「…少しいいかい?」
声をかけてきたのは黒谷だった。
「俺たちに何か用でもあるのか。」
春人はマイを隠すように前に出て答える。
「そんなに警戒するな。一つ聞きたいことがあるだけだ。」
とても嫌な予感がした。こいつが俺たちに話しかけてくるということは、それなりに訳があるはずだ。
「そこのフードをかぶった子は獣人だな。」
「な!?どうして。」
黒谷は何もかもを見透かしたような目で見つめてくる。
「やはりな。」
「この子をどうするつもりだ!」
「心配するな。何もするつもりはない。」
春人にはこいつの考えがさっぱり読めなかった。マイに何かするつもりがないのであれば一体何の用があって話しかけてきたのだろうか。
「一つ提案がある。その子を次の幹部戦に参加させるのだ。」
「マイを幹部戦に…?どういうことだ。」
「誤解を解きたいのだろう。ならば幹部を倒したという事実を作ればいい。」
確かに幹部を倒したとあれば、マイは危険じゃないとわからせることはできるかもしれないが…。
「あまりにも危険すぎるわ!幹部戦だなんて…。」
「ではこのまま街の人々から追われ続ける日々を送るのか?」
「くっ…!」
(せっかくマイに生きることの喜びを少し教えてあげられたのに…。何かいい方法はないのか…。)
このままではマイはもう二度と人前に出ることはできなくなる。かといっていきなり幹部戦に参加させるのはあまりにも危険な行為である。あまりに最悪な選択肢しか残されていない春人たちは言葉を詰まらせるしかなかった。
「…やる。私やるよ。」
考える春人たちを見て、マイは答える。思わぬ返答に春人は反対しようと思ったが、マイの顔を見て何も言うことができなかった。
「初めから覚悟は決まってる。もう何かをする前から、逃げたりなんかしない。」
マイの覚悟は本物だ。ここで否定してはその覚悟を踏みにじることになってしまう。
「決まりだな。私たちが幹部を見つけるまでは荒野でレベル上げでもして、大人しくしているといい。」
そう告げると黒谷は街へと戻っていく。
なんだか黒谷の思い通りの展開になってしまったが、やるべきことは決まった。マイと一緒に幹部を倒す。そうと決まると、春人たちはひたすらレベル上げを続けるのであった。




