表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/55

第十二話:朝帰り

(少し酸っぱいぞ)

 朝帰りのアルタイル少年は、早朝の立ち食い屋台で具沢山のスープを買った。様々な肉や野菜が、思い思いの大きさと形に刻まれている。


(元からこんな味付けなのか?)

 物は試しだと思って、ボウルの中身を鑑定した。

(……駄目じゃん)

 周囲でパクパク食べている男達には気付かれない様に、コッソリと解毒魔法を掛ける。

(指二本分は減ったな)

 酸味が薄まった残りのスープを、あまり噛まずに流し込んだ。全ての具材が煮崩れるまでに、ジックリと加熱されていたのは幸いだった。


(午前中は眠っておこう)

 彼が幾ら若いと言っても、徹夜で魔力操作を練習し続けた疲労は残っている。

「お帰り」

 ワーカーズ・インの受付である狸獣人の婦人は、普段と変わらぬ態度で迎えてくれた。宿泊費を払えば、無用な干渉はしないのだ。

 アルは心地好い腰の疲れと共に眠った。



◇◇◇



「よおアル。昨日はありがとう」

 ランチの時間に目覚めた彼は、冒険者ギルドのレストランを訪れる。そこには期待通りに、黒豹獣人のカークが居たのだ。

「レイラが喜んでいたぜ」

 既に食べ始めていたが、トレイをずらして場所を空けてくれた。

「お土産のフルーツは、デザートに独りで全部食べたそうだ」

 結構な量があった筈だが、彼女のお腹は大丈夫だろうか?

「それは良かったです」

 アルはスッキリした笑顔で応じる。

「此方こそありがとうございました。彼女の案内で安心してバザールを楽しめました」

 余程巧みに避けていたのか、スリの気配も感じさせ無かったのだ。




「今朝もバルカンを見掛けたから、彼に頼むぞ」

 食事を終えたアルがカークへ相談すると、二つ返事で引き受けてくれた。

「アルの実力を知っているので、相方には適任だ」

 早速席を立ち店を出る。

(決断と行動が速い人だな)

 アルは呆れながらも後を着いて行く。




「ところで、また魔法使い達が騒ぐだろうが、気にしないでくれよ」

 巡回馬車を降りて門を出た二人は、常人では二分ともたない速さで走り始めた。

「今日は大丈夫だと思います。頑張って魔力操作を練習しましたから」

 先日よりも高速で走りながら、アルは平然とした口調で話す。しかし、敢えて首飾りには触れないでおいた。

「そうか。それなら安心だな」

 呑気な様子でカークは言う。




「宜しくお願いします」

 第一機動隊の基地にある本部で、アルはバルカンに向かって頭を下げる。

「構わんよ。リーダーの頼みではなくても、進んで請け負うぜ」

 ブルドッグ獣人のバルカンは、とても獰猛な笑顔で言った。アルの希望で、これから魔物を狩りに行くのだ。

「この際だから、レイラも呼ぶぞ」

 優秀な斥候の存在はありがたい。




「……消毒薬、解毒薬、外傷治療薬、体力回復薬、他には水と清潔な布も」

 アルにお土産のお礼を伝えたレイラは、短時間で必要な物を揃えた。

「……このリュックは丁度良い、手頃なサイズ」

 アルがお土産を入れる為に、バザールで購入したモノだ。

(気に入ってくれたのか。有効活用しているのであれば、それで良い)

 真剣な顔で装備を点検しているレイラを、バルカンがニヤニヤしながら見ている。

「……アルタの初陣。全力でレイラが支援する」

 そう言って顎の下で両手の拳を握った。




「半日で往復するのであれば、森の入り口までが適当だ」

 カークのアドバイスによって行程が決まる。

「レイラは索敵と案内を頼む。バルカンはアルの手に負えない時に支援してやってくれ」

 流石はリーダーらしく、的確に指示を出す。

「日没までには戻って来るんだぞ」

 真面目な顔で三人を見送った。



◇◇◇



(太陽の大山には魔素溜りが多く、ランダムに発生場所を変える)

 一時間かかった森までの道中で、バルカンはこの辺りの情報を教えてくれた。

(麓の森にも魔素溜りは発生し、その魔素は植物の育成を促進する効果が高い)

 しかし、魔物を生み出してもいるのだ。

(長年魔素溜りを調査した結果、発生する場所に法則性が無い事が分かった)

 まだ人間には制御する術が無い。


(レイラの動きが違うぞ。バザールの人混み以上に滑らかな動きだ)

 森に入り先頭に立った彼女は、優秀な斥候である事を証明した。気配を断ち足音を無くす。目の前に見えている筈の彼女を、何度か見失ったのだ。

(見るのではなく、感じろ)

 レイラの後ろ姿を注視して、その動作の全てを感じる。自然と自分の動きも釣られた。


 ふと立ち止まったレイラは、後ろに居た筈のアルを振り返る。ずっと感じていた気配が無くなったのだ。目が合うと、緊張しながらも穏やかな視線を返してくれる。

 その後は、アルから発せられた気配が途切れることがなかった。

 そんな繋がりで安心すると共に、厚い信頼を感じて奮い起つ。

(……アルタの事は、レイラに任せる)

 心の中で拳を握った。




「ゴブリン、右から五匹」

 レイラが小声で鋭く言い放つ。

「距離は二十メートル」

 普段の会話とは声が全く違う。

「了解。左右に散ったら任せます」

 森の入り口から十分程の場所で、初めて魔物と遭遇したのだ。

 アルの胴体と同じ程度の太さをした木々が、まるで壁を作る様に生えている。その間にできた獣道は細く、人が二人は並べない。


(気配は五つ、足音も五つがバラバラだ)

 ミスリルの剣を構えたアルは、姿勢を低くして周囲を探る。

(ゴブリンはホビット並に小柄で、痩せた体躯の防御力は低い)

 自然と浮かび上がってくる知識は、アルにとって馴染み深く感じられた。

(雑菌まみれの爪や牙に、注意しておけば脅威はないぞ)

 例え相手が五匹であっても、一人で個別に対処可能である。

(記憶喪失なのに、冷静で居られるのか)

 一本の木を挟んで、左右から同時にゴブリンが飛び出して来た。


 左手の楯で防御しつつ、右手の剣で首を跳ねる。

 体勢を崩した奴は、躊躇い無く縦に頭を割った。

 直ぐ後ろから続いて来た二匹は並べて胴を裂く。

 木の裏側へ隠れていた奴を背中から斬り捨てた。


 迎撃する態勢だった事もあり、アルは五歩しか移動していない。相手を全滅させたにも関わらず、油断せずに殺気を撒き散らした。


「息も切らさず、大したモノだ」

 ブロードソードを構えたバルカンは、手放しでアルを絶賛する。

「返り血を浴びない位置取りでも、無駄なく次の攻撃に移る流れは素晴らしい」

 アルは平然と評価を聞きながら、ミスリルの剣に洗浄と浄化を掛けた。跡にはゴブリンの血と脂は残らない。


「……魔石も」

 一人で全てを回収してくれたレイラが、血塗れの魔石をアルへと差し出す。アルは黙って魔法を掛けると、彼女の手も含めて綺麗になった。

「……初めての、記念」

 そのまま渡そうとしてくる。

「レイラがいち早く察知して、的確に教えてくれたお陰だ」

 そう言って彼女へ進呈した。

「……いいの?」

 上目遣いではにかむ。

「どうぞ」

 アルは笑顔で頷く。

 レイラも満面の笑みで答えた。


「しかし、いきなり<ミスリルの剣>かよ。流石にパトロン(筆頭司祭)のレベルが違うな」

 戦闘の後始末を終えた三人は、もう少し森の奥へと向かっている。先のセリフは、アルの初陣を評価したバルカンのモノだ。


「……蜘蛛猿は夜行性。ゴブリンが大好物」

 レイラが静かに指差した先には、高い樹の上に蜘蛛の巣が密集していた。

「……今日は早く帰る」

 今の準備だと蜘蛛猿対策には不十分らしい。


(レイラの口調から推測すると、此処はそれ程危険ではないんだな)

 気配を消して着いて行くアルは、まだ彼女が尽くすタイプであると気付いていなかった。






続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ