プロローグ
パキン!
乾いた音を立てて、呆気なく剣が折れた。
(クソッ!)
敵の曲刀を避けながら、少年は舌打ちする。
(楯にヒビが入ったと思えば、まさか剣が折れるとはな)
無理な体勢から撃ち込んでみたが、その結果は最悪であった。
(魔力を流し過ぎたか?)
鋼鉄製とは思えない程に脆かったのだ。
(やはりミスリルじゃあなければ、劣化が早い)
敵が曲刀を振り抜いた隙を突いて、右肩から体当たりを喰らわせる。よろけた相手の膝を狙い、渾身の回し蹴りを放つ。
ゴキッ!
横からの打撃に、敵の膝が折れる。
低い姿勢になったテンプルへ、剣を握ったままのバックハンド・ブローを叩き込んだ。
(ヤバイ!)
手応えを確認する間も無く、もう一人が斬りつけて来る。左利きのその剣筋に戸惑い、咄嗟に顔を背けるが遅かった。
右の頬に擦った後は、正面から胸を切り裂かれてしまう。
(逃げろ!)
今のままでは不利だ。
そう判断した少年は、戦場の地形を思い出す。
(魔力が残っている内に……)
必死に敵の攻撃を躱した。
(多少は時間を稼げただろう)
ジリジリと移動する。
(後は皆を信じるだけだ)
頼もしい仲間を思う。
(飛び降りるんだ!)
十歩もない距離に、崖の端が有った筈だ。
両足に魔力を込めて加速する。
その背中でマントが斬られる感触があった。
(躊躇うな)
崖から身を躍らせる。
それと同時に、残り少ない魔力の全てを身体強化へ注ぎ込んだ。
断崖に足が着くと体重を掛け、出来る限りの減速を試みる。強烈な負荷に靴の踵が千切れた。
(高さを誤ったか?)
猛烈な勢いのまま、垂直に近い角度で落下する。周囲の岩石に衝突しながらも、身体強化に任せて防御の姿勢をとった。
ガン!
頭部への衝撃に、一瞬で意識を刈り取られる。
無防備な少年は、そのまま落下した。
その姿を崖の上から見下ろす視線には、全く気付けない。
◇◇◇
「行こう」
「ああ」
崖の上に残っていた数人の影は、静かにその場を立ち去った。
続く