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「はぁ……はぁ……、うう……」

「……君、大丈夫?」

「あぁ、うん、大丈夫だよ……」

「大丈夫そうに見えないのだけど?」


痛みを堪えながら歩くのはやはり中々キツかった。意気揚々と出発したのはいいのだが既にもう回れ右をしてアマーリエさんに断りを入れてベッドで寝ていたい。

自分で言うのもなんだが万全でない体調で出歩くとかそれもうただの馬鹿だろ。何かやむを得ない状況や場合ならともかくさぁ。


「ごめん、アーリィさんだっけ? 帰ってもいいかな。やっぱりちょっと辛い」

「え? どうしてもって言うのならしょうがないけどもう教会は目と鼻の先よ、ほらあれ見える?」


そう言ってアーリィの指差す先にはいかにも教会って感じの屋根に十字架を構えた建物が見える。


「分かった。じゃあもう少し頑張るよ」

「そうしてくれるとこちらとしても助かるわ」


そう言ってアーリィは再び先頭を歩く。俺はアーリィの後ろをついていった。


数分もしないうちに教会の目の前に辿り着いた。教会は全体的にやはり白い建材でできていたのだがどうやらかなり年季が入っているようで近くで見るとそこかしこに黒ずんだ汚れが見受けられた。

アーリィが教会の扉を叩く。少し待って反応がないと分かると再び扉を叩いた。しかし反応がない。

アーリィは少し扉を強く叩く。


「マリー、いるんでしょう! 開けないなら勝手に入るわよ!」


バタバタバタ…


扉の奥から慌ただしく動く何者かの気配を感じる。


「ま、待ってくださ〜い! 今開けますからぁ〜!」


そこから少し待つと教会の扉が軋みをあげて開いた。


「もう〜アーリィったら急かさないでよぉ〜!」


開いた扉からはシスター服に身を包んだ女の子が顔を出した。


「しょうがないでしょ? 教会の中には許可なく入ってはいけないんだもの。第一それは教会の人間が決めたことでしょ?」

「それはそうなんだけどぉ〜」

「なら文句言わないの」

「むぅ〜」


マリーと呼ばれたその女の子はアーリィの発言に対しぷくっと顔を膨らませて不満を露わにした。


「ところで、今日はお客さんを連れてきたのだけど」

 「え? お客様って……あれ、この方は……! もう起き上がられても大丈夫なんですか!?」


 え、俺こんな人見たことあったっけ。向こうは明らかに俺のことを知ってるっぽいような反応してるけど、俺この人知らないよ?


 「まぁ、さっきは自分で食事を摂れていたみたいだし、多分大丈夫よ。ね、リン?」

 「え? ああ、まぁ……」


 急にこちらに話を振られたので俺にはこんな返事しかできなかった。


 「それなら良いのですが……、もし痛みが辛くなったりしたらいつでも言ってください? 少しなら私もお役に立てると思いますぅ」

 「あ、ありがとうございます。えーと……」


 くそぅ、俺この人の名前知らねぇんだけど……!? 向こうは俺のこと知ってるみたいだし多分どっかで名前とか聞いたんだろうけど……出てこねぇ!


 「も、申し訳ないのですが、もう一度お名前を教えてくださいませんか?」


 おずおずと聞いてみると。


 「あ、そういえば自己紹介はまだでしたね! 私の名前はマリーです! この教会でシスターをしています!」

 「え?」

 「?」

 「あれ、俺のことはご存知だったんじゃ……?」

 「? 何のことでしょうか?」


 え、なにどゆこと? どこかで自己紹介的なことしてたんじゃねーの?


 「マリーはあなたの治療をしてもらうために私が家に呼んだのよ。だからあなたのことは知っているけど名前は知らないの」


 アーリィは俺が何か悩んでいたことを知ってかしらずかそう教えてくれた。


 「あ、なるほどそういうことか! いや失礼しました! 俺の名前は宮間 燐です。リンと呼んでください。それと怪我の治療ありがとうございます!」

 「いえいえ〜、さっきも言ったようにまた痛んだりしたら教えてくださいねぇ? そしたらまた治療させていただきますので〜」

 「はい、ありがとうございます!」


 と、挨拶が終わったところでマリーが切り出す。


 「ところでアーリィとリンさんはどんな用事で来たの?」

 「ああ、忘れるところだったわ」


 いや忘れんなよ。


 「ねぇマリー、今日はこのリンの『託宣』をお願いしにきたんだけど今から頼める?」

 「『託宣』? うん、今なら大丈夫だよぉ〜、ってリンさんは『託宣』したことないの!?」


 驚いた表情でマリーがこちらを見てくる。


 「う、うんちょっと機会に恵まれなくてね、へへ」

 「た、たまにそういう方がいるって聞いていたけど会えるとは思っていませんでした」


 俺の苦し紛れの言い訳にマリーはそう返した。


 「とにかく、先ずは『託宣』をさっさとしてしまいましょうか! リンさん、私について来てくださ〜い」

 「あ、はい」


 俺はマリーの言葉に素直に従い後をついて行く。その後ろからはアーリィもついて来ていた。


「ところで『託宣』って具体的に何をするんだ?」

「簡単ですよぉ〜、神様の前に立ってお祈りをするだけですよぉ〜」

「へ、それだけ?」


なんだ、本当に簡単じゃないか。思わず拍子抜けをした顔をした俺にマリーが注意を飛ばす。


「あ、今簡単だと思いましたね? だめですよぉ〜、神様へのお祈りはしっかりしないと天罰が下っちゃいますからねぇ〜?」

「天罰? ええと、例えばどんなの?」


そう俺がマリーに聞くと、マリーはそれとなく俺から視線を逸らした。


「え? え、えぇ〜っとぉ……そのぉですねぇ、次の日起きたら足が痺れて動けなくなる、とか?」


てへっ、と首を傾げて困ったようにマリーは笑う。その愛くるしい動作に誤魔化されるものは星の数ほどいるに違いない。俺が誤魔化されるのだから間違いないだろう。


「そっかー、足が痺れるのは辛いなぁ。真面目にお祈りしよう」

「うんうん、それがいいですよぉ」


 マリーは言葉通りに小さく二回首を動かす。

 いちいち仕草が可愛いなこの子は。世間ではあざといとか言われそうだけど俺はこういうのは結構好きだぞ。


「あ、着きましたぁ、ここです」


教会の奥の扉にたどり着いたマリーはその扉を押し開き中へと俺とアーリィを招き入れる。中は石畳が敷かれており、綺麗に整備されている。おそらくはマリーが毎日清掃を頑張っているのだろう。普段は使われてなさそうな部屋にはしっかりとした清潔感が漂っていた。

そしてその部屋の奥の正面の真ん中にはこう言ってはなんだが、村にしてはかなり精巧な美女を象った石像が鎮座していた。


「ではリンさん、ぱっぱっぱ〜っと終わらせますのでメルテア様の前で跪いてお祈りしてくださいねぇ〜」


メルテア様というのはおそらくこの石像のことだろう。この世界の神は【メルテア】と言うらしい。まぁわかっていたことではあるが、やはり世界が違えば神の名前も違うんだな。

俺はマリーの指示に従いメルテア様の前に跪いた。そして手を合わせて強く念じる。正直祈りというものがどう言うものなのかよくわからないので本当に念じるだけだ。

あ、そうだ! 神を名乗るからには茜さんや時哉の居場所も知っているかもしれない。

ただ念じることをやめ、茜さんや時哉の顔を思い浮かべ強く念じた。すると——


〝強さを求めよ、狩人よ〟


「なんだ!?」


不思議な声が頭の中に響くように反響した。驚いて顔を上げると周りにはマリーとアーリィの二人が突然声をあげた俺を怪訝な目で見つめていた。


「リン、いきなりどうしたの?」

「いや、なんか頭の中に声が響いて来てさ……、なんだったんだ?」


俺が不思議に感じているとマリーが興奮して近づいてくる。


「キャーもしかしてリンさんメルテア様のお言葉が聞けたのですかぁ!? すごいすごーい! まさか本当にメルテア様のお言葉を聞ける方が存在するなんて! 感激ですよぉ〜!!」

「え、これってすごいことなの?」


冷静とは言えないマリーではなくアーリィに質問する。


「話には聞いたことあるけど、かなり稀なことらしいわよ」


おや。冷静に見えたアーリィだが心なしかソワソワしている。

そんなにすごいことなのか……! やばい、顔がにやけてきた。これって所謂『チート』と言うものなのでは!?


「あ、そうだ。リン、早くどんなスキルがあったのか教えてちょうだいよ」


リンが俺の手の中に視線を注いでそう急かした。

ふと自分の手の中を見ると。


「お、なんだこれ」

「ステータスカードよ。『託宣』を終えると神様からもらえる自分の情報が書かれたカードよ」

「へー! そうなんだ、スゲー!」


いつの間にか俺の手の中に存在していたカードを俺は縦に持ったり、横に持ったり、裏返してみたり、透かしてみたりしてみた。この行動にこれと言った意味はない。


「リン、早く教えてよ」

「わかったって」


ぴらり、とカード見てみると、結構な量の文字が書かれていた。


「いやアーリィ、これ見てもらったほうが早いかも」


そう言って自分のカードを渡そうとするが。


「無理よ。人のステータスカードは第三者はまず読むことができないの、ほら」


そういってアーリィが懐から自分のステータスカードを取り出して俺に見せてきた。


「うわ、なにこれ」

「ね、読めないでしょ?」

「うん、全く読めないね」

「マリーのも見てみなさい、ほらマリーちょっとカード貸して」

「うん、いいよぉ〜」


マリーは胸元から、っ胸元!? っから自分のステータスカードを取り出した。


「マリーいい加減そこになんかしまうのやめなさいよ……」

「え〜、だってここが一番取りやすいし落とさないんだも〜ん」

「リンがいやらしい目で見てるわよ」

「え? きゃっ、エッチ!」

「ちょちょちょアーリィさん何を言っているんですか、俺は決してそんなやましい目で見たわけじゃないですよ!? 自分の本能に従って見ただけです!」

「それ結局やましい目って言うんじゃないの?」


くそっ、論破に失敗した! こうなったら……!


「ま、まぁマリーさんとりあえずカード確認させていただいてもいいですか?」

「え、う、は、はぃぃ……」


おずおずとカードが差し出される。視線をそらすためにしっかりとカードを確認すると文字が書いてあるところが全て文字化けしているようで全く読めなかった。


「た、確かに読めないですね! はいっ、マリーさんこれお返ししますねッ!」

「はぃ、ありがとです……」

「全く、なんでそんな身体してるのにそんなに視線に耐性がないんだか……」

「だ、だってぇ! えっちぃ目で見られるのははずかしいのぉ……」


何というか俯いてモゴモゴと口を動かす彼女は、とても庇護欲を掻き立てられる。それで修道服の上から体の凹凸がくっきり見えるのだから、世の中の男性の支持は莫大なものだろう。エロい目で見るなと言う方が無理があるように感じる。


「まぁ、それは一旦置いといて。ほら、リンも分かったら自分のカード見て口頭でスキルを教えてちょうだい」

「あ、ああそうだね」

「全く、いつまでマリーを見ているのよ」

「ふぇっ」

「ちょおぉ〜! 見てない、見てないから! それよりも、今からスキル言うよ!?」

「分かったから、早く教えなさいって」


く〜、この女ァ……。


「じゃあ言うよ、えー〜っと——」

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