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もう少しで一章完結です。
「誰だ?」
辺りを見渡すが白以外の色は俺の視界に入らなかった。
「ああ、僕はまぁ……君たちの言うところの『神』ってやつかな」
まるで空間そのものが喋っているかのように『神』とやらの声が響く。
「『神』様だって? ……信じられないね」
「えぇっ、どうしてさ?」
『神』様が不思議そうに疑問を口にする。
「【地球】ではこんな感じの白い空間に呼び出されると相対する相手は『神』だって信じてもらえるんじゃないのかい?」
「……どこでそんな知識仕入れて来たんだアンタ……」
って待てよ。
「【地球】って言ったのか? 今」
「ああ、そうだよ。君たちがこの世界に渡るのを許可したのは僕だ」
「なんだと? 今君たちって言ったか? なら俺以外にあの世界に行った奴がいるってことだよな!?」
「ん? まぁそうだけど。……あ、もしかしなくても君『はぐれ召喚者』かい?」
「は? 『はぐれ召喚者』、ってなにそれ?」
俺は聴き慣れない単語に首を傾げる。
「ん、ようするにこの世界に渡ってくる途中でたまーに人数オーバーでごく一部の召喚者が一人だけ違う場所に飛ばされてしまう人のことだよ」
「へぇ〜」
「で、『はぐれ召喚者』になると一人だけ異世界に到着するタイミングが遅れたり早くなったりするから『面談』のタイミングがずれるんだよねぇ」
「『面談』?」
「ほら、この世界を体験したならわかると思うけど君たちのいた【地球】と違って色々物騒じゃない? だから僕が自分の身を守れる程度の『力』を持たせてあげるのさ。 【地球】の人材って知識は豊富だけど、他の異世界人と比べると身体が貧弱だからさ?」
「え? それってなに、俺にも力をくれるってこと?」
「ん? あーいや、『はぐれ召喚者』は【地球】では開花できなかった能力をもう持ってるから僕が更なる力を与えることはできないんだよ。ほら、そんな感じの能力に心当たりはない?」
そう言われると思い当たる節しかない。
「……思いっきり心当たりしかないな。じゃあアンタが俺を今『面談』する意味ってなんだ?」
「ん? んーまぁ僕の暇つぶしだね!」
「……はぁ、期待して損したわ」
「はっはっは、すまないね!」
自称『神』は全くすまなさそうにせずにケラケラ笑った。
「……ところで、君僕のこと『神』だと思ってないでしょ?」
「え? ああ、まぁな。というかそれより早く俺の意識を覚醒させてくれないか? 強力な力とか別にもらえないんだったら……」
早く戻って助けなければ。そう思ったが俺はあの『ゴブリオン』に、全く太刀打ちできなかった。なら戻ったところでどうする? 戻っても満身創痍の俺の身体じゃ状況はなにも好転しないんじゃ?
ネガティブな思考が俺の脳内をグルグル回る。
「もらえないんだったら、何なんだい?」
暢気に俺に語りかけるこいつが『神』だというのなら、
「なぁ『神』様! どうしても俺に力を渡すことって出来ないのか!?」
俺は真剣に『神』様に懇願しようと部屋の中央で誰もいない空間に叫んだ。
「……え、ちょっと、どこ見て話してるの?」
「どこって、アンタ——『神様』がどこにもいないからどこにいても聞こえるようにデカい声で話してるんだよ!」
「……え?」
『神様』は困惑した声を上げた。
「(……まさか、いやでも……。)……なぁ、えー……宮間 燐くん、だよね」
突然自分の本名を呼ばれて今度は俺が困惑の声を上げた。
「何で俺の名前……いや、『神様』だもんな、分かって当然か」
俺は自分の中で漸く今対話している相手が本物の『神様』なのだと納得することができた。
「はい、宮間 燐です」
「うん、で、燐は自分のステータス確認できたりする?」
「はい、この『ステータスカード』で……」
『ステータスカード』を取り出そうと懐を探る、が。
「……ん? (バッ、バッ)……ない!?」
何度も何度も触って弄って確かめたが、『ステータスカード』が手に触れることはなかった。
「もしかして、見られない? 普通【地球】から来た人は見ようと思えば脳内で確認できるはずなんだけど」
「え、そうなんですか? それって私も適用されてるんですか?」
「そのはずだけど」
「ちょっと、やってみます」
『神様』にそう言って俺は頭の中で「ステータスカードを確認したい」と念じた。
「……お! 見られました!」
「じゃあ、燐のステータスの中に『当たり』っていう表示のスキルがあったりしない?」
「あ、ありますあります!」
「……(間違いない。そうか、遂に来た、いや……来てしまった、か……)」
「あの、これは一体何なんですかね? ずっと気になってたんですけど」
俺は突然沈黙した『神様』に対してそう聞いてみた。
「……それは見ての通り『スキル』だ。ただ、そのままでは使えない。その世界を管理する者でなければ解除できないロックがかかっているんだ」
え? ってことは。
「それって新しい力が手に入るってことですか!?」
「……ああ。そういうことになるね」
新たな力が手に入る。そう聞いてテンションを上げる俺とは反対に『神様』の口調はなぜか重い。
「まぁ、それも僕がそのスキルのロックを解除すればの話だけどね」
「それなら早k」
「その前に」
一際声量の上がった『神様』の声が急かした俺の声を遮った。
「まず、ロックを解除する条件として僕の真名を知ってもらわなければならない」
そう言って『神様』は言葉を切った。
「僕の真名はゼルアスタ。『神』としての名はケルティアだ。君はこれからは僕のことは真名で呼んでくれ」
「あ、はい、ゼルアスタ、様」
呼び慣れない様付けでぎこちなく『神様』の名前を口にする。
「うん。じゃあ次だ。君の能力を解放するにあたって大事な質問をする。これは僕との『契約』だと思ってもらって構わない、いいね?」
俺はゼルアスタ様の姿が見えないにも関わらず、目の前で真剣な表情をするゼルアスタ様のような人物が見えた気がした。それほどゼルアスタ様の言葉には言い知れぬ迫力を感じたのだ。
「わ、わかりました」
「絶対に適当に答えてはいけない。これは今後の君の生涯を左右する『契約』なんだ」
「は、はい」
俺は無意識のうちにゴクリと生唾を飲み込んだ。
「うん。それじゃ始めよう。宮間 燐、君がはいと言えばその瞬間強大な力が手に入る。ただ強力な分それだけの力を持つ代償がある。それは近い将来君に絶大な不幸を齎すだろう。だが、その不幸を全て乗り越えることができた時。君は自身の望む物を全て手に入れることが出来る。……どうだい、覚悟は決まったかい?」
俺は考える。『神様』、ゼルアスタ様がこれだけ真剣に語る『契約』を果たした時、俺は間違いなく強くなるはずだ。『ゴブリオン』だってきっと倒せるはずだ。だが、この『契約』を断ったときどうなるのか。試しにゼルアスタ様に聞いてみると。
「……ああ、確認したけど今の実力じゃこの魔物を倒すことはできないだろうね。その場に居合わせた人間は死ぬ。燐、君だけは死に物狂いになれば逃げられる、かも知れないね」
「そうですか……、ってじゃあこれ私に選択肢あってないようなものじゃないですか」
俺が呆れたようにそういうとゼルアスタ様がいや、と続けて話す。
「君があの場の全員を見捨てる決断が出来れば君は助かるよ。酷な言い方かもしれないけどね。現実はいつでも残酷だよ」
「……何ですかその言い方。もしかしてあのタイミングで俺がここに来たのってゼルアスタ様の策なんじゃないんですか?」
俺は、ゼルアスタ様の言動に若干イラッとして言葉をぶつけた。
「言っただろ、現実は残酷なんだって。あのタイミングで君がこの空間に来た理由は君の存在がこの世界に完全に定着したのがあのときだったんだよ」
「……ちょっともう少しわかりやすいように説明してもらっていいですか?」
ゼルアスタ様は俺の問いにああ、と短く返事をしてから説明を始めた。
「まず、この空間は世界を繋ぐ『門』みたいなもので僕が『面談』するのはどんな存在がこの世界に入ってくるのか確認して監視するためなんだ。まぁ一種の【地球】でいうGPS機能をつけるためだと思ってくれればいいよ」
「ああ、そういう意味があるんですね」
「そう。でもこの時『はぐれ召喚者』は『面談』を出来ていない。それは『門』以外の通り道、『次元の狭間』って言う抜け穴から先に入ってしまっているからなんだ」
ゼルアスタ様は一旦言葉を切る。
「で、そうなるとその『はぐれ召喚者』の『存在の定着』が始まってしまう。こうなると管理者である僕にはこの時点では『はぐれ召喚者』は元々この世界にいた人物として認識できてしまうんだ」
「なるほど」
「でも、時間が経って『存在の定着』が完全に完了すると今度は世界そのものが『はぐれ召喚者』を異物として認識する。するとその時点で強制的に『門』まで送られるわけだ。これが燐がここに来たタイミングだね」
「はぁ〜、なるほど。つまり『はぐれ召喚者』っていうのは不法入国者みたいなものなんですね」
俺が自分なりに出した解釈を言葉にすると、ゼルアスタ様は苦笑いをした。
「ははは、そうだね。侵入を許可してない人物が勝手に入ったらどんな影響を及ぼすか分からないからね。こうして確認しないと僕の知らないイレギュラーが発生する可能性があるから」
「分かりました。そういう理由ならしょうがないですね」
「分かってもらえたようで何よりだよ」
ふぅ、と短く息を吐くゼルアスタ様の声が聞こえた。
あ、そうだ。
「これは念のために聞きたいんですけど、今ここで過ごしている時間ってそのまま私がいた場所でも同じように経過していたりしないですよね?」
「ああ、それは心配ないよ。【地球】でいうお約束ってやつだね」
その返答を聞き俺はほっとした。
「さて、色々と理解してもらえたところで『契約』の続きだ。君はこれから起こるであろう『絶大な不幸』ってやつを受け入れる覚悟があるかい? 言っておくけど、君が考えている以上にこの代償はとてつもなく大きいよ?」
ゼルアスタ様は低い声で脅すような口調でそう内容を口にした。それはまるで『契約』するな、と言っているようにも聞こえた。
でも。
「ゼルアスタ様、この『契約』をしなければあの場にいる人間、アーリィ、リーリエ、アルマ、ナタリー、マリー、それとノエルたち全員が死んでしまうんですよね?」
「ああ」
「俺はアーリィを助けるためにあの場に行きました。それがだんだん守りたい人が増えて増えて増えまくって。特に守りたい人が六人はいるんです。私だけ逃げる事は出来そうにありません。なら私は今、みんなを助けられる道を選びます」
俺は自分の考えをまっすぐゼルアスタ様に伝えた。
「……本当にいいのかい? 今が良くても必ず後悔する日が来るかもしれないよ?」
「ゼルアスタ様、私は見えない不確かな未来よりも、現在の方が大切なんです。それに、必ず死ぬと言われた人間が助かる道があるなら、私は迷わずその道を行きます」
「……どうやら、決意は固いみたいだね。分かった、『契約』を完了しよう」
俺の気持ちが曲がらないことを理解したゼルアスタ様が笑った気がした。
「今、君の目の前に僕はいる。さぁ、手を出して」
俺は言われるがままに手を目の前に差し出した。すると、見えない何かが俺の手を握るような感触が走る。
うわ、何だこれ!
握られた感じのする手から何か温かいものが流れ込んでくる。それは俺の全身を巡りながら俺の心臓と脳に到達した。
「これ、は……」
「分かるかい? 今君の力を解放した。それの使い方は君の身体が既に知っているはずだ」
ゼルアスタ様がそういうと同時に、ぼんやりと目の前に人型の輪郭が見えてきた。
「さぁ、やる事は終わった。君は今からあの場に戻る。どうするかは君次第だ」
輪郭がだんだんはっきりと見えてくるようになると同時に今度は俺の視界がぼんやりとしだしてきて。
「さぁ、行っておいで。君ならきっと、現在も、未来も乗り越えられる」
「は、い……、行ってきます……」
「ああ。いってらっしゃい」
漸く輪郭が色を持ち顔もしっかり見えそうになったところで、俺の意識は限界を迎える。
だが。
「……すまない」
ゼルアスタ様らしき人物のこの謝罪の言葉だけはいやにはっきりと耳に残った。
完結してもテコ入れとか文章の食い違いの修復とか、詳細描写とか必要ならするので完全に完成するのは果たして何時ごろになることやら……。
まぁそれはやっぱり一章を完結させてから考えようと思います。
ここまで読んでくださった皆様、PV数が増えるたびに私の励みになってます。本当にありがとうございます!




