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さて、少女になすがままに手を引かれ鬱蒼と広がる微かな木漏れ日に照らされた道無き道を二人で歩く。


あー、それにしても痛い。袋叩きとか、想像するだけで大分痛いと思っていたけどとんでもない。すっげぇ痛い。

ちらっと服の隙間から見える肌はどこもかしこも浅黒い。思わず自分で自分に引いてしまった。


それにしてもこの少女は一体どこからきたのか。肩のあたりで綺麗に揃えられた銀髪の髪が歩くたびにゆらゆらと揺れている。着ている服は麻のワンピースといったところか。

しかしそのワンピースは所々解れ、破けている。俺よりはマシだが、これがもう少し身体が大人びていたら目のやりどころに困っていたことだろう。


そんなことを考えている間も少女はどんどん進む。正直女の子に手を握られるのは悪い気はしないが、ひたすら無言で歩いているので、どうにも居心地が悪い。

なので、意を決して話しかけてみることにする。


「あ、ちょっと、君、今どこに向かおうとしてるんだい?」

「お家です!」


おお、どうやら会話は成立するようだ。


「お家ってどこにあるの?」

「はい、あっちです!」


いやあっちて。少女の指差す方向には何も無い。いやあるにはあるのだがそれはすでに見慣れた森の景色が広がるだけだった。


「今歩いてる場所って道はあっているの?」

「わかりません!」


おーい。分からないのに凄い自信満々な顔で先頭を歩いてたんかい。

少女の返答に思わず頭が痛くなってきた。

俺が頭を抑えている間も少女はずんずんと歩を進めていく。

一度はこのまま少女に任せていいのかと疑問に思ったが、俺もこの森を出る術を知らないため任せることにした。

それにこんな小さな少女なら誰かが探しに来る可能性が高い。それに便乗すればなんとか助かるだろう、と考えならばと知りたいことを少女に聞くことにした。


「そういえば自己紹介してなかったね、俺は宮間 燐って言うんだ。君は?」

「わたし、リラっていいます!」

「リラちゃんか、いい名前だね」

「あ、ありがとです!」


名前を褒めると少女——リラはちょっとだけ俯いて照れていた。

何だろう、見た目の容姿もとても可愛らしいのでなんというか保護欲が掻き立てられる。


「リラちゃんはここがどこか、とかって分かるかな?」

「ここは[アレイルの森]って言います! わたしの住んでいる村の近くにある森です!」

「ふーん、じゃあ今リラはその近くの村に向かおうとしてるんだね」

「そう、なんですけど……」


おや、どうした。リラは足を止めてこちらを向く。すると段々リラの目から涙が溢れ。


「ごめっ、なさい……。道がっ、分からないんです……ひっく」

「ああ、いやいや大丈夫だよ! リラちゃんが分からないのはしょうがないよ! 多分リラちゃんは攫われてきたんだよね、なら分からなくなってもしょうがないから!」


思わず頭を撫でて、落ち着かせようとする。


「わたしっ、リンさんが一度、ひっわたしの前からッ、いなくなっちゃったので……」

「…………」

「こうしていないとっ、道を、知ってるフリしてないとッ、ひっく…また置いていかれると思って……!」


そうか。確かに一度俺はあの場所から居なくなった。見知らぬ他人だろうが自分が窮地に陥った時に見捨てられたと思ったとき、どれだけの絶望を味わうのか。

ましてやリラは子供だ。想像するのは容易い。


「ゴメンな。あの時は自分のことで精一杯だった。見捨てたことには変わりない。だけど、もう大丈夫だよ。絶対見捨てないから」

「……ひっ、ほんとうですか?」


フッと微笑んでリラの瞳を見つめ。


「ああ、本当だよ」


ゆっくり、はっきりと伝えた。


「う、ぅぅ……うわああぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁん!!」

「……よしよし、怖かった、怖かったね。大丈夫、俺が守るから」


しゃがんでリラを優しく抱きしめ、何度も何度も頭を撫でる。それはリラが安心して泣き止むまで続いた。



しばらくするとリラは泣き止み、


「リンさん、ありがとうございました!」


とびっきりの笑顔でそう言ってくれた。

そんなリラと再び手を繋いで森の中を進む。心なしかリラの足取りは最初よりも軽くなっているようだった。俺の目は本当に節穴だったのだろう。

こんな小さな少女が知らない道を知らない人物と歩くことが心労にならない訳がない。


「あ、リンさんこれ薬草ですよ! 持って行きましょう!」

「ん、そうだね」


リラの手に導かれ二人揃ってしゃがんで薬草を摘む。それをどこに所持しておくのか、と聞かれるとそれは俺のポケットの中だ。

こんなやり取りを数回繰り返すと俺のポケットからは薬草がわっさわさと顔を出す奇妙なスタイルになっていた。


「リンさん、ほらあそこにも生えてます!」

「リラは目がいいなぁ、よし、持って行こうか」


正直そろそろツラい。何がって体の痛みがだ。薬草を摘んでいるのだからそれを使って痛み止めなり何なりに使えばいい、と素人考えで思ったのだがリラ曰く。


「薬草はちょうごうしてから使ったほうがこうかが高いんです! それに薬草はそのまま食べてもこうかがあるんですけどとても苦いんです」

「へぇ、そうなのか、どれどれ……(むしゃ)」


!! 苦い! 青臭い! 雑草を食んでるみたいだ! 正直野菜類全般に苦手なものなどないし、まぁ青汁みたいなものかな、とか勝手に思ってたけどそんなことなかった!


「ゴフッ!! ぺっぺっ!」

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ大丈夫だよ。正直予想以上に苦かった、これはとてもじゃないけど厳しいね……」



こんなやり取りがあり、俺は大人しく薬草を摘んでリラの家に戻ったらリラの母か姉が調合できるらしいので、戻ったら頼もうかと思っている。


しゃがんで薬草を摘もうとしたその時。


「リラ、リラなの!? リラー! 聞こえてたら返事をしてぇ!!」


声の聞こえ方からして、距離で50メートルもないかという場所からリラを呼ぶ女性の声が聞こえた。

ハッと薬草を摘む手を止めてリラが叫んだ。


「おねえちゃーん!!」


すると何処からかガサガサと背の高い草を掻き分ける音が聞こえる。その音は段々とこちらに近づいてきて。


「リラッ!!」


頭に葉っぱを沢山乗せた美少女が顔を出した。


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