第8話〜魔法戦〜
「…いくよ」
そう言った瞬間ヒメの体がぶれる。
(速っ!)
ヒメが一瞬にして清人の懐に入り込み大鎌、アークサイスを大きく横に振る。清人は左手の銃剣、シスカで受けとめるが、受け切れず横に大きく吹っ飛んでしまう。
すかさずヒメは追撃しようこころみるが、清人は吹き飛びながらも正確にヒメにめがけ3発の魔弾を撃ちそれを阻止した。
「っち」
ヒメは追撃をあきらめ、数歩下がりながら魔弾をかわし、再び構えをとる。清人も空中で姿勢を整え着地をし、構えるとヒメに話しかけた。
「まさかここまでだとはな…正直驚いたよ。」
「よく言うよ、今、私の攻撃に合わせてお兄ちゃん横に飛んで威力殺したんでしょ?」
ヒメの言う通り、清人はシスカ1本では受けきることができないのを感じ、当たる直前に体を飛ぶ方向にあわせて飛んでいたのだ。
(うまくやったつもりだったんだが、まさか見破れてたとはな…そしてあの速度に鎌の威力)
(私の最初の攻撃を反応した上に、横に跳んで威力を殺すなんてすごい反射神経、しかも吹き飛びながらのあの射撃精度。)
((やっぱり強い))
二人はお互いの強さを理解するし、戦闘態勢を構えると、その場の空気がさらに緊迫したものに包まれる。
お互い睨みあったまま数秒流れると、再びヒメが地面をける。清人はヒメの速さを一度見ているため、すぐ銃剣を構え、ヒメに狙いを定めて魔弾を撃つ。
それをヒメはジグザグに移動しながら清人に走りよっていく。はずれた魔力弾が地面を小さくえぐる。ヒメはときどき当たりそうになる魔弾を、大鎌の柄の部分|(持つ部分の棒)で受け止めながら清人に近づき、上から大鎌をふる。
「そりゃ!」
ガキンッ!!
「ぐっ!重っ」
岩しかない平地に強い金属音が鳴り響く、今度は二本の銃剣で受け止めた清人だったが最初の一撃よりも重い攻撃に足がすこし地面に埋まる。
「っこの!」
清人はつぶされそうな状態でなんとか鎌を上にはじいた、が、ヒメはすぐに横に鎌を持ち直し再び切りかかる。
(ヒメの大鎌は間違いなく大型重量武器、なら一撃の威力がでかい分小回りが利かないはず)
そう、清人の考えるとおり、大型重量武器の強みは攻撃範囲と威力、しかし一方ではずしたときの隙が大きいこともある。これをかわせばいける、清人は大鎌をしゃがんでやりすごし、すかさず右手の銃剣をヒメに向かって突き出すが魔弾を撃つ瞬間
「甘いよ!」
ヒメの声が響いた。
大鎌を振り切ったあと、ヒメはそのまま体を半回転させ、大鎌の柄の底の部分、石突と呼ばれる部分で、清人目掛けて突く。
「くっ!」
ヒメの予想外の攻撃に対応が遅れ、突きが清人の腹に当たる。しかし清人もただ当たるのではなく、何とか左手の銃剣で受けていた。それでも片手では受けきれず、清人の体は後ろに飛んでいった。
「さすがお兄ちゃん…これもガードされるなんてね」
「いててっ、久々の実戦なんだからもう少しやさしくしてくれよ」
「やだよ~~」
「そうかよ」
清人の要望を笑顔で返すと、ヒメは魔力を鎌に送リはじめる。そしてアークサイスの刃が緑色に光りだす。
それを、清人から離れた位置から、アークサイスを振り下ろしながら叫ぶ。
「烈風!」
ヒュンッ!とするどい音と共に大鎌から強風が巻き起こり、何かが清人に向かって飛んでいく。
(くっ、かまいたちか!)
清人はその正体に気づき、とっさに体を右に転がしそれをかわす。するとさっきまで清人が立っていた後ろにの岩が、まっぷたつに切れた、あんなのをくらったら怪我じゃすまないんじゃないだろうか?
しかしヒメは攻撃を止めず、そのまま烈風を連発していく。清人は立ち上がりはしりだすと、冷静にヒメの大鎌の動きをみてギリギリですべてをかわし、ヒメに向かって左手の銃剣を構える。
「バスターニードル!」
清人が叫ぶと同時に銃口に小さな丸い魔方陣が展開され、魔弾が発射される。
今までよりも速い魔弾が、ドリルのように回転しながらヒメに向かって飛んでいく。
(っ!かわせない!)
そうわかると、ヒメは片手を前に出し、MGシールド(マジックシールド、基本的な魔法ガード)を作る。いつもなら切り落とすが、清人の魔弾の正体がわからないので、普通にガードすることにした。
そしてヒメの作り出した緑色のMGシールドに、バスターニードルが刺さる。
「甘い!」
バスターニードルは回転しながらヒメのシールド当たると、シールドに少し穴を開け、そこを中心に爆発した。あれはガード破壊系の魔法、そこまで威力はないが、シールドなどの壁を壊すのに適した魔法だ。
「っ!」
ヒメは突然の爆発に体が後ろに吹き飛ばされるが、鎌を地面に刺し受身を取る。再び清人の方を向きなおすと、ヒメは体についた土を払いながら言った。
「むぅ~、あんな速度でガード破壊系の魔法を撃つ人なんて始めてみたよ~」
「そうなのか?」
「そうなの!」
ヒメの言うとおり、清人が使った魔法は即座に撃てるものではない、適量の魔力量、魔力の形を形成する魔力コントロール、能力を与える魔法陣の
生成、普通はこれをすばやく一つずつこなして発動するが、清人の場合はちがう。
清人の場合はこの3つを同時進行ですばやく行っている、そのため普通の人間ではありえない速度で発動できるのである。
「そんなこと言われても難しいことはよく分からないし、できるならできるでいいんじゃねぇの?」
「はぁ、もういいや」
ヒメは一度溜息つくと、再び表情を厳しくすると、左手を清人の方に向けてのばし、魔力を手に集中していく。
(武器を使わない遠距離魔法か?それとも…)
いろいろなことを想定しながら清人は目の前にMGシールドを貼ると、ヒメから距離をとるために後ろに跳ねた。
しかし、そんな清人を見て、ヒメは一瞬笑みをこぼした。
「光を奪え!ブラックミスト!」
(!しまった。)
清人はヒメの魔法名を聞き、その正体にに気づくと表情が強張る。急いでその場を離れようとするが、着地した清人の周りはすでに黒い霧が発生しており、視界を埋めつくしていた。
「闇の妨害系魔法か…ってか闇属性も使えたのかよ…っつ!」
清人は何も見えない状況で小さく独り言を呟いていた。その直後に風を切る音が鳴り、なにかが清人の背中に当たる。
突然の鋭い痛みに思わず悲鳴をあげそうになるが、なんとか耐える。
ーー今のは間違えなく烈風、なるほど、外から切り刻むつもりか、
そんな考えをしているときにも、さっきとは違う場所から風の刃が清人に飛んでゆく。それを音を頼りにMGシールドを貼って防いでいく。
(だがこのままだとらちがあかねーな、魔力に限界はある。)
だが無闇にこの霧からでれば、その瞬間ヒメが切りかかってくることは目に見えている。さてどうするか
ヒメは霧の周りを走りながら、霧の中に烈風を放っていた。
(速く出てきなさい、お兄ちゃん)
ヒメは清人がどこから出てきてもいいように、霧のまわりを走り続けている。たとえ反対側からきたとしても、自分の速さなら、すばやく清人の場所に行き、叩く自信がヒメにはある。
清人はヒメの攻撃を防いでいると、何かを思いついたのか、耳に魔力を集中させ、聴覚を一時的に上げる。
…タッタッタッ
(聞こえる…ヒメの足音が……ここだ!)
「はぁぁぁ!」
一気に飛び出し、ヒメに上から銃剣を振り下ろす。
「えっ!」
これが清人の策、待ち構えているならこちらから当たりに行くことを選んだのだ。
突然の攻撃に、ヒメは一瞬驚く表情をみせたが、すぐに鎌を前に出し柄で受け止める。
清人はその柄を中心にヒメ頭上を通り、ヒメの後ろに下り、振り向きながら再び切りかかる、それをヒメは鎌の刃の部分だけを後ろに突き出し、背を向いたまま受け止めた。
「はぁ!」
ヒメは銃剣をはじき、振り返ると、右上から鎌を振り下ろす。
(ここだ!!)
清人はヒメの斬撃を少し後ろに飛びかわし、左足に魔力を集める
「突芯脚!!」
一気にヒメに向かって左足で突く。その一撃はヒメの腹に直撃し吹っ飛ぶ。
「やったか?…っ痛」
攻撃が背中まで響き、清人はその場で一瞬よろける。
(今の攻撃で倒せてればいいんだが…)
しかしそんな清人の希望とは裏腹に、ヒメは腹を抱えながらも大鎌を支えに立ち上がっていた。
「今の一撃はさすがに効いたな~、お兄ちゃんが体術つかえるの忘れてたよ」
「まさかモロに入っても気絶しないとはな、結構マジでいったんだけど…さすがだよ」
「ありがと♪」
そこまで会話をすると、お互いがレイスを構え、目つきが鋭くなる。
((負けない))
それから二人は、切りかかってはかわし、撃っては切り落とすという攻防を、しばらくの間繰り返していた。二人の服はところどころが切れたり焦げたりしている。二人とも、体力がもうそろそろ限界が近っているのはあきらかだった。
するとヒメが大鎌を構えながら、清人に話しかける。
「はぁっお兄ちゃん、そろそろ決着つけない?」
清人も銃剣を構え答える。
「ああっ、そうだな」
お互い肩で息をしながらもヒメ、清人共に魔力をレイスに注ぐ。アークサイスは全体が黒くなり刃が倍ちかくまででかくなっている。神双銃剣シスカは、二本とも白い光に包まれている。
「勝負!」
「いくぞ!!」
二人同時に駆け出しそれぞれの武器を振るう。これで!!
「ダークネス・ヘル!!」
「ツインライトブレイド!!」
黒と白がぶつかり合い、凄まじい輝きに包まれる。
ーーーーーーーー
「んっ」
ここは…
「保健室?」
清人は保険室のベッドで眠っていた。体の傷は魔法で治療され、もう治っている。
「お兄ちゃん、起きた?」
声の方を向くと、隣のベッドでヒメが寝ていた。清人は返事をする
「ああ、今起きた。」
「そっか…」
それっきりヒメは黙ってしまった。達はあの後、二人とも気絶してしまったらしく。ここまで運ばれたのだ。
「ねぇお兄ちゃん、一つ聞いていい?」
「なにを?」
「なんで、本気出さなかったの?」
「ああ、そのことか」
そう、清人はさっきの戦いで本気では戦ってない。理由は簡単だ。
「ヒメが本気じゃなかったからな」
「…やっぱりきずいたんてたんだ。」
「ああ、お前が本気のときは目は紫色だし、魔力質も違ってたしな」
ヒメは本気の時や怒った時は、魔力質の関係で、目が紫色になる。だから清人はヒメが本気じゃないってわかっていたのだ。
「覚えててくれたんだ」
「あたり前だろ?何言ってんだお前。」
忘れる理由がない。
「ふふ、そうだね」
急にどうしたんだ?清人はヒメの考えがわからずにいた。
「ねぇお兄ちゃん」
「今度はなんだ?」
するとヒメはうれしそうな声でいった。
「ただいま」
そんな言葉に清人は一瞬目を開き、やさしい声で返した。
「おかえり、ヒメ。」