敗北者
【5場】
山岳ベース。3場と同じ位置に全員座っている。ただし、鈴本と泉はいない。
栗田「あの、黒岩さん、いくら考えてもわからないんですが、『総括』って何ですか?」
林 「おいっ!」
間。
林 「わからないのはおまえが不勉強だからだ! 何でも人に聞きやがって!」
黒岩「自分でよく考えてみることだ」
清水「おまえは一昨日の晩、同志が『自己批判と相互批判』をしているにも関わらず、『豚汁が冷める』などと口にした!」
栗田「清水さんの発言の前にそんなことを言ってすみませんでした」
小峰「そんなことを言ってるんじゃないんだ! 今は軍事行動の最中なんだぞ!」
清水「おまえは前線で戦っているときに、『飯がさめていてまずい』とか言うつもりか!」
栗田「そういうことじゃなくて、せっかく泉さんが…」
黒岩「総括しろ!」
栗田「それがわからないんです。まとめて話すということですか? だとしたら、ここに笹本さんと泉さんがいないのは…」
清水「全員立て! 総括援助だ!」
黒岩、立ち上がって栗田を立たせる。栗田の腹を殴る。栗田、倒れない。黒岩、顔を殴る。倒れない。
黒岩「やれ! 腹と顔を両方殴れ!」
小峰、瀧、林、栗田の顔と腹を殴るが倒れない。
黒岩「もういい! 外に縛りつけろ!」
小峰、瀧、林が栗田を上手に連れて行く。小峰と林、上手の屋外にある立木に栗田を縛り付ける。
瀧 「おいっ…、あれは…」
瀧、走って上手に退場。小峰と林、上手を見る。瀧、上手から走って登場。そのまま下手に走り、屋内の黒岩の前で止まる。
瀧 「笹本と泉が、凍死してます!」
小峰と林、屋内に入る。全員黒岩を見る。
間。
黒岩「笹本シンイチと泉ユリエの二人は、革命戦士として生まれ変わることができなかった。この二人の死は『敗北死』だ。そのような者で軍を組織することはできない」
間。
黒岩「それよりもやらなければならないことがある。敗北死した泉の浪費のせいで兵站が危うい。すぐにでも補給を必要とする。町に下りなければならないが、この作戦の重要性を鑑みて、おれと清水さんとで行く」
小峰「異議なし!」
瀧・林「(つられたように)異議なし!」
小峰「しかし、黒岩さんと清水さんだけに大荷物を持たせるのは…」
清水「小峰、あんたも来なさい!」
小峰「異議なし!」
黒岩「瀧、おれがいない間はおまえが仕切れ。まず澤本と泉の死体を林と二人で埋めておけ」
清水「身元がわからないように衣服をすべて取り外せ」
瀧 「衣服に糞尿が…」
黒岩「鋏で切り取って脱がせるんだよ、そんなことも知らないのか」
瀧 「栗田の総括は…」
黒岩「おまえの判断でいい。自分の責任で総括援助をしろ…。行くぞ」
黒岩と清水と小峰、立って上手に歩く。
暗転。