自己批判と相互批判
【2場】
全員がそれぞれ、一場と同じ位置に座って食事をしている。
笹本、体ごと黒岩の方を向く。
笹本「黒岩さん、我々が行っているのは軍事行動です」
黒岩「当たり前だ」
笹本「さっきの、小峰さんへの体罰はまずいと思います」
黒岩「体罰ではない。総括援助だ。気絶から覚めたときに、全ての余計なわだかまりや雑念が消え、本物の革命戦士になることができる」
笹本「そうであるならば、旧日本軍の内務班教育と同じです」
黒岩「なんだと!」
笹本「旧日本軍では、古参兵が新兵に暴行することによって、本物の日本兵にしました」
黒岩「気絶から覚めることが大切なんだ」
笹本「気絶をしようがしまいが、殴られることによって、兵士として必要でないものを捨てさせることに変わりはありません」
黒岩 「日本兵はアジアを侵略した! もちろんベトナムもだ! しかし我々は、ベトナムを侵略したアメリカ帝国主義と戦っている!」
笹本 「日本兵もアメリカと戦いました」
黒岩 「日本軍がアメリカと戦ったのは、中国侵略の邪魔をされたからだ! アメリカの帝国主義と戦ったわけじゃない!」
笹本 「その通りです。しかし、軍事行動をしていることは同じです。だからこそ我々は、日本軍とは違うことを、持っている文化が違うことを内外に示す必要があるのではないでしょうか」
間。
黒岩「…わかった。自己批判しよう」
笹本「誤解を恐れずにいえば、戦後民主主義は軍国主義によく似ている。体罰を肯定するところも、アメリカを敵とするところも。だからこそ我々は一線を引く必要があります」
間。
清水「笹本おまえ…、身の程を知れ」
笹本「ぼくはただ、垣根を越えるための相互批判を…」
清水「おまえは昨日、総括援助の時まわりをウロチョロしていただけだったろう!」
笹本「あれは、黒岩さんのあと小峰さんが気絶したからで」
清水「人を殴るのが怖いのか? 小峰に根にもたれるのが嫌なのか?」
笹本「違います!」
清水「人を殴るのが怖い奴が、人を殺せるか! 革命はきれいごとじゃない。暴動なんだぞ!」
笹本「わかっています! ただ、敵を撃つことと味方を殴るのとでは、意味が違うんじゃないかと…」
清水「何をわかっているんだ。総括しろ!」
笹本「自己批判します! 総括援助の時、積極性が足りませんでした。暴力革命の戦士として、いかなる時も前に出て…」
清水「違う!」
笹本「小峰のことを、さんづけで呼びました! このような気の使い方は革命戦士らしくないと…」
清水「おまえはまだ恰好をつけている! 『気を使ったのが仇になった』とか言おうとしている!」
笹本「自分が総括援助に加わらなかったことを、黒岩さんに責任転嫁しました!」
清水「それだけじゃないだろ!」
間。
清水「おまえは殴るのが怖い以上に殴られるのが怖いんだ! だから黒岩さんの方針を軍国主義的だなんていう詭弁を言い出した!」
笹本「違います! あくまでも相互批判です! 殴ることや殴られることが怖いわけじゃありません!」
清水「笹本は総括ができていない! 援助しろ! 全員立て!」
全員、笹本を中央に立たせる。最初に瀧が殴る。
瀧 「(殴りながら)このオポチュニストめ!」
続いて小峰、最後に黒岩が殴る。笹本、倒れる。
黒岩「おいっ、笹本…」
笹本「はい…」
笹本、起き上がる。
黒岩「総括援助を続ける!」
中央の笹本を全員で殴る。
瀧 「(殴りながら)この日和見主義者!」
笹本、気絶しない。
黒岩「続けろ!」
笹本を全員で殴る。
瀧 「(殴りながら)誰にでもいい顔しようとするんじゃねえ!」
笹本、口から血を流す。それでも気絶しない。
黒岩「……、瀧! 小峰! 笹本を表の立木に縛り付けろ!」
瀧と小峰、笹本を連れて下手に退場。
暗転