総括援助
清水「わたしは、女性解放のためにも闘っていながら、自分のすぐそばにある女性蔑視に気づかないでいた。いや、気づいていながら見ないフリをしていたのかもしれない。その男が自らの偏見にとらわれていることに気づいていながら彼を解放するための努力を怠った。具体的には、その男が同志を性愛の対象として扱っていたにもかかわらず放っていたということだ。以上自己批判する」
一同、しんとする。何人か小峰の方を見る。
黒岩「具体的に、だれの行為を指すんだ」
清水「わたしは、泉さんから相談を受けた! 小峰がベタベタさわってくるのが迷惑だってな!」
一同、小峰を見る。小峰、立つ。
小峰「自己批判します。ぼくは、泉さんに無礼な行いを…」
清水「礼儀の問題じゃねえんだ!」
小峰「失礼しました!」
清水「何もわかってないじゃねえか!」
黒岩「総括して話せ」
栗田「総括って何ですか?」
林 「まとめて話せってことだよ」
小峰「ぼくは、泉さんの女性の尊厳を…」
清水「『泉さん』って何だ! おまえのやったことは全ての女性に対する挑戦だ!」
小峰「全世界の女性の尊厳を…」
清水「何だその特権的な言い方は! おまえが女性に対する偏見に囚われているだけじゃねえか!」
小峰、黙る。
清水「黙っていればなんとかなると思ってるのか!」
間。
黒岩「これより、総括援助を行う」
栗田「総括援助って何ですか?」
黒岩「全員立て。小峰を一発ずつ殴る」
全員が次々に小峰の顔を殴る。清水は拳で殴り、泉は平手打ちにする。しかし笹本は遠巻きにしていて「総括援助」に加わらない。黒岩が殴った後、小峰がコミカルな動きで倒れる。黒岩がつま先で小峰の体をつつく。
黒岩「気絶してるな…」
黒岩、しゃがんで小峰の体を起こし、背中にまわって活を入れる。
小峰「……、ぼくは…」
黒岩「総括援助によって気絶する。気絶から覚めたあと本物の革命戦士に生まれ変わる…。全員座れ。夕食をいただこう」
全員座る。しばらくは誰も手を出さない。
栗田「いただきます」
栗田、黒岩、清水以外の全員「(つられたように)いただきます」
全員、食べ始める。
栗田「やっぱりさめましたね」
泉 「あっためなおしましょうか? 鍋にもどさなきゃならないけど」
栗田「いえいえ。じゅうぶんおいしいですよ」
栗田と泉、笑う。清水、栗田をにらんでいる。
暗転