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悪霊  作者: 恵梨奈孝彦


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10/11

山荘

【11場】

下手にスポットライトが点く。瀧、林、栗田が銃を構えながら辺りを伺っている。ヘリのローター音。

林 「くそ、警察のヘリだ!」

  瀧、上手の上空に向かって発砲。銃声。

栗田「(下手を指して)あの林に逃げ込めば、その向こうに山荘がある!」

  栗田、林、滝の順で下手に退場。

  スポットライトが消える。

  暗転。


【12場】

上手にスポットライトが点く。10場と同じ道具。ただし、清水が観客席側を向き、佐藤が舞台奥側を見ている。清水、はっきりと憔悴している。

佐藤「なぜ殺した」

清水「共産主義化のためだ」

佐藤「なぜ殺した」

清水「総括を…」

佐藤「なぜ殺した」

  清水、疲れたように黙る。

佐藤「なぜ殺した」

清水、黙っている。佐藤、清水の髪をつかんで耳元で怒鳴る。

佐藤「なぜ殺した!」

清水「はなせ…。耳元で怒鳴るな…」

佐藤「ならこれにサインしろ」

  佐藤、髪を離して紙をつきつける。

清水「何だこれは…」

佐藤「供述調書だ」

  清水、紙を手に取る。

清水「『私は、自己顕示欲が旺盛で、感情的、攻撃的な性格とともに強い猜疑心、嫉妬心を有し、これに女性特有の執拗さ、底意地の悪さ、冷酷な加虐趣味が加わり、その資質に幾多の問題を…』こんなものに署名できるか!」

佐藤「権力に屈するのも悪いことじゃないよ」

清水「日本人はアメリカに屈した。朝鮮戦争の時は日本の領土から朝鮮民主主義人民共和国を爆撃する軍用機が飛び立った。今も同じだ。日本企業はアメリカ帝国主義のベトナム人民虐殺を手助けすることによって利益を得ている…」

佐藤「飼いならすのも飼いならされるのも同じだ。危険は去る。アメリカだろうが日本だろうが、権力は自分に屈した相手を裏切ったりしないものだ。もう安全なわけだからな。小峰が我々に協力することによって、我々の仕事は楽になり、国民はテロリストが豚箱に入って安心でき、小峰自身は裁判官の心証が良くなる。まあ、おまえには関係ないか。何をしても刑務所で死ぬワケだし」

清水「革命が起きれば、権力者が犯罪者になり、犯罪者が権力者になる」

  佐藤、机の上の写真を手に取る。

佐藤「この死体を埋め戻し、もう一度マスコミの前で掘り起こして写真を撮らせる。これだけのものを見せられたら、誰でも相当なショックを受けるだろう。おまえらは権力の敵ではなく国民の敵になる。新左翼運動、いや左翼運動そのもの、いや政治運動を起こすこと自体が日本ではタブーになるだろう」

清水「日本人がどう思ったとしても、毛沢東同志による世界同時革命は必ず達成される!」

佐藤「それで、なぜ殺した?」

清水「都合が悪くなれば結局それか!」

佐藤「なぜ殺した?」

清水「フン、馬鹿だおまえは。それしか言えないんだ…」

佐藤「おまえの行動は共産主義とも女性解放とも関係ない! 男にチヤホヤされている女と、チヤホヤしている男が憎い。だから殺したんだな!」

清水「違う…」

佐藤「要するにおまえは劣等感のかたまりだ。だから殺人を犯した!」

清水「違う!」

  パッとスポットライトが消える。

清水「違う…」

  暗転。


【13場】

山荘内部。舞台中央に大き目のテーブル。端にブラウン管テレビ、炊飯器、電気ポットなど多くの家電。外から林の母親の声が聞こえてくる。

林の母「テッちゃん…。テツヤくん…。あなたがみんなのために闘っていることはわかりました。あなたはよくがんばりました。だから…、お願いだから出てきてちょうだい。お母さんは、あなたが無事に出てきてくれるためならなんでもします。だから…、今すぐ出てきてちょうだい! あなたはよくがんばりました…。ほら、ここにいる警察のみなさんもあなたたちをほめて下さいますよ…」

林 「うっとうしいな…。あんなことを言われて出ていけると思ってるのか」

瀧 「あれは説得じゃない。権力の我々に対する嫌がらせだ」

警官の声「君たちは完全に包囲されている! 無駄な抵抗はやめてすぐに出て来なさい! 君たちの家族は泣いているぞ。お母さんの声が聞こえないのか!」

林 「栗田、テレビつけてみろ。何か情報が得られるかもしれん」

栗田、上手に歩いてテレビのスイッチを入れる。林と瀧は下手側。外から泉の父の声。

泉の父「ユリエ…。親は子どもが生きているだけでいいんだ!」

   三人、ビクッとする。

泉の父「ユリエ…、聞いているか! 聞いているよな! おれにはわかるんだ。おまえがその建物の奥でじっとパパの声に耳をすませているのが! おまえが犯罪者になったのはつらいことだ…。だけど高い壁の向こうであっても、おまえが生きてさえいればおれも生きていける…。会いに行くから、きっと会いにいくから!」

瀧 「やめろ…」

泉の父「この世でたった二人の肉親じゃないか! だから…」

瀧 「やめろぉ!」

瀧、パントマイムで窓を開ける。ガラッという効果音。猟銃を下手の下方に向かって発砲。銃声。栗田、テレビのツマミをいじる。テレビの音声が聞こえてくる。

アナウンサー「ただいま現場から入った情報によりますと、統一紅衛軍の兵士は、家族からの説得に対して発砲で答えたそうです。…今日は新左翼運動にくわしい南東大学の山田新八郎教授に来ていただいています。山田先生、今の紅衛軍の兵士のふるまいをどう思われますか」

山田「革命のために命を懸けた若者たちです。親子の情などもはや存在しないのでしょう」

アナウンサー「それは、我々にはちょっと理解しがたいのですが…」

山田「彼らは『前衛』となるために厳しい訓練を自らに課しています。そのためには鋼鉄の内部規律が必要です。そういう中で生きていれば自然にそうなるのでしょう。犯罪者とはいえあっぱれと言うべきでしょうか」

林 「権力は泉が死んだことを把握していないのか?」

瀧 「そんなはずはないだろう。リークしていないだけだ」

栗田「やっぱり嫌がらせか」

林 「ならテレビをつけても情報なんか得られないってことか?」

栗田「そんなことはないでしょう」

瀧 「とにかく待っていても仕方がない。中央を突破するぞ! 誰か一人でも生き残ったら軍を再建するんだ」

林 「おう!」

瀧 「それにしても、権力の動きが速すぎる。なぜここを簡単につきとめたのか…」

栗田、猟銃のボルトをつかんで垂直に上げ、銃口側に押し、右に倒す。銃を下手に向ける。

栗田「動くな」


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