殲滅戦
『悪霊』
登場人物
紅衛軍 ジーンズにセーター又はジャンバー
黒岩 男性 リーダー
小峰 男性
泉 女性
瀧 男性
反安保同盟 黒のツナギ
清水 女性 リーダー
笹本 男性
栗田 男性
林 男性
※ツナギでなくても良いが、服装で紅衛軍系の兵士と一目で観客に区別できること。
警官 背広
佐藤 警部補
田中 巡査部長
鈴木 警部
声のみ
アナウンサー
山田教授 新左翼研究家
警官
林の母
泉の父
開幕
ライトは消えたまま。強い風雪の音。
笹本(声のみ)「何が革命だ…、水をくれ! おれはキチガイになってしまう…」
泉 (声のみ)「お母さん…」
【1場】
山岳ベース。ステージに畳が何枚か敷かれていて、コタツが二つおかれている。コタツの上にはラジオ。下手に猟銃が二丁立て掛けられている。上手の屋外に立木。
栗田と林、コタツのそばに座っている。
吹雪の音。
栗田「林さん、その…センメツ戦ってどういうことですか?」
林 「栗田おまえ、殲滅って意味わかるか」
栗田「いいえ」
林 「皆殺しということだ」
栗田「はい」
林 「わかるか」
栗田「いいえ」
林 「つまり、相手を皆殺しにするまで戦うということだ」
栗田、立て掛けてある猟銃を見る。
栗田「タマの数よりも相手の方が多いんじゃ…」
林、栗田の頭を小突く。
林 「バーカ」
栗田、むっとする。
林 「おれたちはそのための前衛なんだ。前衛ってわかるか? どうせわからんだろうな!」
栗田、何も言わない。
林 「先鋒隊、先駆けっていう意味だ。時勢をつくるんだよ。時の勢いと書く」
栗田「時の、勢い…」
林 「何か勘違いしているようだな。時そのものに勢いがあるわけじゃない。多くの人が『このままじゃいけない』と思うようになることだ。毛沢東の共産党は国民党よりもはるかに小さかった。しかし民衆は共産党に中国の将来を委ねることを望んだ。人民のものは針一本でも奪ってはならないという毛沢東の教えが共産党の隅々にまで浸透していたからだ。共産党がたちまちのうちに中国を統一したのは、人民の海に潜伏できたからだ」
栗田「針一本でも…」
栗田、また猟銃を見る。
林 「(大声で)ああいう銃をプロレタリアートが買うと思うか! どこかのお坊ちゃまがカネにあかせて買いあさって、いたいけな動物たちを殺すんだ! 銃砲店はそんな奴らの出すカネで潤っている。民衆から搾取したカネでな! どこぞのブルジョアの慰みものになるくらいなら、この銃だって革命に使われた方が、これを作ったプロレタリアも満足だろう。鉄砲屋から銃を奪取したのは決して略奪ではない!」
林、栗田に向き直る。
林 「だから我々は前衛として民衆を啓蒙し、あらたな時のうねりを作らなければならない…。わかったか!」
栗田「はい」
林、いきなり栗田のポケットに手をつっこんで財布を取り出す。財布の中から札を何枚か取り出す。
林 「なんにもわかってないじゃないか! 財布にこんなものを入れておくんじゃない! 飯はタダで食えるはずだ。闘争のためにカンパしろ!」
林、栗田に札と財布を押しつける。