第4話 ラーメン屋、生麺を食べる
至高のラーメンを追求する流星の情熱を阻むものはもはやいない。
ドロップアイテムの麺を手に入れるため、一反木綿に挑戦するのだ。一応ステータスを確認しておく。
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人物名 流星
性別 男
種族 人間
職業 料理人 Lv. 5 / 20
体力 14/14
魔力 14/14
攻撃力 15(+1)
防御力 13(+2)
瞬発力 15
魔法攻撃力 9
魔法防御力 9
技術力 19
技能
包丁格闘術Lv. 3
寸胴鍋防御術Lv. 2
ラーメン作成術 Lv. 3
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素材確保のために魔物を狩っていたおかげか、職業レベルが5まで上昇していた。
魔物を狩ると職業レベルが上昇する。最大値は20であり、最初の職業が20になったら他の職業に転職できる。職業レベルが上がるにつれて、ステータスが上昇するので、攻略を進めるなら様々な職業を修めていく必要がある。
流星は料理系統の職業以外に就く気はないが。
料理人はLv. 1毎に攻撃力、防御力、瞬発力が1、技術力が2ずつ上昇する。また、職業によらず、Lv. 1毎に体力、魔力は1ずつ上昇する。料理人Lv. 5となり、それなりに戦えるようになってきた。
技能は該当する技を使えば使うほど、経験値がたまって勝手に上昇していく。魔物を倒さなくても良い。ステータスには関係ないが、システムサポートが入って動きが良くなったり、料理や鍛冶などの質があがったりするらしい。
さて、ボスの一反木綿である。
一反木綿はプレイヤーの種族にも含まれているが、ピーキーな性能なのであまり使用者はいない。
一反木綿は見た目の通り紙装甲であり、防御力が低い。というかレベルを上げても職業によらず1固定のまま、上がることはない。代わりに瞬発力の補正が高く、飛行の技能を最初から持っているため、プレイヤーであれば避けタンクのような立ち回りになる。
PSに自信があるものだけが扱える種族である。
ボスとして出てくるものも、性能は変わらず、防御は低いが、回避しては空から奇襲して来る。
流星は、ラーメンが手に入ると思うとニヤケ顔を止められなかったが、気を引き締めて、一反木綿のボスエリアに侵入する。
♪ドロドロドロドロ
ボス特有のBGMが流れてきた。
一反木綿が登場する。
50cmほどの高さに浮かんだ、1.5mほどの長さの灰色の布。
一反木綿という妖怪なのだから、小汚いかと思っていたが、洗濯したばかりのようにピカピカである。アイロンかけてあるのかというくらいパリッパリでもある。そして布の上部に描かれた顔は、割とイケメンである。
流星は少しイラッと来た。
先手必勝とばかりにステップを踏み出し、包丁を横なぎに払って攻撃を仕掛ける。
一反木綿は背後にバックステップを踏んで回避した。(浮かんでいるのでステップも何もないが。)
「確かにボスだけあって素早いんだな。けど日隈さんに鍛えられた俺の動体視力をなめたら痛い目を見るぜ!」
流星は包丁を逆手に持ち替え、追撃とばかりにさらに踏み込んだ。
もう一度右から左へ横なぎに払っての攻撃を仕掛けるも、一反木綿はバク宙をして回避する。
回避モーションを見ながら流星は体勢を立て直し、さらに一歩踏み出して裏拳で追撃する。
シッ!
一反木綿の尻尾(?)の部分に拳がかする。
手には包丁を持っているので、かすってもそれなりにダメージが入る。ゲーム処理のおかげである。
ダメージの入った一反木綿がうねうねと動揺した動作を見せている。
この隙を見逃すような流星ではない。
包丁を順手に握り直すと、全身の力を込めてタックルを行う。
その勢いのまま、膝、腰、肩、腕、と全身の力を包丁に乗せ、殺意のこもった一撃を放つ。
クリティカル判定となり、もともと紙装甲の一反木綿は二つに割かれてしまう。
こうなると残りの体力もあとわずかだが、ここからがボスの恐ろしいところである。
二つに分かれた一反木綿は、小さくなった分さらに速くなり、しかもそれぞれが独立した思考で行動するのだ。
♪デロデロデロデロ
BGMも変化し、ボス戦が佳境に入ったことを知らせる。
右から片割れが攻撃してくると思いきや、もう片方が後ろに回って死角から攻めてくる。
速くなっただけあり、流星もついていくのがやっとである。
2体の攻撃に翻弄される流星。
だが、流星は不敵に笑っていた。
「確かにお前らは速い。だが俺は日隈さんの訓練では子鹿3頭相手に戦闘訓練をさせられているんだ。同時攻撃なんて慣れてるんだよ!」
ムカ着火ボルケーノ店主日隈は、本場インドで修行をしたヨガマスターだけあり、普通の人間ではない。それにしても、ラーメン屋のアルバイトの業務に、普通は戦闘訓練が含まれていない。疑問を感じずに訓練に付き合っていた流星は、やはり天然である。
2体の気配を察知しつつ、片方の一反木綿のタックルに対し、寸胴鍋で防御をし、死角から攻めてくるもう片方をかわしつつ包丁で切りつける。
ゴリッ!
片方の一反木綿がポリゴンとなって消滅していく。
残った一反木綿は冷静に対処すれば倒せるだろう。
「ふっ!」
「ほっ!」
「はっ!」
流星は一反木綿をかわしてはカウンターを仕掛ける。なかなか当たらない。
踏み込みすぎた隙を見逃さず、一反木綿は体当たりをしてくる。
「アーッ」
一発もらってしまった。流星のHPは残り5である。
一反木綿の追撃が来る。
「やぁっ!」
一反木綿のタックルを紙一重でかわして、きれいにカウンターが決まった。
ザシュ!
ポリゴンとなって消滅した一反木綿の片割れ。
そこには、ドロップアイテムのうどんが残っていた。
「え? なんでやねん」
思わず似非関西弁でツッコミを入れる流星。
そう、一反木綿の通常ドロップはラーメンなのだが、レアドロップでうどんやそばが落ちる。
普通はレアドロップだと運が良いと思うだろうが、流星はラーメンが作りたいのだ。
「またやりなおしかよ!」
とりあえず第2の街「暗黒街」に行き、移動可能な拠点の更新をした流星。
道を戻ってひたすら一反木綿狩りである。
夕霧オンラインでは、ボス撃破後に再度ボスエリアに入る度に、リポップさせるかどうかを選ぶことができる。リポップのクールタイムは、特殊ボスを除いてゼロ分である。
意外と手ごわいイケメン一反木綿の攻撃をかわし切れず、何度か死に戻りしたものの、流星はラーメンを60食分集めた。ちなみに、麺は1回の戦闘で20食分ドロップする。
ちなみに、最近始めた初心者には、新規ユーザー歓迎キャンペーンのブーストアイテムが支給されているのだが、運営のお知らせ欄を見ていないため、流星は気づいていない。
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特殊所持品(運営のお知らせ欄から受け取ってね!)
初心者限定ブースト薬(1時間体力魔力が減少しない)×100(※第30の街に着くと消滅する)
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具材を集めた流星は、自分のラーメン屋に戻りさっそくラーメンの試食である。
「そもそも、麺の状態でドロップアイテム扱いなら、スープだけ作って持ち歩けば、出先で伸びてない麺を食べられるんじゃないか?」
思い付きを試してみる流星。
味噌ラーメンのスープを作り、麺をゆでずに投入する。
それっぽいものが完成した。
麺をすくい、口に含む。咀嚼する流星。
そして理解する。
「生じゃねぇか!」
粉おとしどころではなかった。
夕霧オンラインのラーメン狂いプロデューサー千村(通称CMR)のこだわりを舐めてはいけない。茹でていないラーメンは生のままなのである。そもそもそろそろ3年を迎えるゲームなのだから、その程度の発想は誰か試しているだろう。
攻略wikiにも運営に問い合わせたユーザーのやり取りが書き込まれている。
ユーザー:ラーメンが麺のままドロップするんだから、茹でずにスープに突っ込んでも食えるようにしてほしい。
CMR:飛ばない豚がただの豚であるように、茹でない麺は生麺なんですよ。茹でてください。
こうしてラーメン屋は(料理屋の中では)不遇職となったのだ。この状況は3年たっても変わっていない。
ともあれ、ラーメンの材料は最低限そろった。
本格的に味噌ラーメンの試作と行こうじゃないか。
CMRはもちろん、みんな大好きなあの人が元ネタなのですが、特に他意はないです。むしろ私は氏の手がけるゲームに相当貢いできたので感謝しています。
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人物名 流星
性別 男
種族 人間
職業 料理人 Lv. 6 / 20
体力 15/15
魔力 15/15
攻撃力 16(+1)
防御力 14(+2)
瞬発力 16
魔法攻撃力 9
魔法防御力 9
技術力 21
装備
頭:なし
武器:包丁(攻撃力+1)
盾:寸胴鍋(防御力+1)
胴:エプロン(防御力+1)
手:なし
足:なし
装身具:なし
技能
包丁格闘術Lv. 4
寸胴鍋防御術Lv. 2
ラーメン作成術 Lv. 3
所持金
0イェン
店舗
「楼閣街」Z9地点(名称:未決定)
所持品
味噌×30、しょうゆ×16、ナルト×14、メンマ×20、酢×8、みりん×7、酒×1、ラーメン×59、うどん×20
移動可能な拠点
楼閣街、暗黒街
特殊所持品(運営のお知らせ欄から受け取る必要があり、流星は気づいていない)
初心者限定ブースト薬(1時間体力魔力が減少しない)×100(※第30の街に着くと消滅する)
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