第3話 ラーメン屋、冒険に出る
冒険に出発する流星。
買えばいいという説もあるが、今は全財産を店に突っ込んだため無一文である。それに、せっかくのVRMMOなので、魔物退治もしてみたい。
「まずは味噌ラーメンの材料からだな」
味噌は、入れればうまみを引き出すことがたやすいので、素人にもおすすめしやすい。塩ラーメンなどは、味の調整に苦労するので、素人にはおすすめできない。(※あっさりラーメン派の流星の偏見)
夕霧オンラインでは、きちんと最初の街で味噌や醤油、みりんなどの調味料がそろうようになっている。準和風を名乗るだけある。
味噌や醤油はゴブリンがドロップする。ゴブリンは調味料を作成する知性があるらしい。
砂糖は小豆洗い、塩はソルトビーという蜂の魔物がドロップする。塩は肉にかけて使う人が多いのか、普通に店でも買えるが。
みりん、酢はイエロースライムのドロップアイテムである。
イエロースライムは、小さいジャムを入れるようなビンに、でろでろの黄色い液体が入った魔物である。見た目はただのハチミツ入りのビンである。
攻略wikiを見たところ、ビンを割ると倒せるらしい。スライムというかもはやビンの魔物なのでは、とはwiki編集者の感想である。
ちなみにイエロースライムのレアドロップは酒である。
他にも、ぐるぐる、という名前の、ナルトをドロップするモンスターや、メンマをドロップするタケノコ型のモンスターなどがいる。
流星が街を出て道を歩いていると、まずゴブリンに遭遇した。
流星は叫ぶ。
「味噌よこせオラァ」
ガラが悪い。
これはラーメン屋「ムカ着火ボルケーノ」で働いていたせいである。
戦闘狂な店主のガラの悪さが移ってしまったのだ。
リアルでの流星は、見た目ヤンキー寄りだが、特にヤンキーというわけではなかった。リアルではタバコを吸ったことはない。料理人は味覚が大切なため、タバコで味覚が悪くなるのを避けているからだ。
バイクは出前用に免許を取得したものの、法定速度を守った運転でしか乗ったことがない。飛ばしてラーメンをこぼしても申し訳ないからだ。ラーメンに一途な漢である。
ラーメンのため、ゴブリンに向かって何のためらいもなく右手の包丁(武器)を振りかざす流星。
ヨガを究めた「ムカ着火ボルケーノ」店主日隈に習った通り、殺意を込めたい場合は、包丁の刃を上に向けてある。
ゴブリンは振りかざした包丁を防御することはできなかった。
「ぐぎゃ!」
心臓を一突き、刺さった瞬間、包丁は淡く黄色く光った。クリティカル判定である。ゴブリンのHPはゼロとなった。
初めての戦闘とは思えないほど、ゴブリンはあっさりと倒せた。
やはり本格派のヨガはすごい、と思った流星である。
ゴブリンの死体が消滅し、ドロップアイテムが残る。ドロップアイテムは近づけば自動的に回収されるので、拾う必要はない。
今回は味噌が落ちた。
「日隈さんの日頃の訓練のおかげだな」
ラーメン屋のアルバイトが、戦闘訓練を日常的に行っていることに疑問を感じない。流星は少々天然であった。
少し歩くと、白地に赤い模様の魔物が現れた。どう見ても薄切りのナルトに手足が生えただけである。これが「ぐるぐる」だろう。
「ひゃっほおおい! ナルトだああああ! オラァ!」
これも包丁で刺して倒せた。包丁は万能である。
今度はナルトがドロップした。
さらに先にはタケノコに足が生えた魔物が現れた。「里の者」という名前らしい。
流星はためらいがない。遭遇即包丁である。
タケノコはメンマに変わった。包丁は万能である。
これだけ戦闘が楽に終わるのも、やはりヨガのおかげであろう。ヨガすげぇ。
しばらくゴブリンやぐるぐる、里の者を包丁で狩った流星だったが、ようやく転がり回るハチミツビン、もとい、イエロースライムに遭遇した。
イエロースライムに包丁で突撃する流星。
イエロースライムのビンは思いのほか固く、包丁でのダメージが通りにくい。
イエロースライムが中身をぶちまけてくる。
頭から黄色い液体をかぶってしまう。
「酸っぱ!」
流星は3ダメージを受け、酸の状態になってしまった。
酸は10秒毎に最大HPの1%(切り上げ)をダメージとして受ける。切り上げなので、HPが低い序盤では1ダメージ固定となり、もはや10%継続ダメージとなる。残りの体力を勘案すると70秒で死ぬ。
イエロースライムは状態異常攻撃をしてくる序盤の強敵である。
ただ、中身をぶちまけてくるだけあって、酸攻撃は2回しか放ってこない。2回避ければあとは殴るだけで倒せる魔物に変わる。
避けられないと流星のように苦戦するのだが。
流星は酸状態になった焦りからか、何度か包丁で攻撃するも、ころころと転がるハチミツビンにうまく攻撃が当てられない。
そうこうしているうちに70秒が経過、流星は死に戻った。
流星はタンスに小指をぶつけた程度の痛みを感じ、視界が暗転するのを感じた。
「ぐあっ」
流星は最初の街「楼閣街」の復活地点に戻っていた。
夕霧オンラインのデスペナルティは所持金の減少と、一定時間のステータス減少である。
所持金は使い切ったので特に問題ではない。ゼロから何をひかれてもゼロである。
ステータス減少も3回まではゲーム内時間で5分なので、気にする必要はない。4回目からはゲーム内時間で1時間となり、やや面倒になる。
「イエロースライムは案外固いし、見た目の割に動きが早いな」
包丁がダメならどうすべきか。
少し考えたが、ビンを割ればいいことに気が付いた流星は、ある方法を試すことにした。
イエロースライムを探す流星。うろうろしているうちにデスペナルティのステータス減少時間が経過した。
運が良いことに、すぐにハチミツビンが転がるのを見つけた。
「先手必勝! 日隈さん仕込みのタックルをくらえ!」
流星は、寸胴鍋を前に構えてそのまま体当たりをする。
ガツン!
イエロースライムのビンにひびが入り、目に見えてダメージが入った。
シールドバッシュのようなものであるが、装備は寸胴鍋である。ハチミツビンが開かずにキレたヤンキーが鍋で殴っているかのような光景である。
「オラァ!」
再び体当たりを繰り出す。
バチッと音がしてヒットし、ハチミツビンのひびが広がる。
「そぉい!」
さらなる体当たり。
しかしハチミツビンには当たらない。
「どっこい、しょ!」
……。
寸胴鍋体当たりを繰り返し、流星はイエロースライムを討伐した。
酢がドロップした。
作戦が上手くいって気を良くした流星は、酒がドロップするまでイエロースライムを討伐し続けた。
酒は味噌ラーメンに必須ではないのだが、最初のラーメン作成時に一人で乾杯をしたいので、意地になって狩った。
酒を手に入れた流星は、さらに先に進む。
第2の街「暗黒街」に入るためのボス、一反木綿の前までたどり着いた。
一反木綿からは麺がドロップする。ラーメンとは限らないが。
ラーメン作成まであと少し。流星は気を引き締めた。
流星はラーメンを作りたいだけなので、ステータスをあまり確認しません。
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人物名 流星
性別 男
種族 人間
職業 料理人 Lv. 5 / 20
体力 14/14
魔力 14/14
攻撃力 15(+1)
防御力 13(+2)
瞬発力 15
魔法攻撃力 9
魔法防御力 9
技術力 19
装備
頭:なし
武器:包丁(攻撃力+1)
盾:寸胴鍋(防御力+1)
胴:エプロン(防御力+1)
手:なし
足:なし
装身具:なし
技能
包丁格闘術Lv. 3
寸胴鍋防御術Lv. 2
ラーメン作成術 Lv. 3
所持金
0イェン
店舗
「楼閣街」Z9地点(名称:未決定)
所持品
味噌×31、しょうゆ×16、ナルト×15、メンマ×21、酢×8、みりん×7、酒×1
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