番外編1 熊野郎、狂乱のPVP戦
第17話で書かなかったPVP戦の様子です。
夕霧オンライン3周年記念イベント第一弾、PVPイベントの当日となった。ステータスALL50戦は、初心者級プレイヤーの部門であることから、勝敗が予測しづらく、賭け事の対象とするにはもってこいである。
ただ、今回は、予想外の波乱の展開となったため、賭けは荒れに荒れた。
現実世界でも五本の指にはいるだろう最強最悪の戦闘狂、日隈喜朗、プレイヤー名「熊野郎」が参戦したためである。
一次職で料理人を選んだ際の初期装備は、武器は包丁、防具はエプロンであるが、特に理由もなく装備から外し、腰にラーメンを湯切るためのラーメンてぼを身に着けただけの大男のアバターを見て、賭けようと思ったものは少なかった。
ただ、試合が始まると、尋常ではない殺気を放ち、観客も出場者も、彼が只者ではないことを察した。かわいそうな第1回戦の対戦者は、自分が失禁していないか、思わず確認してしまうほどだった。
気圧されずに戦い抜いた、妖狐の戦士に拍手を送ってほしい。
なお、妖狐の戦士は、熊野郎のサンドバッグとしてあっさり散っていった。
熊野郎がALL50戦に出場したのは、単に装備やアイテムで差が出にくい部門だからである。初心者同士であれば、上級装備や無尽蔵に近いアイテムを使ったハメ殺しをしてくるプレイヤーが少なく、純粋にプレイヤースキルのみで戦う熊野郎でも、長く試合を楽しめる。
第2回戦は、優勝候補の、物理攻撃特化型の一反木綿が相手である。
初手から、高く飛び上がり、熊野郎の目線が太陽と重なるような位置で、一反木綿が降下してくる。
優勝候補のプレイヤーだけあり、かなり考えた攻撃方法である。並みの初心者プレイヤーであれば、攻撃をかわすことは難しいだろう。
害獣ハンターである熊野郎は、戦闘狂ではあるが、狩りを行う前の下調べはきっちり行う。初心者同士の試合では、一反木綿の種族的に有利だということも調べてある。
もちろん、対策があることも調査済みである。
熊野郎は目をつむり、気配だけで一反木綿をとらえ、ラーメンてぼに押し込んだ。
間髪入れずに、湯切りにつなげる。
夕霧オンラインの技能や職業による動作サポートは、現実で可能な動きのサポートであるから、現実で可能な動きは、始めたばかりの初心者でも再現が可能である。
熊野郎は、技名を叫びつつ、湯切りを開始する。
「粉落とし、天地狂乱機神湯切り」
天地狂乱機神湯切り
日隈の膂力を活用し、粉落としの麺に強引に湯切りを行う、日隈の得意技である。粉落としにそれほどの湯切りが必要なのかは、神のみぞ知る。
湯切り攻撃特攻の麺類たる一反木綿は、あっけなく一撃で死亡した。
番狂わせの展開に、観客席からは大きな歓声が聞こえる。
「妖怪による空からの奇襲なんて、現実では味わえねぇからな。この緊張感、たまらねぇぜ」
狂人はおぞましい笑みを浮かべつつ、対戦相手を次々に蹂躙していく。
準決勝では、日隈も驚嘆するほどの圧倒的な戦闘センスを見せた、雌ゴリラのプレイヤーとの乱打戦を制して、ついに決勝である。
決勝の相手は、遠距離魔法特化の一反木綿プレイヤー「モンペ」である。
今まで戦ってきた一反木綿と異なり、魔法による遠距離攻撃を上空から放ってくるため、湯切りによる即殺が不可能である。
装備もほとんどない熊野郎を見て、ジャンプで届かない高さの上空に退避し、容赦なく極大魔法を準備するモンペであった。
職業「手妻師」の極大魔法「満天花火」は魔力(MP)の消費量とチャージ時間で威力が変動する。
MP全部と15秒のチャージで、魔法防御特化装備にしていてもぎりぎり50削れるほどの威力となる。
優勝はモンペだろうと、観客もモンペ自身も思ったが、熊野郎は不敵に笑った。
戦闘スペースの床を素手で殴りつけ、大きく破壊する。
ALL50のステータスとは思えない破壊力に、観客は驚くが、種を明かせば、これまでのトーナメントでダメージが蓄積された箇所を狙ってぶち抜いたに過ぎない。
トーナメントを盛り上げるため、床が破壊可能なオブジェクトであることは確認済みである。
大ダメージ技を使ったあとは、床が欠けたり、ひびが入ったりしているうえ、トーナメントに支障がない限り、修復もされていない。
熊野郎は、戦闘狂ではあるが、戦闘センスだけで戦ってきたわけではない。
観察力ととっさの機転がなければ、謎生物の多いこの世界で害獣ハンターなどできない。
破壊されてできた床から、1m四方の大きな破片を拾うと、上空に投げ、自身も飛び上がった。
破片を踏み台に二段ジャンプを決行、破片は粉々に砕け散るが、熊野郎は普通に飛ぶより高い位置まで上昇することに成功した。
右手のラーメンてぼがモンペにかする位置にあるが、網に入れるにはやや足りない。
熊野郎が顔を左に向けて右手の可動範囲を伸ばす。
ぎりぎりモンペにラーメンてぼが届く。
完全にとらえた。
体勢を整え、湯切る準備をしながら、熊野郎はつぶやく。
「せっかくだから、ラーメン屋をしているときには使えなかった、フルパワーの湯切りを見せてやるよ。終焉流星群」
終焉流星群
技名から湯切りという文字すら捨てていることからわかるように、もはや湯切りという概念を超え、単なる破壊としての意味しか持たない最悪の湯切りである。
人体の限界を研究しつくしたその動きで、1秒間に18回という驚異的な上下運動で湯切りを行うため、これを行うとラーメンは完全粉砕されて、客に出すことはできなくなる。
己の限界に挑戦した日隈だけが生み出した、究極のラーメン術である。
ラーメン屋で披露する機会は未来永劫ないが。
もちろん対戦相手のモンペは一撃で死亡である。オーバーキルもいいところである。
実況の声が響く。
「優勝は、熊野郎選手です!!!!」
すさまじい歓声の中、戦闘狂は、人間サイズの敵には満足したし、大型の敵と殺りあいてぇなぁ、などと考えていた。
トーナメントが終わり、優勝のアイテムをもらった熊野郎は、元弟子の出店を探しにコロシアムの外に出るのだった。
湯切りに厨二技をつけるのは師匠譲りだという話でした。
湯切りを行うときに技名を叫ぶラーメン屋、普通に楽しそうだと思います。




