第2話 ラーメン屋、ラーメン屋で働く
ラーメン屋を作るためには、道具が必要であり、店が必要である。
つまり、金が必要である。世知辛い世の中である。ゲームだが。
とにかく、この手のゲームは、何をするにも、まずは金策である。
最初の街「楼閣街」の周辺に出現するモンスターを狩って、素材を売るのが金策の基本である。古事記にもそう書いてある。
だが流星はそんなことはしない。
一にラーメン、二にラーメン、三四もラーメン、五に餃子である。
流星は「楼閣街」のラーメン屋を巡った。「楼閣街」は最初の街であり、周辺のモンスターのドロップアイテムもラーメン関連であるから、ラーメン屋自体は少なくない。
だが、多いからと言ってうまい店があるわけでもない。可もなく不可もない店ばかりであった。
夕霧オンラインでは、料理人の作った料理を食べると一定時間強化効果があり、冒険に出かけるまえは腹ごしらえが基本である。古事記には書いていないが、攻略wikiにはそう書いてある。
ただ、数ある料理の中でもラーメンだけはなぜかリアル準拠になっており、作ってから時間が経つと麺が伸びてしまう。注文を受けてから作るラーメン屋もあるが、作り終わるまでに若干時間がかかることで、出来合いのものを販売するおにぎり屋やサンドイッチ屋、ケーキ屋、さらには乾物屋にすら人気で勝てていない。
結果、出来合いの伸びたラーメンを出す店が多く、微妙な味の店ばかりなのだ。
手あたり次第ラーメンを食べ歩く流星だったが、これはうまい、と思う店には出会えなかった。食べ歩きの結果、所持金は残り1000イェンになってしまったが、食べた中で一番マシだった店「リーマン麺」でアルバイトする約束を取り付けた。
しかも、普段はのっぺらぼうのNPCが伸びたラーメンを売っているが、流星のアルバイト中は、客が許せばその場で作ってもいい、と店主から確約を得た。
幸先が良いことこの上ない。
流星は、のっぺらぼう先輩に夕霧オンラインでのラーメン作成方法を教わることにした。
「のっぺらぼう先輩よろしくお願いします!」
流星は見た目ヤンキーのわりには礼儀正しい。伊達に現実でラーメン屋を渡り歩いていない。
のっぺらぼう先輩の説明は次の通りだった。
注文を受けたらまず、麺をゆでる。夕霧オンラインでは1秒で粉おとし、2秒でハリガネ、3秒でバリカタ、5秒で普通、7秒でやわめと設定されている。
客の好みに合わせて麺をゆでたあとは、湯切りをし、スープを入れ、具を入れていく。
この作業は夕霧オンラインの並の料理人でも手早く終えても湯切りに30秒、スープと具のセットで1分ほどかかる。
だが、流星は現実でもプロのラーメン屋である。何度か試した結果、VRMMO内であることを踏まえても湯切り2秒、スープと具のセットに2秒という実に驚異的なスピードで終えることができた。
これであれば客を待たせずにラーメンを提供できるため、ラーメン屋として活躍できるだろう。
調理成功のゲーム内エフェクト表示を安定して出せるようになったので、ゲーム内アルバイト開始である。
さっそく、猪顔の獣人が来店した。
「ぶふ、おや、いつものNPCじゃないんだな、ぶふ。というかその顔、もしかしてボルケーノの尾白氏か? ぶふ」
鼻息荒いその話し方で、流星は誰か気が付いた。
「もしかして、ボルケーノ常連の樫田さんか? あと夕霧オンラインでは『流星』って呼んでくれ」
「ぶふ、いかにも。拙者は夕霧オンラインでは『オークデン』と名乗っているでござる。ぶふ」
ほぼ本名だがいいのだろうか、と思った流星だったが、よく考えると自身も本名そのままである。
「樫だけに種族はオークってか。凝ってるな!」
「これは猪八戒でござるよ、ぶふ」
オークデンは鼻息荒く主張する。
「あっ、そうなのか、そりゃすまねぇな」
正直どっちでもいい。
「尾白氏、おっと流星が作るなら作り置きではなく、今作ってもらうでござる。醤油ラーメンひとつ! バリカタで! ぶふ」
オークデンが注文をする。
流星はさっそく調理に取り掛かる。
ラーメンを3秒(バリカタの時間)ゆでたら、流星の得意技の出番である。
流星湯切り
流星が現実のラーメン屋で培った、麺の状態に合わせてミリ単位で振り下ろしを調整した完璧な湯切りである。これにより、ゲーム内でも他に類を見ない超高速で湯切り処理がされる。
湯切りを終えたら、スープを入れ、具材を入れる。
現実のラーメン屋で培った、具材セットに最適化された動きは、ラーメン作成術 Lv. 3の技能の補助もあり、2秒という驚異的なスピードが実現されている。もはや芸術と言える。
「へい、お待ち!」
オークデンも驚きを隠せない。
「流星、流石だべ。そんな早業でラーメンを作れる料理人なんてみたことがねぇべ、でござる、ぶふ」
オークデンもついオタク口調を忘れてしまうほどの速さであった。そのオタクキャラ設定はない方が良いのではないか、と流星は思ったが口には出さない。
「おう、伊達にラーメン屋やってねぇよ。とりあえず、しばらくこの店でアルバイトをして、いずれ店を持とうと思ってんだ!」
「流星が自分の店を持ったら、絶対行かせてもらうでござる。久しぶりに伸びてないラーメンを夕霧オンラインで食べたでござる、ぶふ」
そう言ってオークデンはラーメンを食べ、満足そうな顔で金を払って冒険に出かけて行く。
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夕霧オンライン 食べ歩きスレ 596
1 名無しの侍
夕霧オンライン内の食事についての雑談を書き込んで下さい。
現在バフ効果No.1 は第3の街「慟哭街」で営業中の「おにぎりや 鉄」具によってどれかのステータスが5%アップするぞ! 具の効果は専用スレを見てくれ!
おにぎり屋 鉄 専スレ55 URL:~~
良い子のみんな、ラーメンはどの店も伸びてるから要注意だ!
次スレ >>980
~~
25 名無しの猪八戒
【朗報】ラーメン界に革命
最初の街「楼閣街」の「リーマン麺」で出来立てがすぐ食べられるでござる。
26 名無しの一反木綿
>>25 はいはい(3分待てば)すぐ食える食える
27 名無しの侍
>>25できたて(伸び伸び)
28 名無しの剣豪
>>25まあそれが本当なら革命だが……。システム上2分弱かかるんじゃなかったか?
29 名無しの猪八戒
ござる……。まあ信じなくてもいいでござるよ。あんまり混んでも拙者が行きにくくなるだけでござるし。
30 名無しの妖狐
のっぺらぼうのNPCの店だっけ。暇なときいってみようかな。
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オークデンが広めてくれたのか、超高速のラーメン作成が評判を呼んだらしく、流星の(ゲーム内の)アルバイト先はやがて評判になっていく。
アルバイト3日目(ゲーム内時間)以降、どんどん客が増えるにつれ、流星も流星湯切りだけでは対応がしきれなくなってきた。
こうなれば、さらなる必殺技を解禁せざるを得ない。
両手での流星湯切り。これで湯切りの速度が2倍になるため、2人までの同時注文をこなせる。盛り付けは2倍になってもほぼ効率は変わらない。
しかも、流星の本気はこんなものではない。調理にも慣れてきたし、もっと高みに登れるだろう。
三連流星湯切り
3人までの同時注文をこなせる流星の得意業である。これは現実でもやっている。
そして超高速の盛り付けである。人数が増えても盛り付け作業は特に変わらないので、技名はつけていない。
「うおおおおお!」
流星の湯切りテクニック、そして盛り付けの鮮やかさにギャラリーが感嘆の声を上げる。
三連流星湯切りを披露したおかげか、4日目(ゲーム内時間)からはさらに客足が増えてきた。
ムカ着火ボルケーノでも見たことがないほどの行列になっている。
ここは最終奥義の出番であろう。
覇王流星湯切り
8人までの同時注文をこなせる流星の最終奥義である。右手で4つ、左手で4つ、湯切りを同時に行うことができる。さすがに現実ではできない。ラーメン作成術 Lv. 3のシステム補助のおかげである。
8人分のスープ、具材の盛り付けをせこせこと行った流星は、ガンガン注文をさばいていく。
こうしてそのパフォーマンスとともに評判となったラーメン屋「リーマン麺」で2週間(ゲーム内時間)働いた流星は、たんまりとボーナスをもらったおかげで、自分の店を持てるほどにイェンがたまったのだった。
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人物名 流星
性別 男
種族 人間
職業 料理人
所持金
100,000イェン
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最初の街「楼閣街」の商業スペース、一番端の店舗を50,000イェンで購入する。さらに雑貨店に行き、ラーメン用の調理用具と家具、こちらも合計50,000イェンで購入する。
自分の店が持てるとなれば、あとはラーメンの研究である。
いよいよ流星も冒険の時だ。
ステータス
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人物名 流星
性別 男
種族 人間
職業 料理人 Lv. 1 / 20
体力 10/10
魔力 10/10
攻撃力 11(+1)
防御力 9(+2)
瞬発力 11
魔法攻撃力 9
魔法防御力 9
技術力 11
装備
頭:なし
武器:包丁(攻撃力+1)
盾:寸胴鍋(防御力+1)
胴:エプロン(防御力+1)
手:なし
足:なし
装身具:なし
技能
包丁格闘術Lv. 1
寸胴鍋防御術Lv. 1
ラーメン作成術 Lv. 3
所持金
0イェン
店舗
「楼閣街」Z9地点(名称:未決定)
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